第137話


 案の定、最終拠点となる九層の安全地帯でジャスに糾弾された。


 何故最終拠点が九層なのかと言うと、十層に雑魚魔物は現れず、道もボス魔物が居る部屋までの一本しかないためだ。


 それならボス部屋の目前に拠点でも作れば――なんて浅はかにも考えたのだが、別に九層の魔物が入って来れないわけではないのだ。


 休息を取るためにも、拠点は安全地帯に張る必要がある。


 ……だよねー? 知ってた知ってた。


「だからあんなガキを連れて行くのは反対だったんだ! 戦闘中に横からナイフを投げ込みやがったんだぞ?!」


 そんな最後の休息地で「放り出せ!」と言われている現状。


 ……いやいや、こんな地下深くに置き去りにされたら死ぬやん? どうせ食料も分けて貰えないんでしょ?


「だが誰にも当たっていない」


「スケルトンには当たったけどな?」


「結果論だ!」


 少し離れた所で、聞こえるぐらいの声量で、本人不在なのに直談判されている。


 相手をしているのはバーゼルパーティーのバーゼルと水の魔法使い。


 相手をと言い換えてもいいぐらいの表情と態度だが……。


 俺にとっては都合のいいことに、ジャスの直談判は柳に風と流されている。


 それは俺が魔法の発動前にスケルトンの邪魔をしたからではなく、イキッた子供が戦闘中に横槍を入れるのは、ここじゃよくあることだからだそうだ。


 割と許容されている雰囲気。


 それでも本当に戦闘の邪魔になっていたら怒られることもあるんだろうが、誰も相手にしていなかったスケルトンにナイフを投げるぐらいはセーフなんだと。


 しかしそれで怪我をしようが死のうがは自己責任だと言われた。


 引率しているわけじゃないので、これには頷くしかない。


 お仕事だしね。


 なので安全地帯の拠点化を進めている運搬役達。


 一人は絶賛口論中だが、他は概ね仕事を終わらせつつある。


「ようやく着いたなあ」


「ああ。でもダンジョンの九層だと思えば信じられないぐらい早いぜ?」


「それでも疲れたよ。こんな下層まで、しかも運搬役で来たことなんかないだろ?」


「バカたれ。帰りはもっと大荷物さ。なんせ最下層にあるお宝やら、魔物の死骸やらを運ばなきゃいけないからな」


「うへー……忘れてた。そうだよ、運搬役だもんなぁ」


「まあまずは食って力をつけようぜ」


 調理中の鍋を挟んで言い合いをしていたのは運搬役の双子だ。


 既にテントで寝息を立てているのがドゥルガ。


 武器の手入れをしているのがライナス。


 鍋に肉が浮いていないことに絶望しているのがレライト君、となっている。


 ……マジかぁ、そういえば生鮮食品は勿論だけど、乾燥したお肉やお野菜も減ってたなぁ。


 …………もしかして最下層の食事ってこうなんだろうか? ピストン輸送される食料の中に動物性タンパク質が含まれていることを祈ろう。


 手慰みに携帯食料をボリボリとやりつつ、念のためにとジャスの直談判が成功しないように眺めていた。


 さすがにここで放り出すのは問題があると思うんだ。


 だって死ぬし。


 ダンジョン内の風紀的なものは割としっかり守られていると聞いているだけに、おそらくそれは無いだろうけど。


 ダンジョンの中での人殺しや犯罪には、ギルドや貴族はめちゃくちゃ厳しいという。


 そのせいか問題があると判断された時には検証などの依頼が発生したり、冒険者には知られることのない手段で犯罪を見つけてきたりと、抑止力は強め。


 イメージ的には無法地帯で、気に食わない奴をぶっ殺したりパーティー同士の殺し合いなんかをやってそうだな、って思っていただけに意外だった。


 ドゥルガに呆れた顔で「犯罪者集団を国が擁立しねぇだろ……。ギルドをなんだと思ってんだ」と言われたので、それもそうかと納得するばかり。


 なんか俺の思っていた冒険者と、この世界での冒険者は少し違うようだ。


 どちらかと言えば……本当に不本意ながらストリートチルドレンの思想に近いと思う。


 あそこまで酷くはないけどね? 必死に俺を殺せと直談判しているジャスの兄貴には敵わないよ。


「ハァ……。こちらの決定に反論は許さないという契約だったろう。今お前がしているのがそうだとは思わないか?」


「ああ?!」


 見兼ねたライナルトが話に加わり三対一になった追放会議。


 旗色が悪そうなジャスは味方を探すように周りを見たが……。


 そもそも興味がないのか注目を集めておらず、それぞれ思い思いに寛いでいる冒険者達。


 残業を強いられているのはバーゼルのパーティーだけである。


 しかしそれもタイムアウト。


 安全地帯にぞろぞろと冒険者が駆け込んできたからだ。


 見覚えのある冒険者一行は、もう一つに分けた班だろう。


 少し人数が少なく見えるのは、もしかしてやられたのだろうか?


 残員整理もあるので話を切り上げようとバーゼルが腰を浮かした。


「お前も休息していろ。俺達は今から」


「まだ話は終わってねえぞ!」


「すまない!」


 しつこく食い下がるジャスを脇に退けて割って入ったのは、最下層を攻略するというパーティーの一つだったと思う。


 まさか無理やり割り込まれるとは思っていなかったのか、ジャスは目を白黒とさせている。


「こっちの運搬役が全滅した。荷物はある程度回収してきたんだが……」


 報告の内容に、ジャスどころか安全地帯が静かになってしまった。


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