第136話


 ――――速っ?!


 現れた――と思った次の瞬間にはバーゼルのパーティーメンバーの一人に接触していた。


 随分と機敏な動きをする人骨である。


 骨格標本ばりの白い骨を青白く発光させながら、眼窩の奥にも青光を灯し――嬉しげにカタカタと笑っている。


 とても鍔迫り合いをやっているとは思えない陽気さだ……。


 やって来たのは単体ではなく複数体。


 それぞれが武器を手に、冒険者へと襲い掛かっている。


 その武器は様々で、ショートソードにバックラー、メイス、ハンマー、薙刀、大剣等々……。


 ていうか多いな?! これは逃げるべきなんじゃ……。


 骸骨兵スケルトンと呼ばれるだけあって、中には鎧装備の奴もいる。


 もしネズミ算式に増えるのであればやってられない。


 最初の一体なんて、バーゼルパーティーの一人でもギリギリ受けられたくらいで……。


「うわ、『ハズレ』じゃねえか……」


「最悪っすね。バーゼルさん居て良かったパターンじゃないすか」


 ドゥルガとライナスの表情も顰められている。


 すぐさま鍔迫り合いをやっている冒険者のフォローに入るバーゼル。


 そのバーゼルの剣を骸骨。


 反応がいい。


 ――しかし膂力は別だったようで。


 力を流そうと斜めに受けた剣ごと、そのまま一刀両断に附されるスケルトン。


 表情があったら『ズルい?!』とでも言いかねないんじゃないだろうか……。


 それぐらい完璧な受けだった。


 唐竹割りにされ、綺麗に縦半分の体になったスケルトン。


 その右半身が、崩れつつも残った刀身をバーゼルに向けて振った。


 う、動っ?!


 驚いていたのは俺だけのようで、冷静に観察していたバーゼル自身は、その一撃をモノともせずに跳ね返し、返す刀で右半身だけのスケルトンの首をハネた。


 そこまでしてようやく、スケルトンの眼窩の奥の青光が消える。


 ヒヤッとした部分もあったが、どうやら圧勝に終わりそうなぐらい戦闘は優勢なようだ。


 ワラワラと並み居る骸骨の群れを駆逐していくバーゼルパーティー。


 スケルトンの実力には個体差があるのか、最初の一体並みのインパクトを持っているのが他にはいなかった。


 その一体も、まさかの剣ごと両断されるという結末。


 ……なるほどー。


 この街の冒険者と聞かれて、誰も彼もが『バーゼル』の名前を上げるのにも納得がいく。


 そんなんだからイカれた女冒険者に絡まれんだよ。


 ……高い有名税だなぁ。


「言っとくが……こいつらだからこれだけの手並みで片付けられるんであって、普通なら無理だからな? 変な色気出すなよ?」


 スケルトンの群れが効率良く減らされていくのを無言で見入っていたら、ドゥルガから注意を受けた。


 …………え? なんで俺が戦う前提なの? やらないけど? 運搬役なんですけど?


「そうそう。第一、こいつら見た目には似たような奴ばっかなのに……その能力に差があるから余計に厄介だぞ。単独で遭遇したら俺でも逃げるからなー」


 念を入れんとばかりにライナスも乗ってくる。


 戦闘狂とでも思われてるのか?


「……あれ? 違ったか? お前ぐらいの歳の奴は、大抵がバーゼルの戦闘に魅了されんだよ」


「それで自分にも出来ると勘違いして二度と陽の目を見ることがなくなるんすよねー」


 表情に疑問を浮かべていたら察してくれたのか訳を話してくれる先輩冒険者達。


 あー、そういう……。


 この街住まいのストリートチルドレン気取りが思い浮かぶ。


 幾人も帰ることがなくなったんだろうなぁ……もしくは届かぬ領域に早々に見切りをつけられたか……。


 この世界の命における価値観は、割とドライだ。


 ……そうだ、非情なわけじゃなく、無関心とも違う――――それはと言ってもいい――――


 ぼんやりと見つめていたスケルトンの群れの一角で魔力が渦を巻いた。


 考える前に体が動く。


 念のためと腰に付けていたナイフを引き抜いてぶん投げた。


 止める間もない早業だったと我ながら思う。


 メイスを手にするスケルトンの一体から噴き上がった魔力。


 ドゥブル爺さん並みのそれは、うねり、纏まり、突き出される手に結集しようとしていた。


 魔力の始点は右肩にある骨の真ん中辺り。


 おそらくは魔石があるのだろう。


 しかし理解に及ぶ前に、弾丸のような速度で飛ぶナイフがそれを砕いた。


 一気に解けて消えていく魔力――――それは魔法の不発を意味していた。


「……お前なぁ」


 安堵したのも束の間、呆れを含んだドゥルガの声が掛かった。


「あ。いや……すんません。自分にも出来るかな? って……」


 魔力というものが目に見えないと知れた今、まさか本当のことを言うわけにもいかないので直前の話に乗っておくことにした。


 ……不本意ながら。


 それをニヤニヤしながら聞いていたライナスが、気安くも頭をポンポンと叩いてくる。


「早死にするタイプだなー。今のは運良く魔石を砕いたみたいだけど。ほれ? あっちで勘違いするなって言ってた奴が睨んでるぜ」


 クイッと顎を振られた方を見てみると、これ以上ないって程の顰めっ面をしたジャスがこちらを睨んでいた。


 スケルトンの数も少なくなっていて、戦場が整理されたせいか俺の行動も目立ってしまったようだ。


 ……あーあー、面倒くせぇなあ、もうー。


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