第121話


 ダンジョンへの出発は三日後。


 それまでにやらなくてはならないことがある。


 前日に行うブリーフィングのことではなく、当日に行うらしい出立式のことでもない。


 というか運搬役ポーターの俺には関係のないことだ。


 ブリーフィングは参加する必要があるそうだけど、出立式とやらはマジで関係ない。


 領主様から直々に激励の言葉を頂くんだそうだが、それこそダンジョン攻略における主役の仕事だろう。


 じゃあ何をするのか?


 幼馴染に対する別れの言葉でもなければ、豪華な宿屋を満喫することでもない。


 そう。


 それまでに!


 ダンジョンに関する常識を学んでおく必要があるのだ!!


「よろしくお願いします」


 先生ターニャ


「……よろ」


 なので朝も早くからターニャと机を並べている。


 一夜漬けではないがダンジョンの知識を詰め込んでおこうとメモ帳も完備! なんかこういうの懐かしく感じるなぁ。


 ただしダンジョンで悠長にメモ帳を捲っている暇は無いだろうから、なるべくは頭に入れておく必要があると思う。


 学ぶ気満々の俺に対して、先生は無手というナメっぷり。


 寝起きで若干不機嫌な様子を見せつつ牛乳を飲んでいるターニャ。


 さすがにサービスのいい宿屋は朝食もお届けだ、ベーコンにパンに卵というシンプルかつ美味そうな食事がテーブルに並んでいる。


 先生の機嫌を取ろうと用意しておいた。


 そのおかげか、ポツリポツリと質問に対して単発的な答えをくれるターニャ。


「……運搬役は」


「うんうん」


「……荷物を運ぶ」


「ターニャ?」


 そんな茶目っ気たっぷりな解答を混ぜつつも、百科事典も真っ青な知識で期待に応えてくれた。


 どこで得たんだよ、というツッコミすら省いて黙々と勉強した。


 まずダンジョンだが、どのダンジョンも一律一緒の法則にあるらしく、いわゆるタイプみたいなものは存在しないという。


 だからどのダンジョンにも転送システムのようなものは無いらしい。


 おかげさまで運搬役という職業がある。


 クリアした階層を示すのは、そこで倒した魔物の死骸もしくは魔石だそうだ。


 野蛮極まりないな。


 前の世界で言うところの、よくある迷宮型がこの世界におけるダンジョンの全てで、一層一層の地図を作りながら少しずつ少しずつ潜っていくのがスタンダード。


 強いて違いを上げるなら、出てくる魔物の種類に違いがあることだろうか?


 出来た地形に対応する種類になるそうだ。


 最もこれは諸説あるらしく確実ではないと聞かされたが……。


 そんなダンジョンだが、まさに一攫千金と言える場所でもあった。


 その理由が、出土品と呼ばれる魔道具にある。


 魔道具は主に宝箱の中から見つかる。


 前置き無く突然見つかる宝箱や、本来なら残る筈の魔物の死骸が消えて現れる宝箱、そして宝部屋と呼ばれる部屋に安置される宝箱など、その見つかり方は様々だが確率の方は一律低くなっているという。


 一度落ちていた場所にまた産まれることが多いそうだが、その間の日数は年単位に届くらしい。


 そのうえでアタリハズレがあるというのだから、一攫千金と言われる理由も分かる。


 しかし宝箱だけがダンジョンの旨味ではなく、どちらかと言えば魔石を産む鉱山のような捉え方が一般的なものだという。


 ……あー、なるほど、それで納得もいく。


 ようするにダンジョンに潜る冒険者というのは鉱夫のようなものなのだろう。


 なんか少し想像と違うと思ってたんだよなぁ……。


 そんなダンジョンだが、これは! というもので産出しない物もある。


 それが魔晶石だ。


 魔物や宝箱が産まれると言われるダンジョンで、似たようなカテゴリーに含まれるくせに一度として確認されたことがない物らしい。


 同じファンタジーの産物なのに生意気な……。


 他にもなんとなくの感覚で思い込んでいた齟齬が多々あった。


 ダンジョンは死骸や汚物を吸収したりしない。


 なので土の魔晶石が必須。


 下の階層に行くほど強い魔物が出る。


 しかし見た目が変わらない場合がある。


 ダンジョンを脱出出来るような道具は無い。


 だが似たような罠なら存在する。


 話の流れで出てきたこの『転移罠』だが、どうにかすれば行程をショートカット出来そうなものなのに、上手く利用することは出来ないらしい。


「……偶発的なものだから」


 なんでも特定の床や空間に根差すものではなく、突然襲い掛かる……ようするに『運が悪い不運だった』系のものだそうだ。


「…………運が悪い?」


「……そう」


 これに見舞われるパーティーは各ダンジョンで四、五年に一回あるかないかなんだとか……。


「……」


「……」


 かつ脱出不可能な場所に飛ばされるってどれぐらいの確率なんだろう?


 幼馴染に天災がおる……。


 転移罠の説明にはターニャ独自の見解も付いて来た。


「……たぶん、罠じゃない。たまたま、そうなった」


 ターニャが言うには、宝箱が産まれる状況というのは魔物討伐時で確認されたことがないらしく、それが転送の元になっていそうな感じがする――とのこと。


 魔物の死骸が宝箱が現れる法則なのだが、突然現れる方の宝箱にも何らかの法則が存在しており、宝箱が現れる前の現場に居合わせると、もしかしたら……というのがターニャの考えだ。


「つまり……宝箱が落ちてないか前あった場所を確認しに行った時に、もし宝箱が現れたら……?」


「……魔物の死骸と同様に、消される。でも死骸じゃないから……吐き出される……かも?」


 なにそれ、ダンジョン怖い。


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