第98話


 男女関係に悩む幼馴染の話を聞き出すのって難易度高くないですか?


 翌日、晴天。


 霜が降りた土を踏みしめながら待ち合わせ場所に急ぐ。


 そう、待ち合わせなのだ。


 ド直球に「ケニア、最近元気なくない?」と訊けるわけでもないので、久しぶりに集まるという名目の元に、それとなく悩みを引き出して元気付けてあげよう、ってターニャさんが……。


 …………それ、難易度にSがどれだけ付くよ?


 ケニアの親友ポジに納まるターニャで無理なら、もう無理な気がしている。


 ……それにそんなに心配しなくても、割と早々と逃げ帰ってくる問題が解決する気がしなくもない。


 そうなんだ。


 テッドとチャノスからしたらどうなのかは知らないが、外側から見ていると二人は随分と安穏な育てられ方をしていた。


 いわゆる温室育ちってやつだ。


 自宅にあったからって必需品と馬を持って行く辺り間違いないだろう。


 周りもそれを容認していたけど。


 間違いなく勝ち組のご家庭。


 ……でもそれってドが付く辺境の村の中だけの話なのだ。


 他じゃ違う。


 手痛い教訓を学んで居心地の良い場所に戻るのが、出戻りのデフォルト。


 前の世界の知識にもある家出少年の末路である。


 ぬくぬくと育てられていたからなぁ……最短で夏には戻ってくるんじゃないかな? 一人暮らしに夢を見ていた中高生が、五月を過ぎて社会を知るように。


 実際エノクとマッシがそうだった。


 無断脱走の共犯兼、偽冒険者騒ぎの被害者で、さすがに懲りたと思われた二人は、しかしいつの間にか冒険者登録をしていた。


 しただけ、である。


 時期から見て商店の手伝いで街に行った時だろう。


 その時に、何を見て何を知り、またどういう結論に辿り着いたのかは知らないが、エノクとマッシは村に居る。


 今じゃ幼馴染の一人を嫁に貰って一家の大黒柱として真面目に仕事に励んでいるエノク。


 嫁探しの真っ最中であるマッシ。


 『俺も昔はワルだった』を地で行く二人であった。


 二人の例を辿って『テッドとチャノスも真面目になるんじゃないか?』というのが大方の見方となっている。


 大人への儀式みたいなもんである。


 ……ただ心配なのはアンだ。


 なんか成功しちゃいそうなんだよなぁ……。


 アンの身体能力は、ちょっと同年代じゃ追い付けないぐらいの成長を見せている。


 それこそ期待のルーキーになってしまいそうな実力を伴って。


 マッチと蛇口、間違えた、テッドとチャノスよりは少なくとも冒険者として成功しそうな気がする。


 なのに冒険者になることに積極的じゃないという悲劇。


 恐らくは流されての参加だろう。


 しかしテッドとチャノスが村に帰る決断さえするのなら、アンもその決定に従いそうな気がするのもまた事実。


 ……問題ないとは思うんだけど。


 色々と頭を悩ませているうちに、待ち合わせ場所に着いた。


 村唯一の酒場だ。


 四年前ぐらいから存在するそこは、大人の社交場というよりか、奥さんからの解放を意味する施設である。


 チャノス商店が経営。


 俺達みたいな若者は、売店の喫茶スペースでたむろするのが通例だが、今回はここが良いとターニャの肝入りで決定した。


 知らなかった事実なのだが、酒場が開店する夜より前は、食事処として使えるらしい。


 始めて知ったよ……利用しないからなぁ。


 そんな酒場の前で、妖精もかくやという愛らしさの、今日はスカートを履いているターニャが俺を待っていた。


 恐らくはケニアの着せ替え人形になったのだろう。


「おはよー、ケニアは?」


「……中にいる」


 そっか、もう来てるか……なんか土壇場になって帰りたくなってきたな。


 カランコロンという洒落た音を響かせて酒場のドアを開く。


「おーう、……ってなんだ、レンか。ケニアなら奥にいるぞ。二人にもパンとスープでいいか? 勿論、レンのは肉抜きな」


 L字になった店内は、入口から早々にカウンターが見える。


 顔見知りのおじさんがカウンターの奥に立っていた。


 昨日の初狩りぶりである、ちくしょう。


「お願いしまーす」


「……果実水、三つ」 


 バーテンの癖に平服で、客の注文を勝手に決めるのが村クオリティーだ。


 テッド達、村の外の酒場じゃ驚くだろうなぁ。


 知り合いに手を振りぞろぞろと店の奥にそぞろ歩く。


 店内はスカスカだが、客がいないわけでもないのがまたなんとも言えない……まさか深夜の客がオールしたわけじゃないよね?


 テトラとモモには近付かないように言っておかねば。


 酒場の最奥にある席に、ケニアがいた。


 ……………………美人になったなぁ。


 ともすれば幼少の頃から知っているのに溜め息が出そうなぐらい、ケニアは女性として成長した。


 体つきは、いわゆる出るとこが出て引っ込むところが引っ込むというやつで、顔も村一番を名乗ってもおかしくないぐらいに整っていて、性格も良妻賢母を地でいく充実っぷり。


 こんなの男共が放っておくわけもなく。


 成人が近くなり言い寄られることも増えたと、前に会った時は愚痴られたことを思い出す。


 その中にマッシがいたのはご愛嬌。


 ずっと変わらない三編みで――――あまり見ることがない憂い顔だった。


「……あ、レン。久しぶりー」


 しかしこちらに気付くと、表情を輝かせんばかりに変化させる。


「……なるほど。こりゃ重症だな」


「……うん」


 直前の表情を見ていなければ勘違いしていたところだ。


 手を振ってくる、無邪気さを装う痛々しいケニアに応えながら、席に近付いた。


 ちょっと長くなりそうである。








◇◇◇


お知らせ


新作も始めてましたのでよろしくお願いします


「異世界に逝ってと言われたので無人島で生活をすることにしたら」


本作とは毛色の違う異世界物です


初の長文タイトル


宜しかったらどうぞ


どうぞどうぞ

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