第106話


「……手分けしよう」


 ターニャがそう言い始めたのは二つ目の街壁ニ門の内側、宿屋が集中的にある区画でのことだった。


 この街の出身でもなければ日も浅いテッド達のことだ、未だ宿屋住まいの可能性があると宿屋巡りをしている最中である。


 男二人女一人の三人組、かつ若々しく魔法も使えるとなればかなり限定されると思っての聞き込みだ。


 こういう時には、本当に写真って便利だったんだなって思うよ。


 幾つめかの空振りを経て、ターニャがそう提案してきた。


「効率重視か? 別にそこまで急いでるわけでもないけど……」


 春までには帰りたいと思っているが、まだ街に来て二日目である。


「ううん、急いだ方がいい」


 珍しく断定するターニャにたじろぐ。


 どうしたんだ? 角材が血を吸いたがっているとかいう理由だろうか? 落ち着いて。


「……あれでテッド達は、そこそこに実力がある。この街で色々知れたから


「うーん……それはどうだろ? 修行とか言ってずっとチャンバラしてたし、アンのランニングには付き合ってくれなかったし……」


 おかげで足が痙攣するまで走らされたよ、本人は至ってケロッとしていたことに戦慄を覚えながら。


「……。本来ならそこそこの注目を集めてる筈」


「えー? テッド達が? そんなバカな……」


 前世知識を駆使して作った知恵の輪を、ひん曲げて「解けた!」って言う奴らだぞ?


 脳筋ですよ、そして冒険者はそういう奴らの集まり、つまり木を隠すなら森状態なだけだと思う。


 鼻で笑う俺をターニャがジトり。


「……レンの基準も、ちょっとおかしいから」


「…………え?!」


 え? 俺のこと、おかしいって言った? 前世の天気予想よりも詳細に天気を当てるターニャが? 標準的な村人適性の高い俺を? 基準がなんだって? もっかい言って。


「……不確定要素が混ざってる気がする。テッド達の『計画』は、あれで妄信するだけの下地が出来てたのに。。早くしたほうがいい。…………レン風に言うなら、嫌な予感がする、から」


「……それは信頼出来る」


 マジか? なんか事件か事故に巻き込まれた可能性があるということか?


「……宿屋巡りは意味が無いから、最初の街壁と最後の街壁の内側を手分けしよう」


「よし、ちょっと待ってくれる? 今なんて?」


 え? 意味無いの? なんで言ってくれないの? 何が意味無いの? どうして?


「……チャノスは、お金の管理にうるさい。馬車を盗んでいったんだから、可能な限り馬車に泊まると思う」


「……街の中なのに?」


「……街の中なのに。検問を越えたら、馬車道が街壁沿いにグルっとあった。普通に考えれば、停めるところもある。泊まるとしたら、そっち」


 早く言ってよ……。


 そういえば生活用品もガメていったんだったな、奴ら。


 変なところばっかりしっかりしてやがる。


「……わたしは、外壁沿いを調べる。もう一つの冒険者ギルドにも行ってみる。収獲があっても無くても、夜に、宿屋」


「よし、じゃあ俺はちょっと待って? 俺がダンジョンの方なの? あのスラムっぽい? 荒くれの巣窟に? 一人で?」


「……男の子だから。わたし、か弱いから」


「いや、ターニャならなんとか――なりませんね。よし、それぞれ手分けしてテッド達を探そう!」


 か弱い乙女が角材をギュッと握ったので、片手を上げて回れ右。


 子分は親分の言うことを聞くものだと駆け出した。









 実質、治安の悪さで言えばダンジョンの入口付近の方が圧倒的に悪いだろう。


 ただ……なんだろう?


 悪人が横行する無法地帯みたいな悪さではない。


 ギルドでの決闘騒ぎみたいなのは特殊な類いで、その粗暴さから喧嘩沙汰なんかは度々起こすようだが、限度を越えることはない冒険者達。


 巡回している兵士に喧嘩を止められた上に叱られている冒険者を見れば、しっかりと治められているんだなぁ、と感じるダンジョン都市。


 ここの領主様は、当然ながら開拓村の領主様でもある。


 治世はしっかりしているようだ。


 選挙があれば一票入れよう。


 ただ……なんだろう?


 物事には『空気』と呼ばれるものがある。


 俗に言う、空気読め、の空気だ。


 もう一度言うが、冒険者というのはガラが悪い。


 言葉も態度も乱暴で、大声で下世話な話をしては大酒を飲み、路上で眠る。


 今は昼を少し越えた時間だが、巡回中の兵士に叩き起こされている冒険者が、路地裏に入ればチラホラ見受けられる。


 冒険者はいいんだ。


 自分の責任であれこれしているのだろうし。


 じゃあ何が悪いのかと言うと…………。



 その『空気』にてられた子供が悪い。



 ハッキリ言うと……不良? みたいな奴らがいる。


 冒険者の言動に引っ張られているのか、それともその姿勢をにでもしているのか、素行の悪い子供達が、ギルドの近くをウロチョロしている。


 例のお使い組の彼らだ。


 まあガラが悪い。


 地ベタで飲み食いしながら路地裏を占領し、感じの悪い目付きで睨んできてはニヤニヤとした笑い方でヒソヒソ話をする。


 おかげで冒険者がまだマシに見えるというのだから不思議だ。


 ……そういえばテッドもやけに冒険者を肯定するところがあったな? なに? そういうもんなの? 年頃の男の子は。


 地元の不良が溜まっているゲーセンみたいな治安の悪さがある。


 だからだろうか?


 ――――俺がバレっバレの尾行に合っているのは。


 ……なにこれ、どうしたらいいの?


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