第104話
「食料は持ったか? 水番は誰だ? おい! ロープも入れとけって言ってんだろ!」
「外、中? ああ、潜んのか? バカ、行かねえよ。今日は休みだ」
「保存食あるよ! 一月持つよ! 今だけオマケするよ!」
「買っとくか? 安いぞ」
「バカ、あそこのはマズいんだよ」
雑多な喧騒が冒険者ギルドの外に響く。
路上で店を開く者、仲間と装備の確認をする者、冷やかしのように屯する者。
村じゃ見られない騒がしい光景だ。
冒険者ギルドは、街の中心に一つある。
三階建てぐらいの大きさなのに、これで平屋建てだという建物。
ここがダンジョンに潜る方のギルド……らしい。
ターニャ調べ。
露店は特に賑わっている感じではないのに、ギルドからの人の出入りが多いせいか、街の入口よりも混沌としているように感じる。
ダンジョン都市というのは、通りのどこにでも人がいるわけじゃなく、二つ目の門を越えた後なら比較的に静かな印象があった。
しかし最後の門を越えると途端に人が増えた。
しかも見るからに荒くれ者。
如何にもな有り様だ。
まだ冒険者ギルドにも入っていないというのに。
「どうしよう、帰る?」
「……帰らない」
正直、苦手な雰囲気です。
有名オンラインゲームのクエスト板の前のような空気が、村人はお呼びでないと言っている。
しかし明らかな村人ルックでも浮いている訳ではない。
同じ歳頃の子供もいるからだ。
ただ……あっちは明らかにスレている感じがあって、近寄りたいとは思わないが。
そんな子供が何をしているかというと、今にも冒険に繰り出しそうな冒険者に声を掛けては、手を振られたり頷かれたり。
なんらかの交渉が見られた。
「なにあれ?」
「……たぶん、お使い」
あ……あ〜。
村じゃお使いなんて金を貰える作業じゃないんで忘れていたが、子供が労働の対価に金銭を得る手段としては妥当だろう。
お手伝いしたら幾ら、みたいなやつだ。
報酬を受け取る子供を横目に見ていると、目が合っては睨まれたので、視線を逸らしながらギルドへ向かう。
混雑しないようになのか入口と出口が別だ。
ターニャと並んで入口の列に付く。
さすがにギルドに入るとなると注目されるのか、前後に並んだ冒険者からジロジロと見られる。
「……お前ら、もしかして登録か?」
「あ、いや。人探しです」
「あー、なるほど。わりぃ、なんでもねえ」
後ろに陣取っていた冒険者グループの代表っぽいおじさんと二言三言交わしてギルドへと入る。
中は――――
「解体は四番です! 職員が受け取りに参ります!」
「査定が終わりました。この紙を持って六番にお願いします」
「すまない! 誰か手を貸してくれ!」
外よりも活気があった。
……冒険者ギルドって窓口があって、酒場と併設されていて、どっちかと言うと集会所のような雰囲気だと思っていたのに。
吹き抜けのように作られた建物は、体育館染みていて、冒険者ギルドというより、築地にある市場のような活況だった。
一目見て分かる職員さんは、黒白の制服に首から黄色いカードをぶら下げている。
入口から抜けた冒険者は、真っ直ぐに進む奴らと、右手に逸れる奴らに、大体二分された。
正面に進むと、地下へと下る階段があった。
「あれがダンジョンか?」
「……うん。左側から出てくる冒険者がいるから、間違いない」
ターニャに促されて地下への階段を注視していると、ヨレヨレの風体だが目をギラギラとさせた冒険者達が階段を上がってくるところだった。
「ダンジョンに用は無いんだよ」
「……そうだね」
意見の一致をみたので列を外れて、暇そうな職員さんに声を掛けてみることにした。
あまり手が空いてそうな人がいないのもまた、俺が想像していた冒険者ギルドと違うところだった。
……壁際に並んで立っている冒険者って何をしているのだろうか?
「あの、すいません」
「はい、なんでしょう?」
ちょっと神経質そうな見た目の職員さんに話し掛けてみた。
見た目と違って態度は丁寧で穏やかだ。
「人を探しているのですが?」
「一緒にパーティーを組みたい誰か……とかでは無さそうですね」
こちらの装いを見て頷く職員さんに頷き返す。
「はい、同郷の冒険者なのですが……」
「お名前をお伺いしても?」
「テッド、チャノス、アン」
「失礼しました。お伺いしたいのはあなたのお名前でして」
「あ、すいません。えと、レライトです。って言っても、探してる冒険者は俺の愛称しか覚えてない可能性があって……」
「失礼しました、レライト様。お探しになられている冒険者が当ダンジョンを攻略中かどうかは、お答え出来ません」
…………え?
職員さんの申し訳無さそうな表情に、思わずターニャを確認してしまう。
いつものジト目、よし!
再び振り向いて職員さんに質問する。
「……なんでか聞いてもいいですか?」
「当ギルドではダンジョンに潜る冒険者を確かに把握しておりますが……これを第三者に漏らすことは禁じられております」
「……いるかいないかだけでも」
「申し訳ありませんが……」
うわっと、それもダメなのか……。
「えーと、同じ村の出身で、証明も出来るんですけど……」
「たとえ肉親であろうとも、例外にはなりませんので……ご了承ください。と、言うのも――――」
職員さんがゴネる俺に向けて説明を始めようとした時。
「――――ここに! バーゼルという冒険者がいると聞いてきた! どいつがバーゼルだ?」
冒険者ギルド中に響き渡る程の高い声が聞こえてきた。
職員さんの言葉が続く。
「――――仲介をすると、それがトラブルの元になりかねないからでして……」
ああ、うん……そうですね。
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