第147話
不幸は――畳み掛けるからこそと言わんばかりに。
落とし穴から落ちる前と寸分違わぬ姿で、褐色肌のポニーテールが意気揚々と飛び出してきた。
黒いローブを脱ぎ捨てて、禍々しい大剣を片手に持っている。
ローブの下は白と青の軽鎧姿で、動き易さを重視しているのだと見て取れた。
「ふふふ、予備動作も詠唱も無しかー…………いい、すごくいいね。――気に入りました」
言葉尻と共に足音も静かに飛び掛かってくる。
巨大な骸骨は抜け出さんとした扉が余りにも狭くて咆哮を上げている。
さっきの地揺れは巨大スケルトンが部屋から出るために壁でも叩き割ろうとしたのか、その巨体を壁にぶつけたために起こったそれだろう。
なんせ『大扉』とは言え、あくまで普通の人間基準であって、片手ぐらいしか通らないであろうスケルトンからしたら狭過ぎる穴だ。
しかし腕一本ならと、子供がアリの巣穴を
穴を拡張したいのか、単にアタッているだけなのか微妙なところだが……二階建ての新幹線が突っ込んでくるようなものなのでやめてほしい。
そして油断ならないのが赤眼のチビだ。
残るスケルトンの軍勢の中から、魔力の奔流が見られた。
骨に魔法を撃たせるつもりなのだろう。
魔法には溜めと詠唱が必要だ、まずは餓者髑髏から――
「――だーめ。集中してくれなきゃ?」
充分な距離を保っていたというのに、信じらない加速を見せたアテナが眼前で剣を薙ぐ。
バーゼルのパーティーとの衝突に間に合わない――!
金属が引き千切れるような音を響かせて、餓者髑髏のショートソードが逸れた。
大剣を両手に、振り切った体勢のバーゼルが咆える。
「――押し返せ!」
「「おお!」」
バーゼルのパーティーメンバーがそれに応えて餓者髑髏に襲い掛かった。
――――よし!
首を真横から薙ぐ軌道をとる大剣を掻い潜り、暖簾を持ち上げるように剣身を押し上げ、掌底を放つ。
強い抵抗があったのは、装備のせいなのかなんなのか。
構わずに強引に押し出した。
ふっ飛ばされるアテナの結果を見届けず、魔力が奔流となり立ち昇り始めたスケルトン目掛けて疾走する。
……連携取るなや、モブ魔物のくせに!
それを邪魔せんとばかりの進路を取るスケルトンを、魔石を砕く時間すら惜しんで躱していく。
速度で勝てないと見るや物量と面で対抗してくるってなんなの?! お前らもっと野性的だったじゃねえか?! どう考えても自律してないよねえ?!
集中力を上げて静止した時間の中を動こうとも、動きに付いてこれたポニテと、肉体が無いくせに肉盾となるスケルトンに苛つく。
ならこれで――!
盾を構えて邪魔をするスケルトンを足場に、指揮者よろしく指を振って風の刃を飛ばしていく。
動かない標的に強化した感覚なら外すことはなく、魔力を迸らせていたスケルトンの魔石を砕くことに成功した。
解けた魔力が霧散していく。
魔力の線が繋がっていたことから、どうやらスケルトンを複数使った魔法だったようだが……もはや見ることは適わない。
追加されては堪らないと、足場にしたスケルトンを含め他のスケルトンも魔石を一撃で砕いて倒していく。
餓者髑髏の方はバーゼル達が良い仕事をしてくれている。
中に残った攻略パーティーを内応させて攻めているようだ。
「見えてる?」
こちらをジッと観察するように見ていた赤眼がボソリと呟いた言葉に、肝が冷える。
「あぁ~~いい、いい、いい、すっっごくイイ! ちょっとタナちゃん骨退けてくれない? シチュエーションが悪いよ。私、出来れば彼と二人きりになりたい」
暗闇から出てきたアテナが恍惚とした表情で言った。
誰のことかな? ああ、バーゼルさんだよな勿論。
邪魔しちゃ悪いし、ここは当人同士で……なんて言えたらなぁ。
赤眼が呟く。
「おかしい」
全く同感だね。
「何が?」
自分のイカレ具合に気付いていないサイコパスポニーテールが病んだ感じで首を傾げる。
……ひええ。
聞こえる距離だと思ってないのか、強化された聴覚が二人の会話を拾ってくる。
「スケルトンを一撃で倒してる」
「私も出来るけど?」
「魔法を使おうとしたスケルトンを見抜いた」
「タナちゃんが過保護したからじゃない?」
「エア・カッターにフレイム・ピラー」
「手練れなら自分の属性以外でも……あ、でも」
「たぶん『氣』。ありえない」
「そっかー……確かにありえない。つまり…………ありえないほど極上のご馳走ってことじゃん」
なんだ? 何言ってんだ?
大盾を持つスケルトンを力技で攻略しつつ、弓を撃ってくるスケルトンにお返しとばかりに掴んだ矢を投げ返す。
さすがに減ってきたスケルトンだが、僅かに溢れた個体がバーゼルの元へと向かう。
させじと双子が参戦し……何故かライナスがドゥルガにぶっ飛ばされている。
状況は好転しているのかどうか分からない。
目下ドッカンドッカンうるさい巨大な髑髏がいるせいだろう。
となると、やはり赤眼をどうにかしたい。
先程から場を搔き乱すことに関しちゃ右に出る者はいない赤眼が、再び手の平を持ち上げた。
「試してみる。『起きろ』」
その言葉に――血溜まりの中に伏せっていた見知らぬ冒険者達が立ち上がった。
胸に赤黒い跡を残し、青白い顔のまま無表情に。
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