第133話
さすがに酒樽が残ることはなかった。
……冒険者って人種はお酒好きが多いのか、残業の無念を酒で晴らすリーマン並みに足が早い。
こういう時に重要なのは水かと思っていたんだが……。
バーゼルのパーティーメンバーの一人が『水』の魔法使いということで、あまり重要視されていないように感じる。
毎日の水袋の交換を思えば大した許容量だ。
今日もタップリと詰まっている。
……水袋も、リュックも。
減らした分だけ詰め込まれる荷物の重量は、ダンジョンに入った初期からあまり変化がない。
背負い上げたリュックのずっしり感に、いつも通り強化魔法を発動してしまう。
……早く終わらないかなぁ、ダンジョン攻略。
荷物の確認を済ませ、日替わりする運搬役のメンバーに頭を下げて挨拶を交わす。
「どうも、レライトです」
「知ってるぞー」
「ああ、有名人だな」
早々にヤジを飛ばしてきた二人は双子だと言う。
片方が坊主頭で、もう片方が五分刈りだ。
なんでも区別が付きやすいように髪型を変えてるんだとか。
どっちかがメーヴァさんで、どっちかがゴーヴァさんだ。
「変な縁だなー。あ、俺の名前覚えてる?」
「ライナスさんですよね?」
軽い口調の割に目が笑ってねえぞ……どんだけライナルトと間違われたくないんだ。
メンバーの中で唯一と言っていい装備である手甲を着けた赤毛のツンツン。
他のメンバーが急所を守るだけの簡略化した革鎧なのに対して、こいつは手甲だけだ。
よっぽど自信がある……なんて布の服装備の俺に言われたくないだろうなぁ。
メンバーは俺以外がショートソードやメイスなどの武器を腰に吊っている。
「変に絡むな。しっかし……お前さん、よくここまで来れたなぁ」
すっかり汚れてしまった服をジロジロと見てくるのは最年長のおじさん、ドゥルガだ。
見た目にはしがないおじさんなのに、同じだけの荷物を軽々と背負っている様には恐怖を覚える。
実は一番腕力がありそうなことを昨日今日で把握している。
こういう人には
「運良く」
「ハハハ、そりゃダンジョン潜る上で一番重要な要素だ」
「イゾルダがボロボロだったからな、大方ガキを庇って怪我したんだろうが……おい、お前。ここまで来れたことを実力だと勘違いするなよ?」
これからチームを組もうというのに雰囲気をぶち壊すのが最後の一人。
……いるんだよなぁ、どこの世界でも、こういう奴って……。
金髪をオールバックにしたツリ目の男だ。
斜に構えた態度とマウントを取らんばかりの発言が目立つ、いわゆる空気を読まない感じの奴で、最下層までの運搬役に俺が入ったことが気に食わないらしい。
元々、何かにつけて絡んでくんだよな……。
やれ「仕事してねえのによく食う」だとか「いいよな、何も考えてねえ奴は。ぐっすり寝られて」だとか「戦闘の役には立たねえハズレ」だとか。
まだこっちのパーティーに加わる前でもそうだったのに、まさかの合流に泣きそうである。
人事に人間関係が反映されないという社会の仕組みがここでも適用されとる。
「ジャス、そのへんにしとけ」
「いや言わせて貰いますよドゥルガさん。こっちは命懸けなんですから。おい、先に言っとくが。他の奴と違って、俺はお前が危なくなろうとどうしようと助けねえからな? 甘えんなよ」
苦々しげな表情で宣告された。
これでもドゥルガが居たからまだマシな方だろう。
本来のムカムカ具合はこれの比じゃないからね? お前こそもうちょい人の気持ちになって喋れよって言いたくなるからね?
文句をグッと飲み込んで頷く。
「分かりました」
「ああ? 何が分かったんだ?」
お前の面倒臭さがだよ。
じゃあどう返事しろというのか? しなきゃしないで文句を言われるのに……。
反論を封じ込められて黙っていると、新人イジメを見咎めたドゥルガが助け舟を出してくれた。
「ああ、もういいよジャス。お前ぇが先頭行け。俺とこいつが最後尾。それでいいだろ?」
「……マジ、なんで足手まといを引っ張って行かなきゃなんねぇんだ。本来の報酬の半値も渡す価値が無ぇ奴を……」
執り成したドゥルガの手前、渋々と引き上げるジャスだったが、これ見よがしな聞こえる文句をブツブツと呟きながら離れていく。
ファイヤーしちゃおうかな?
こっちの世界にはないのかな? ファイヤー。
炎上って言うんだけど?
あいつのせいもあって、出発直前の合流だというのに……!
何かに侵食された女子中学生並みに青筋を立てていると、抑えろとばかりにライナスに肩を叩かれる。
抑えてるでしょ? だって火の海になってないんだから?!
「気にすんなよ。あいつも安全地帯を出てまで絡んできたりしねえから。そこまでじゃねえよ」
いやそれ以上だよ。
「……あいつはカルゴ達と付き合いがあったからなぁ」
仕方ないと顔を顰めるドゥルガ。
カルゴって誰だよ! 知らない奴の名前出してくんなよ?!
「――時間だ。それじゃあ第一班、集まってくれ!」
追求する前にライナルトの声が響いた。
ライナスの顔が顰められる。
どうにも釈然としない雰囲気の中、最下層までの探索が始まった。
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