第124話


 二層の安全地帯までは比較的安全に来ることが出来た。


 もう半日ぐらいは潜っていると思う。


 勿論、一層の安全地帯でも休憩を取った。


 休憩を取る際に気付いたのだが、明らかに気を抜く冒険者と、休憩中でも最低限の注意力は残す冒険者と、一切気を抜かない冒険者に、それぞれ反応が別れていた。


 やはりそれぞれダンジョンに対する向き合い方みたいなのがあるのだろうか。


 ちなみに俺は、実家に戻らない限りどこか緊張が続くタイプだ。


 家に着いたら真っ先にトイレに行きたくなる冒険者だ。


 運搬役は三組が合流した。


 今日はここまでしか進まないとのことなので、残りの六組を待って、進行再開は明日の朝からになっている。


 辿るルートは何パターンかに分かれ、近々の組と被らないようにしてある。


 ここまでは頗る順調だ。


 まだ二層なので大した怪我人も出ていない。


 なのに一層で休憩した時よりも運搬役の口数が少なくなっているのは、疲れているから――ではなく、ここに誰が残るのかが気になっているからだろう。


 どの班の運搬役を深層に連れて行くのかは、実はまだ決まっていない。


 運んでいる物の状態や、自身のコンディションなど不確定な要素が多く、現場で判断をすると言われているからだ。


 勿論だが、深層に行けば行く程、運搬役の実入りはいいし、もしかしたらお零れを狙えるかもしれないと考える奴は意外にも多いらしい。


 しかし運搬役就任の契約時に攻略パーティーの指示に従うよう掲載事項があった。


 口論を防ぐためだろう。


 もしくは余計な揉め事を減らすためか。


 これには俺も困ったが、ターニャが言うには問題ないとのこと。


 なので遠慮なく火に掛けられている鍋を楽しみに待っている。


 あ、もしかして鳥肉ですか? そうですね、やはり足が早いのを先に食べるべきですね、カチカチの保存食なんかじゃなく。


 ちなみに護衛パーティーの方は何階層を受け持つのか既に決まっているので、気楽そうである。


 なので調理番は大抵が護衛冒険者だ。


 俺の隣りにて焚き火に薪なんか足している。


「……お前、気になんねえのか?」


 手が空いて暇になったのか、薪を足していた護衛冒険者の一人が声を掛けてきた。


「全然」


「そ、そうか。……欲が無ぇんだなぁ。まあ、まだ若いっぽいもんな」


 いやうちのオバケゴーストが大丈夫だと太鼓判を押して囁いてくれているので。


 むしろ、ハズレろ! と思わないでもない。


 いや、たまにはさ? ねえ?


 だからって解決出来る策があるわけじゃないんですけどねー。


 そんときは頭を下げてロハで付いていくとかでなんとかならないものか……。


 グツグツとそこらで煮炊かれる鍋と運搬役。


 誰もが鍋の中身より安全地帯の入口を注視している。


 未だに主要パーティーは現れない。


 ……全滅してたりしてね?


 安全地帯の中は、ここまでの道と違って床がデコボコしていない。


 綺麗に整地されている。


 しかしダンジョン自体は蟻の巣穴のような感じで、まさに自然の洞穴を行くといった雰囲気があった。


 一種の別空間なんだろうか?


 天井も更に高い上に、柱なんかもある。


 何かないかと登った冒険者もいるそうだが、普通に天井に繋がっているだけで、隠れたお宝なんかは無かったそうだ。


 意味ありげだもんなぁ……一番最初に安全地帯を見つけた奴は絶対に何かあると思って探っただろう。


 ある意味、罠である。


 しかしここには魔物が入って来れないと言うし、たとえお宝が無くとも、そのメカニズムだけでも解き明かせれば巨万の富を得れそう、ではある。


 そういう意味でも調べて……お手上げだったと。


 酷い罠だ。


 そんな罠の中にいる三十名が、安全地帯の入口を見て一喜一憂している様は、ここの制作者からしたら思い通りなのかもしれない。


 別の班が来て一喜一憂、そんなリアクションを繰り返すこと三度目。


 ようやくバーゼルのパーティーが入ってきた。


 この攻略の主役とも言えるバーゼルは、槍にも勝りそうな抜き身の長剣を片手に携えて現れた。


 やはり一人だけ抜きん出た雰囲気がある。


 装備の上からローブを羽織り、ターバンと口布を巻くという極力目立ちたくないといった姿なのだが、魔物の血で濡れる長剣が否が応にも迫力を演出している。


 バーゼルが現れただけで、安全地帯の中に沈黙が落ちた。


 当の本人は慣れているのか、安全地帯の中を確認し終えると、剣を血振りしてから納刀するというマイペースぶりだった。


 続々と続いたバーゼルのパーティーメンバーも、そんな彼を気にした様子はない。


 バーゼルのパーティーは気を抜かない系というか、常に自然体のような雰囲気を醸し出している。


 やはり年季が違うということだろうか?


 誰もがその一投足に注目しているので、これ幸いとスープの一番乗りを買って出た。


 あ、マシマシで……出来たら、出来たらでいいんで胸肉の部位を……そうそう、バラ肉じゃなくね、うんうん。


「……お前、良かったなぁ」


 染み染みと呟きながらお椀を渡してくる護衛冒険者の一人。


 ……なにがだ? 肉か? もしかして早い者勝ちだったか?


 肉でマシマシになったお椀を受け取りながら、言ってる意味は分からずとも愛想笑いを浮かべたのは、前世からの習い性のせいである。


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