第122話
ダンジョン学習を終えた翌日、ブリーフィングがあると言うことなので、寝過ごさないように早めに起きた。
着古した平服に底の磨り減った靴――ターニャから貰ったフード付きのローブを着込んで出掛ける準備を終えた。
……なるほどねぇ、そりゃ安い筈だわ。
イマイチ実感の湧かない効果だが、デメリットだけは確かに確認出来たので、ターニャから聞いていたお値段の方にも納得がいった。
部屋に設えてあった姿見の前でフードを被ったり外したりする。
どうやら本人は効果の対象外のようだ。
……僅かに詐欺の臭い漂うローブだったが、もう返品は効かないという。
ターニャの予想に従うわけではないけど、確かにあれば便利なので着ていくことにした。
村から持ってきた肩掛けの鞄を引っ提げて鏡の前を後にする。
「……………………いて、ら」
「へーい、いってきまーす」
寝ているのかいないのか……布団に丸まったまま寝言のように告げてくる幼馴染を残して部屋を出た。
しばらくは部屋暮らしだというのに、既に引き籠もることが板に付いているターニャに将来の心配を禁じ得ない。
今はもっと心配する対象があると思うんだ。
ターニャの予想……というか俺にも想像出来た不安が満場一致で可決されたため、しっかりとしたセキュリティのある宿屋という答えを俺達に選ばせた。
一重にターニャの安全のためである。
つまり残すところ危険な誰かさんがいるでしょ? という話。
「……本当に居るのかねぇ」
僅かな疑念を抱きながらも、たぶん居るんだろうなぁ、とも思っている。
村の外にも慣れてきた、ということだろうか。
階段を降りながらフードを被る、ターニャが騙されていなければ、これで確信を持たれるということは無い筈である。
まあ効果が効果だけに疑いは持たれるんだろうけど。
……ショボいローブだなぁ。
身なりの整った人達が談笑するエントランスを抜け、門番に頭を下げて外に出る。
……見られてるなぁ。
中から現れた以上とやかく言われることはないのだが、明らかに怪しい装備のため警戒されているようだ。
仕方ないでしょ? 幼馴染の女の子がくれたプレゼントなんだから……。
特徴的過ぎる料理に、
第一区画にあるバーゼル達の拠点が集合場所だ。
まだまだ時間はあるが、こちとら新人も新人なので時間前行動と行こう。
朝の第二区画ともなれば大した人通りもない道なので、塊のようになって通りを見つめるそいつらはとにかく目立った。
隠れるつもりあるのかね?
もしくは不自然じゃないとでも思っているのか……。
見張っていた建物から怪しい奴が出てきたからか、集団から二人程抜け出してこちらに向かってくる。
その近付き方も真っ直ぐ過ぎて……そもそも尾行も下手だったしなぁ。
仕方ないのかもしれない。
「あの……すいません」
そのうちの一人が声を掛けてきた。
ローブの影になっている顔を確認しようとしているのか、やけに下から見上げるような姿勢だ。
……これで上手くいくとか思ったのか?
「――なんだ?」
強気に行こうと出した声に驚いた。
確かに声が変化するとは聞いていたのだが……これは……。
「……違う……こいつじゃない、おい行くぞ」
もう一人、何処かで見たことのあるロン毛の少年が、話し掛けてきた方の少年の服を引っ張って小声で違うと促している。
「おう……。あ、すいません、間違えました」
頭を下げる少年達に手を振って応える。
……どうやらターニャは騙されていなかったようだ。
そして予想もまた、外れていなかったようだ。
あいつらのコネがこいつら、なのだろう。
おそらくは先輩後輩という繋がりで。
……他に無かったのかね? いくらなんでもお粗末に過ぎる。
堂々と集団に戻っていく二人に、警戒するのもバカらしく思えた。
それにしても短絡的過ぎるだろう……マジか? そこまでバカか?
ここで俺をどうこうしたところで、再び攻略メンバーに抜擢されることはないだろうに……。
……いや、そもそもここの十代層はどいつもこいつも考え無しな気がする。
教育の差というやつなんだろうか? そういえば村にも学校なんてなかった。
村じゃ農業と狩りが、ここじゃ
感じ方や考え方に違いが出るのは仕方ないのかもしれない。
……帰ったらモモが村を飛び出さないようにコンコンと教え込まなければ。
ついでテッドやチャノスをカッコいいと思っている年下共にも教育という名の愛の鞭を施してやろうな。
割と楽しそうに張り込みをしている集団から視線を切って、俺は第一区画へと向かった。
門から入って冒険者ギルドの裏手にある三階建ての建物。
それがバーゼル達の拠点であるらしい。
……一パーティーじゃ持て余しそうな大きさだ。
おそらくは共に暮らす他のパーティーや冒険者もいるのだろう。
それはあいつらもそうだった筈で。
そこに通じる通り道を、それぞれが見張っていることを踏まえると間違いないと思う。
何気なく建物に寄り掛かって路地裏を見つめる、傷男パーティーのロン毛の前を通り抜ける。
「おい、あんた」
「なんだ?」
ドキリとしたのは声を掛けられたことよりも、自分が出す声そのものにである。
やっぱりだ、間違いない。
……どうなってんだ?
「……いや、なんでもねえ」
ロン毛の方はチラリとこちらを一瞥しただけで、既に興味は失ったと路地裏の監視に戻った。
機能のショボさの割に、中々便利なローブだ。
これでブリーフィングは問題なく終われそうである。
たとえ建物の前で俺に気付いたとしても、外で待ち伏せてるということは、おそらくは中に入れないのだろうから、追ってはこれまい。
それにしても……。
『ローブを被っている間は声が変わる』という限定的な変声機能なのだが……。
なんで前世の俺の声になるんだろう?
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