第110話


「…………攻略?」


「はい。……え、知らねぇ……んですか?」


 路地裏で不良少年と角突き合わせながら話し込んでいる。


 話題はターニャが興味を示しそうなもの。


 この話題に移る前に、テッド達のような新人冒険者パーティーについて尋ねたのだが……成果は芳しくなかった。


 というのも、こいつらは冒険者に対しての追い込みを掛けないからだ。


「だって怖いし」


 それが主な理由。


 たとえ近い年齢だとしてもの有無というのは近付かない充分な理由になるらしく、新人といえど刃物を所持している冒険者に粉を掛けたりはしないそうだ。


 ……なんかそういう恐怖感が薄れていたので、最初に聞いた時はイマイチ納得出来なかったけど……そうだよなぁ……普通、怖いよなぁ。


 こいつらの標的になるのは専らもっぱら自分達のような少年少女だそうで、その理由というのも『稼ぎを減らされたら堪らないから』という縄張り争い染みたものだった。


 ギルド前での小間使いにも需要と供給があるそうだ。


 ……世の中って厳しいね。


 幾つかのグループに別れる彼らは、其々の区画シマと出待ちする曜日が決まっていて、お互いを警戒し合いながらも刺激することなく普段を過ごしている。


 しかしそれは相手がの話だそうで……。


 一度自分達のシマを荒らされたなら血で血を洗う抗争の幕が開く……とかなんとか。


 頑張ってマフィアっぽく見せようとしているけど、なんか不良グループ同士の喧嘩抗争みたいにしか聞こえないんだけど……。


「誰か死んだりすんの?」


「な?! なに言ってんだ! そんなの捕まって死刑になるだろ?!」


 あ、全然安全っぽい。


 むしろ前世にあった中学生抗争の方が危険まである。


 ……そうか、どうりで必要以上に怖がられていると思った。


 奇妙なオブジェを作った余所者にはノータッチという方針を固めたばかりだったという。


 そりゃ悪いことした。


「でもそれなら、尚の事冒険者に絡むことが多いだろ。新人冒険者パーティーに注文受けたりとかしねぇの?」


「……あんた使いっパシリしたことないん……ですか。そういや、お金もいらねぇって言うし。もしかしてお金持ち?」


「目下幼馴染に借金中」


「は? じゃあなんで金取らねぇ……んですか?」


 不思議そうに首を傾げるロン毛野郎。


 いやバカか?


「……お前そりゃ強盗だよ」


 それこそ捕まるって。


「何を大袈裟な。俺らは誰も殺したり騙したりしてるわけじゃねえ、です」


 フンと鼻息荒く得意気なロン毛。


 いや、殺したり騙したりせずとも、ブン殴って財布を貰ってったら強盗だよ?


 ちなみに、こいつも別にスラムに住むストリートチルドレン、普通に第二区画に家がある一般市民だそうだ。


 おそらくは子供同士だからと見逃されているのだろう。


 聞けば額も知れたもの。


 しかし被害届けが出たら親が謝っている筈。


 まんまヤンキーだ。


「……お前らの先輩って……成人した年上って何してんの?」


「え? 普通。家継いだり、冒険者になったり」


「冒険者になった先輩は、まだ抗争バカやってるか?」


「…………あれ? そういや……やってねぇな」


 もう大人だからだろう。


 小間使いで得られる金より、真面目に働いて得る金の方が遥かに多いわけだし。


 それこそ冒険者になってまで人の金をブン盗ってたんなら即お縄で犯罪者の仲間入りだ。


 たぶん、その辺りでんじゃないかな?


「いなくなったり、捕まったりした先輩も居ただろ?」


「そりゃ、冒険者だし。ナメられねぇようにしたり、命張ってるとそういうことも……」


「……まあ、お前がそれでいいんならいいけど」


 別に俺はこいつを更生させたいわけでもないし、この街にはこの街のやり方があるんだろうし。


 少し不満気な表情を見せるロン毛には、これ以上ガミガミ言ったところで聞き入れやしまいと話を戻した。


 新人冒険者の小間使いをしないのかという話だ。


 新人は金がないから小間使いを頼まないというのが結論だそうで、冒険者になった先輩方にも、そういう理由で遭うことは少ないという。


 ……単に恥ずかしくなって避けられているだけだと思うのは俺が田舎者だからだろうか?


 こいつらの先輩が将来どうなるのかはともかく。


 それでも余所者の若い新人冒険者パーティーなんて目立つんじゃないかと訊くと、そうでもないと言われた。


 その理由というのが――――


「ダンジョンの攻略……」


「そうです。バーゼルさんとこが攻略の現実味を帯びて来てるらしくて。今、街中でめっちゃ盛り上がってます! く〜っ! 俺もあと四年早く生まれてたらなあ! ぜってぇ加えて貰うのに!」


 質問そっちのけで盛り上がるロン毛。


「そのせいで、街に入ってくる冒険者が多いと?」


「そうなんですよ! お溢れ狙いがウヨウヨ来てんすよ! マジ図々しい奴らですよ。大して実力も無ぇのに。てめえらみたいなのがバーゼルさんと潜れるわけねえだろ! って俺達も言ってて」


 お前、一つ前の発言思い出してみ?


 興奮し始めるロン毛を置いて、顔を渋く窄めさせる。


 今、街には老いも若いも冒険者で溢れているという。


 ダンジョン攻略を目の前にした、バーゼルという冒険者の名声に釣られて。


 おかげ様で問題も加速度的に増えていそう。


 イカれた女冒険者が街に来ていたりね。


 ……なんであいつらって、そんなにタイミング良いんだろうか。


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