第143話
ショートソードを掲げて迫るスケルトンを見て一つ――息を吐く。
随分と熟れた感がある、体の感覚の入れ替えを瞬時に行う。
遮蔽物さえ無ければ、スケルトンの体を覆う魔力の流れを目視出来る。
頭蓋骨、脊柱、尾骶骨、大腿骨、とそれぞれに違った魔力の噴出点とも言える場所が見えた。
そこに魔石が埋まっているのだろう。
見敵必殺である。
もしかしたら勿体ないことをしているのでは? なんて考えなくもないが……うんざりする程いるスケルトンを前にしたら守銭奴根性も霞むのだ。
握り拳を魔石が埋まっているであろう場所に叩き込んでいく。
重ね掛けの出力が三倍ともなれば、相手になるスケルトンはいなかった。
突き出されたレイピアを躱し、カウンターの要領で顎にある魔石を叩き割る。
拳で弾幕を張り、その一つ一つが適宜魔石を砕いていく。
流し、放ち、廻し、撃ち――しかしスケルトンの群れが途切れることはない。
物量で押し潰さんばかりに、後から後から増えていく。
「……なんだこれ? 明らかに異常なんだが?」
呟いて大上段から大剣を振り下ろそうとするスケルトンの腰骨を蹴り砕く。
魔石を砕かれたスケルトンは、別に消えるわけでもなく……ただただ積み重なっていくので邪魔でしょうがない。
随分と感覚を惑わされるが、腹を裂かれた冒険者がいるパーティー以外は、早々にこちらの感知範囲からは抜け出たと思われる。
あっぱれな逃げ足である……見習いたい。
逃げ遅れているパーティーは、突破すれば安全地帯への通路へ一直線かと思われるのだが……その通路すら半日掛けて踏破するレベルなのだ。
いずれは捕まるが必定。
「ここを片付けて追い掛けるか……」
かと言って直ぐに追うべきかと言われると、そこまでお人好しでもない。
このスケルトンの群れを放置したらダンジョンの攻略に差し支えるかもしれないのだ。
この群れの殲滅が最優先事項だろう。
……置いていかれたから、なんて私怨は一切入っていない。
勿論だ。
運搬役が元来た道を引き返す形で逃げているので、下手したら攻略中のパーティーに助力を頼むかもしれないし。
そうなると、十層の通路は袋小路でしかない。
……運搬役の人達は随分と運が良かったよなぁ。
通路にスケルトンの蓋がされる前に逃げ
交差点のド真ん中に残った不運な奴と比べると、随分と持ってる。
少しわけて欲しいよ……。
「さて……そろそろ行きますか?」
スケルトンの攻勢を押し広げるように空白地帯を作った。
中心点は俺だ。
スケルトンの軍勢は未だ押し潰さんばかりの圧力を掛けてきているが……むしろ好都合だ。
なんせこの魔法は中心以外が攻撃範囲なのだから――――
「六年ぶり! 二回目!」
地下だというのに、急速に風が巻き始める。
自らを中心とした旋風が発生した。
体内に風の刃を飼うハリケーンは、スケルトンをバラバラに切り刻みながら上昇し、ダンジョンの壁を掘削しつつ地下を揺らした。
時折落ちてくるスケルトンの骨が頭の上で跳ねる。
……落盤とかしないといいなぁ。
結構な広さがあったために忘れていたが、そういえば地下だ。
骨を吸い上げて白く色付いた颶風が狭さを訴えるように壁を叩いている。
相変わらずの威力に少し後悔。
こうなるともはやキャンセルが利かないことを知っているので、あとは崩れないことを祈るしかない。
一分程で竜巻は終わった。
吸い上げていたスケルトンが多かったせいか、唐突に終わった風の祭典を嘆くかのように、骨が落ちる音が長々と響いた。
ガラガラガラガラガラガラと耳に痛い。
ほとんどのスケルトンを撃滅出来たと思う。
幸運にも魔石の破壊を逃れた骨も散見されるが、肋骨だけだったり、頭蓋骨だけだったりと、もはや脅威には映らなかった。
集まって合体もしなさそうだし、大丈夫だろう?
辺り一帯は骨の海のような様相を呈している。
たまにカタカタと笑う頭蓋骨がアクセント。
息を整えつつ、逃げていった冒険者の気配を探る。
やはり安全地帯へ続く道に走った冒険者達の気配しかしない。
階段を登っていった冒険者と運搬役に関しては上手く逃げ遂せたようだ。
響いてくる戦闘音からして、安全地帯の方に逃げた冒険者は足を止めているようだが……。
とっておきとすら言える『火』の魔晶石の使用音が聞こえてくる。
あぶれたスケルトンが残っているのか、それとも別働隊よろしく湧いたのか……。
……随分と不自然なスケルトンの発生だったが、こういうのはダンジョンじゃよくあることなのだろうか?
ターニャが授けてくれた知識には無かったのだが……元々が二人ともダンジョンに興味が無かったので知らなかったとしても不思議じゃない。
分からない。
分からないならどうすればいいのか?
そりゃもう聞けばいいんだよ。
運んでいる荷物の中に紛れ込ませていた私物から、お役立ちアイテムであるローブを引っ張り出して、俺は着替えることを決めた。
なーんか……ターニャの予想通り過ぎて気に食わないけどね。
釈然としない気持ちで着替えている間、足元で頭蓋骨がずっとカタカタと笑っていた。
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