第134話
大型の虫と骨。
それが下層に出てくる魔物だ。
虫までは分かるんだが……
今の今まで欠片も実在を確認出来なかった
イメージ的には雑魚モンスターの類なのだが……実際には厄介な奴のようで。
「肉が無えからなぁ」
「肉が無いですもんねえ」
いつも通り魔物の情報収集から入った俺に答えてくれたのは、やはりドゥルガがと――どこか暇そうなライナスだった。
縦列で進む班構成なのに、牽引パーティーにライナルトが居るからと最後尾まで下がって来たという徹底ぶりだ。
俺から離れんとばかりに、もはや運搬役なのかバーゼルのパーティーメンバーなのか分からないぐらい近付くジャスとは真逆だ。
おかげで班は前後三名で真っ二つ。
……いや結構好き嫌いで仕事するなあ君等?!
それでも文句を言われずに飄々としているところを見るに、あまり問題はないのだろう……そうかあ?
前世の職業とも村での暮らしとも違う仕事っぷりに困惑している俺を置いて、話が進む。
「当然だが、斬ったり突いたりしたところで、骨に当たらなきゃ意味が無え」
「腕とか足とか切り飛ばしても、普通に動きますもんねー。……よく考えると、あれズルくないですか?」
マジかよ、どんな生物だよ。
ダンジョンに潜れば潜るほど攻略が難しくなる――というのは世界が変わっても通じる常識なのだが、この『リドナイ』においては、もう一つのハードルが冒険者に更なる枷を与えてくる。
それが食糧問題だ。
上層にだけ、まだ食用可能な魔物が出るここ『リドナイ』は、三層に入った辺りから自給自足の面で急に攻略が難しくなり始める。
水も食料も、手持ちが無くなれば途中から補給が出来ないんだそうだ。
たとえどんなに強かろうと餓死という問題が付いて回るこのダンジョン。
しかし二層までは、むしろよく補給出来ることから中層までの出入りは多いという。
一番の問題は、長年攻略するパーティーが中々現れないと言われる下層。
つまり今歩いているここの事だ。
原因の一つが虫で、これには可食部位が全くといいほど存在せず、それどころか毒持ちが多いことから相手をするのにも敬遠されるのだとか。
しかも八層から現れるのは大型だと言うから尚更だろう。
そしてもう一つ。
下層が長年攻略を断念される、その最たる原因が……今も話題になっていたスケルトンである。
魔物と言われるだけあって、煮沸した人骨のような外見であるスケルトン。
見る人に背筋を震わせる何かを放つこのモンスターは、生者を見つけると顎の骨を震わせて襲い掛かってくると言う。
その見た目からして、たとえ突きを放ったとしても骨と骨の間を貫通したら意味がなく、下手に部位を切り離したところで、拾って繋げられることもあるんだとか。
チートか。
しかも通り一遍の雑魚キャラと呼べるほど単純な存在でも無く……。
何を模しているのかは解明されていないのだが、生前に得た技術を持って生まれてくるというのが定説なんだとか。
いやだからチートかて。
通路にいきなり現れる最強の辻斬りを夢想。
ああ、無双……じゃなくて無常。
そりゃ下層にわざわざ足を踏み入れるのは変態の所業だわ。
なんで三桁を越える年月の間、誰も攻略者が現れなかったのか理解出来たよ。
おまけに魔法まで使う奴もいるんだとさ。
「……どうやって倒すんですか?」
塩ぶっ掛ける?
顎髭をジョリジョリとやりながら、スケルトンが出る階層だというのに特に慌てる様子のないドゥルガが答えてくれる。
「バラバラにするんだ。粉々でもいい」
脳筋かな? 早退は可能かな?
会話に餓えているのかライナスがフォローを入れてくる。
「もっと言うと、魔石を抜いちゃえばいいんだけどな。魔石が潰れるか体から離れると、そのスケルトンは自壊しちまう。そのために丸ごと潰すってぇのが常套手段だ。バラバラにしながら魔石がある部位を探るのは手間が掛かる方法なんだが……こっちの方が実入りはいいな。スケルトンの魔石ってーのは、どうしても壊されてるやつが多いからなぁ」
「魔石狙いなら、一番いいのは魔法を当てることだな。スケルトンは魔法に弱ぇからなぁ」
ここに来て初めて聞く情報がドゥルガから発信された。
「魔力で体を動かしてるって言われるからか、なんでも効くんだが……最も効果があるのは『聖』属性だろうなぁ。回復魔法がそれだと言われてる、あれだよ」
続くドゥルガの言葉にライナスが鼻で笑う。
「そんな奴がダンジョンに潜ることなんてあり得ないっすけどね。教会で働いた方が金になるし、強力な『聖』の魔法使いなんて『火』よりも貴重ですよ。飼い殺しが精々でしょ?」
「バカバカ、神に殉ずるって言えよ。……怖ぇ奴だなぁ、お前ぇは」
……なんか教会に一物ありそうな発言が飛び出したが、触らないでおく。
それが長く生きるための賢い生き方だから。
たぶん早死にしてるけど。
うちの神父のおじさんだったら、そんなことないようにも思えるが……。
戦場の死神(良い意味で)だし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます