第127話


 それは五層で休憩している時の話題だった。


 一番最後に到着したということで、あんまり休憩する時間が無かった第四班。


 無口だ無口だ、と思っていた班員達は、単に疲労で口を開けなかったのだと分かった。


 荷解きや詰め替えなんかの作業を殆ど俺が担当したことで判明した事実だ。


 二層から五層までの移動時間は約一日ぐらいだったという。


 肉体強化を使用していたため、そこまで辛くなかった俺と違って草臥れてしまった第四班。


 居残りの班だと告げられても悪態一つ吐かなかった程だから相当だろう。


 無駄に体力を余らせて班員の作業を肩代わりしていた俺は、欠員があるからと今度は第七班へと異動になった。


 一応徹夜になるため判断をこちらに委ねてくれたのだが、配慮を押して一も二もなく頷いた。


 綱渡りですよターニャさああん?!


 朝食を食べるところだという第七班に混ざってしっかり体力を付けておけと言われたので、遠慮なく食事にありついた。


 第七班は、更に下層への運搬役をやるという班だからか、今までの班員とは違い、雰囲気にある程度の余裕が垣間見えた。


 それは食事中の会話にも表れ、ポツポツとした単発の返事で終わるという光景は見られなかった。


 話題も尽きることなく、時折話を振られる程で、この班の強さを感じれるものだった。


 話している内容は、やはりダンジョンの攻略におけるものが七割で、攻略の成否と出てくる魔物についての話が多かった。


 両方興味深い話題だ。


 特に後者は今日接近を許したばかりか戦闘にもなったので、聞いておいて損は無いだろう。


 第七班の中には五層が初めてだという俺のような奴もいて、そのせいかそういう奴から漏れ聞こえてくる会話は魔物に関してのことだった。


「やっぱ強いんだな、ゴブリンのくせに」


「でもゴブリンだぜ? やってやれねえことはなくねぇか?」


「バカ。森にいる奴と比べんな。別物だよ、別物。まず信じられんぐらい皮膚が硬ぇ。そんなに深く斬りつけられんそうだ。んで防御が薄いのは首周りぐらいだが、動きも速ぇ。お前の剣で大人しく斬られてくれるわけねえだろ?」


「うるせえ! 見てたから知ってんだよ! ……偉そうに講釈垂れやがって」


「三層に出たオークと五層のゴブリンではどちらが強いと思う?」


「見た目からしたら豚だろ? あれでゴブリンのが強いってんだから詐欺だよな……」


「シチューまだ食う奴ー?」


「あ、いただきます!」


「トイレ行っとけよ」


「残るのは四から六か?」


「誰か六層行った奴いねぇの?」


「俺がある。……怪我で欠員した奴の穴埋めに入って一日だけだがな」


「最高到達階層が六だろ? 御立派。何が出るのか教えてくれよ。知ってりゃ戦わなくとも気構えが違うだろ?」


 ヒラヒラと手を上げた運搬役の一人に注目が集まる。


 どうやら必死に情報収集をしていたのは俺だけではないらしい。


「んー……まず肝に命じとくのは、魔法を使える魔物が五層からは出てくるってことだな」


 マジで?!


「そんなの皆知ってるよ」


 マジで?!


 交わされる会話にシチューを吹き出しそうになった。


「いや、見ると聞くとじゃ大違いだぞ。魔法。たまにいる『魔法持ち』が使うような焚き火の種火にする火だったり、コップ一杯分の水を出したりとは訳が違うからな」


「脅かすなよ」


「いや本気だよ。俺が見たのは拳大ぐらいの虫の魔物で、蜘蛛に似た感じなんだが脚が異様に長くて毛の生えてない奴だったな。色も黒くて見つけにくかった。……そんな奴が死角から風の魔法放ってくるんだぜ? たまんねーよ」


「風の魔法……風弾エア・バレットか? 強風ロックダウンか?」


「俺に飛んできたのは風の刃エア・カッターだったな」


「……よく生きてたな?」


「腕利きのパーティーだったからな。咄嗟に間に入ってくれて命拾いよ。くらってねえから威力がどんなもんかは分からねえが、受けた盾からはイイ音鳴ってたぜ? だから念の為、首周りは守っとけ。もしくは籠手でも付けて首だけガード出来るようにしてろ」


 グイッとマフラーのような布をズラシて、中に仕込んだ鉄板を見せてくる六層経験者。


 その場面を想像したのであろう運搬役が首に手を当てて顔を青くする。


「幸い俺は他の魔物に出くわさなかったが、ここからは俺らじゃ格が及ばねえ魔物も出てくるってのだけは覚えとけ。ちょっとでも色気出して戦おうなんて思うなよ? 大した障害にもなんねぇからな」


「マジかよ……」


 誰だか知らないが同感である。


「魔法使いに感謝ですねー」


 俺も会話に入ろうと、当たり障りのない内容で追従したら、語っていた運搬役に変な顔で見られた。


 なんだろう……何も変なことは言ってないと思うんだが?


「俺を助けてくれたのは剣士だよ。なんで魔法使いだと思った? てかどっから出てきた魔法使い……」


 ……え? だって……。


「魔法使いが魔法の予兆を感じ取って防いでくれたんじゃあ……」


「んなわけねえだろ。なんだ、魔法の予兆って? 初めて聞いたぞ。詠唱のこと言ってんのか?」


 …………うん?


 何って、魔力の動きのことだよ。


 魔法を使う前に漏れ出る魔力のことだよ。


 しかも魔法を使った後には痕跡が残る。


 魔法使いはこれを確認出来る……。


 だ。


「魔法の予兆っていうか、こう……魔力の動きで先を読む? みたいなことが……」


「だから、あるわけねえだろ。知り合いに魔法を使える奴はいねぇが……? 魔法が使えることと魔力が見えることは、全然一緒のことじゃねえぞ。御伽話とごっちゃにしてんのか?」


 これには他の運搬役も肯定的な雰囲気で、反対意見が上がることはなかった。


 …………。


 あれえ?!


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