第149話
纏わりつく大気を掻き分けて宝玉に突っ込んだ。
木っ端微塵に四散する宝玉は思ったよりも柔らかく、勢いは減ったものの止まれずに部屋の中に入ることになってしまった。
――――魔法が?!
支えを失った模型のように崩れていく黒い餓者髑髏を下に見ながら空中で姿勢制御を試みる。
くっ! な、何か?! ……あ、あれ?
近付いてくる地面に恐怖を感じながらも、無駄な抵抗とばかりに強化魔法を使用すると……残り少なくなった魔力で手応えを感じた。
使える? 魔法が使えるんだけど?
考えている時間はなく、膝を曲げて衝撃に備えた。
砲丸の玉が落ちるような音を響かせながら地面に罅を入れて無事に着地。
両強化の三倍が、きちんと発動している。
持っていかれた魔力は五割程度だろうか? 記憶に僅かに残る四倍使用時の魔力は七割以上と感じていたのだが……。
魔力の総量が三割を切った体が、酷い筋肉痛や頭痛を訴えている。
……横になりたい。
今はそれどころではないと分かっているのだが、地面を見ていると誘われそうになる。
気合いを再注入して顔を上げると、辺りを窺った。
崩落する岩盤よりも重い音を響かせて落ちてくる黒い骨を、中に残っていた冒険者達が必死で避けている。
どうやらあの巨大スケルトンは倒せたらしい。
ポニーテールの
あとは冒険者に任せても問題ないだろう。
バーゼルとドゥルガが随分と力を残していることは、なんとなく感じ取れたし……。
土煙を巻き上げる崩落の様を見ながら、怪我人でも探そうかと視線を彷徨わせていると――反対側にも同じような大扉があり、また開かれているのが見えた。
…………あ、開いてる。
深く考えることなく、その扉に向かった。
もう冒険者を助けるとか黒ローブ共を倒すとかいう意識は既に無かった。
殴るとか説教するとかも特になく…………ただただ帰りたかった。
手軽にセーブ出来るゲームではないのだ。
疲れたからと途中で抜けるなんてことは出来ず、この十日間は本当に神経をすり減らした。
もうどうでもいいよ、ダンジョンとか冒険者とか。
俺の役割なんて精々が「ここは名も無い村だよ」とか言うぐらいの子供なのだから。
連れて帰ろう、幼馴染共を。
引き攣れる神経に慮って、強化しているのにゆっくりと歩いていると、大剣を持つ誰かが道を遮った。
……バーゼルさんじゃん……何してんの?
あと少し、あと少しで終わるのだ。
邪魔して欲しくないなぁ。
「……やはり最奥が目的か」
呟いて構えたバーゼルの体から、威圧感のようなものが放たれる。
肩に乗っけた大剣を、いつでも振れると態度が物語っていた。
「
鳴り止まない頭痛や目的の達成が目の前とあって言葉が荒くなる。
マジで頼む。
「……横入りは認められない」
そこをなんとか、堅いこと言うなって。
「……直ぐに済むさ」
ほんのチョロっと……生きてるかどうかの確認するだけだから。
「やって……みるといい!」
言葉尻と共にバーゼルが飛び出してきた。
瞬く間に開いている距離を潰し、大剣を小枝のように振り下ろしてくる。
ああ、やっぱり結構強いな……――なんてことをボンヤリと思った。
ほぼほぼ何も考えることなく大剣を躱し、縦割れする地面を見ながらバーゼルを蹴り飛ばした。
ポニーテールよりも重く、また腕で受けられたが、距離を空けることには成功……………………あ?!
ついつい似たような対応をしてしまった。
地滑りしながら止まったバーゼルは、驚きの表情でこちらを見ている。
今の大剣の衝撃に気付いた冒険者も騒ぎ始めた。
やべ……。
「
ついつい罪を重ねてしまう典型のように逃げの一手。
やっぱり使える、髑髏を倒したからだろうか?
「バカな?! 魔法は――」
なんか驚いている間にとんずらこいた。
爆発的に広がる霧の中を、大扉目掛けて走った。
扉の向こうには、階段からの通路と同じような通路があった。
両脇を不思議な松明に照らされ、向こうには大扉。
今や崩落したことで区別がついて便利だね? ――言ってる場合じゃない。
唯一違いを設けるとしたら、通路の中央にある横道。
……ほんとになんのためにあるのか分からない小部屋だ。
着いた……着いたぞ。
「チャノス、デッド!」
死んでるやん、違う違う。
走りながら叫ぶ。
色々と面倒臭ぇことになったので、もう攫わんばかりに抱えていこう。
強化しているのに上がる息を飲み込む。
……あと少し!
曲がり角を曲がって、直ぐに広がった部屋にある三人に声を掛けた。
「アン――――――――た、……誰?」
「……………………た、助けが……?」
弱々しくフラフラと顔を上げた見知らぬ女に、僅かながらも胸を上下させて寝込む男二人。
そっちも知らない奴だった。
マッシュルームカットの青い髪の男と、茶髪をツンツンに立たせた男……それとボブカットだけど吊り目で気の強そうな少女は、噂にある転移罠を食らったパーティーだろう。
…………ほんとだぁ、情報通りだね。
通路の向こうから歓声と足音が聞こえてきた。
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