第111話


「……富と名声が目的のテッド達が、ダンジョン都市に来て早々、攻略するパーティーが出そう?」


「そういうことだな」


「……凄いタイミング」


「いや全く」


 あいつら持ってるよなぁ。


 宿屋にて食事を取りながら、ターニャと集めた情報を交換している。


 食堂の賑わいからして、泊まっている客やダンジョン都市に来る人が増える傾向にあるのは見て取れた。


 ターニャが感じていた浮つきというのも、ダンジョンの攻略が目前となっている故にだろう。


 パスタのような麺をフォークに絡めながら、まずは俺が集めた情報を開示した。


 別にターニャが怖いから真面目にやっていると伝えたいわけじゃないよ? いやほんとに。


 しかし内心ドキドキしながら平静を装って麺を頬張ると、ターニャが肉を切り分けていた手を止めた。


「……ここ最近、物流にも変化が出てる」


「ぶ、物流? ああ、物流ね。なるほど」


「……増えてる」


 うんうん、と頷きながらもそれがどういう影響があるのか分からない。


 街が成長するとか商機が増えるとかではないことは確かだ。


 俺達の目的はテッド達の確保なわけだし。


 考えを纏めているのか、トントンとテーブルを指で叩くターニャ。


 相変わらず茫洋としているが、どうやら珍しく悩んでいるらしい。


「……物の流れは人を――新しい情報を呼ぶ。テッドやチャノスが、ここを落とす筈がない。でも……」


「人っていうか、冒険者は呼び込まれてそうだけど。なんか増えてんだとさ。まあ、そんなのここ見てれば分かるか……」


 口の中の物を飲み下して食堂を見渡せば、客の中には明らかに冒険者っぽい奴らもいる。


 しかも満席。


 昨日からそうなので、これが普段の景色かと思いきや、増えていると言われた後では印象が違う。


 看板娘が目を回している様子とかね。


 バイト雇わないのかなぁ、って思ってたけど、ここ二、三日の出来事なら対処のしようが無いわな。


「……チャノスが調べた限りだと、間違いなくダンジョンに潜る筈」


 食堂の喧騒に『飯は静かに食いたいなぁ』と思っていると、ターニャが話し始めた。


「俺もそう思う」


 うちの村から回される薪は、ここまで出回るらしいけど……逆に言うと


 チャノスが知る範囲では、ここが一番冒険者として成功しそうな場所ということだ。


 


「心配してんのは、横やりというか入れ知恵されたかも、ってことか」


「……そう」


「うーん……でも、あいつら頑固だからなぁ。ダンジョンは宝の山とか思ってなかったか?」


「……うん」


 ちょっとした情報でダンジョン都市から移動したりするだろうか?


 ここ数日の生活費なんかで分かったけど、村の外での生活って割とお金を使う。


 これ以上の出費をしてまで、またダンジョンという夢の一つを捨ててまで、何処か他の所に移動したとは考えにくい。


「もしくは、やっぱり村に一番近い街にいるんじゃね?」


「それはない」


 珍しい断言に持ち上げ掛けたコップを止める。


 ……もしかして?


 アイコンタクトよろしくターニャのジト目を見つめ返すと、疑問を肯定するかのように頷かれた。


「……テッド達の痕跡、見つけたよ」


 そ、そう。


 ゆ、優秀ですね、ターニャさん……。


 動揺を水で流しながら、切り分けた肉をチマチマと食べるターニャを見つめる。


「でも、ということは……」


「……そう。ダンジョンに行ってないわけがない」


 うん、そうね。


 むしろ止めても行くよね、ほっとけば無手でも行くよね。


「……馬車を預けられる宿屋には泊まってなかったけど、馬車置き場の管理記録の中にテッド達のものがあった。近くの露店や食事出来るところも当たってみたけど間違いない。でも……」


 そこで『でも』はやめてよ……。


「……最新の物で、三日前ぐらいからの痕跡が絶えてる。おかしい」


「街を出て、森で獲物を獲ってるとか?」


 俺もちょっと考えた案を述べてみる。


「……ギルドの依頼を受けたりしてたみたいだけど、あの二人は料理出来ないから、外で泊まったりはしない」


 うん、誰と誰か、よく分かる。


「でもアンが出来るわけだし……」


「……依頼でならそうなっても気にはならない、でも生活のためにそうなることを、あのバカ二人は良しとしない。レンは……意外と分かってない」


 お、おう……そう?


「でも……それじゃあ第三区画にはもういないってことだろ? それなら第二区画に宿を取ったか……可能性は薄いけど街を出たか」


「……門ごとに審査が無かったのが敗因」


「いや、審査があったところで……」


 俺達はその記録を閲覧出来たりしないんだから…………そういえば馬車置き場の管理記録とか言ってたな?


 …………うん? どうやって?


「あ、危ないことしちゃダメだぞ? ターニャ」


 特に法に触れそうなこととか……特に法に触れるようなこととか!


「……レンに言われたくない」


 ハラハラしながらターニャに注意すると、いつものジト目と共に反抗的な言葉が返ってきた。


 やだ反抗期?! うん、そういや反抗期。


「……午後からは、わたしも第一区画を調べる」


「まあ、もうそこしか残ってないしな」


「……うん」


 丁度三日前というのが、またなんとも言えない日数だ……。


 入れ違いでダンジョンに潜っている可能性が高いんじゃないかな?


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