第96話
テッド達が村を出て行ったのは冬になる直前のことだった。
冒険者になると普段から公言していたのだから、いつかはこういう日が来るんだろうと分かってはいたけど……。
早い、早いよ。
奴らまだ十四歳になったばかりなのに。
最近の村長や
……後継者教育を始めちゃったからなぁ。
いつまで経っても夢から醒めない息子に業を煮やした父親が、とうとう家の仕事を手伝えという指令を下したのだ。
それだけならまだしも、バカな考えは止めろと大人を全面に出しての意見の否定まで入ったという。
よくある大人と子供の意見のぶつかり合いから決裂までの流れがあったことは言わずもがな。
昨今、自らの振る舞いに自信を付けていたテッド達一同が成人を待たずして村を飛び出したのは当然の流れだったのかもしれない。
小難しく言ったところで、やったことと言えば唯の家出である。
思春期真っ只中か。
思春期真っ只中だった。
ついていったのはお馴染みの幼馴染。
チャノスとアンだ。
仲良し三人組が本当に村を出て行った。
後継者教育が仇になったとでも言えばいいのか、チャノスが薪の流通ルートを調べ、家に馬車があるタイミングを見計らって、馬車ごと村から消えてしまったのだ。
いやそれ泥棒やで?
確かにヴィーヴィル商店の物やけど、私物でなく村の共有財産みたいなものなのに……。
商店や村長宅からは、他にも幾らかの生活用品や武具等が無くなっていたそうだから、犯人はハッキリとしている。
ドゥブル爺さんが言うには、弟子が成人したら渡すつもりだった冒険者装備一式も不思議と無くなっていたというが……。
師匠、甘過ぎじゃない?
怒り狂うヴィーヴィルさんを執り成したり、眉間を揉んで顔を顰める村長と酒を酌み交わしたりと、弟子のフォローにも余念がなかったドゥブル爺さん。
こりゃいくらか現金もやってそうだなぁ、という見解もターニャとの一致をみた。
エノクとマッシは苦笑い。
ユノは売店でヒーヒー言っていた。
笑っていたのか泣いていたのかは微妙なところだ。
チャノスのせいで在庫の調べ直しが発生していたので。
村人のテッド達に対する反応は『あ~、ついにやったか』といったもので、俺もここに属している。
まあ、それにしては夜逃げみたいに出て行ったものだけど。
一応、悪い事をしているという自覚はあったみたいだ。
幼馴染が出て行ったことによる他の幼馴染の反応は様々だった。
まず……モモちゃん。
まあ、モモに取ったら歳なんて近くもなんともない姉の知り合い程度の関係だったから、小揺るぎもしない表情で「へー」といった珍しく興味の無さそうな反応だったけど。
そんな表情の時だけ似た者姉妹だね?
対するターニャの反応も「……へー」で終わったけども。
これが兄妹にもなると違う!
さすがに兄が早々に村を出て行ったことに思うことでもあるのか…………テトラは――――
元気になった。
ふ、不仲じゃないんだよ? ただテトラも自立心が芽生え始めたからか、丁度『お兄ちゃん、ウザい』みたいな時期に来てて……不仲じゃなくね?!
こちらも思春期の反応に、思春期とかもう思い出せないぐらい前の
にこやかな表情で村を飛び回り、兄がやらなかったという後継者教育も後を引き継いでやっている。
あ、これ退路絶ってるやん。
テトラ…………。
あまりの機嫌の良さに子猫が
お、俺のせいにするなや人外?! お前四六時中テトラにくっついてたやないかい! どうにか出来んかったんか?!
きっと心の中では兄を失った寂しさを埋めるために必死なんだよ……誤魔化すためにああいった行動に出てるんだよ……て、天使だから。
テトラは天使、それがこの世の理。
スラッと伸びた手足や、腰の後ろで結ぶようになった髪などから、テトラが幼少期を脱しつつあるのは見て取れた。
偶々精神の成長と時期が被っただけだろう。
天使だから、間違いないから。
最近この主張にターニャが反論するようになったけど。
まあ、確かにな。
モモちゃんも可愛いとフォローを入れたら、久しぶりに角材隠れ鬼が開催されることになったのは記憶に新しいところ。
自分の妹の方が可愛いという主張じゃなかったようだ。
テトラに迫る可愛さがあるよね、モモちゃん。
無邪気というか、なんというか。
モモちゃん世代の子供っていないから、よく遊んであげているのだが、本人は全く気にしていない模様。
少し上の世代の子供と楽しそうに遊んでいる。
なんつったっけ? ドレ、ミファ、ソラ、みたいな名前だったなぁ、あいつら。
そんな歳下の中には残念な表情をする子供達も居て、テッド達に意外と人気があったことに驚いた。
そりゃそうか、魔法持ちだもんな。
……そうなると俺の幼馴染達の反応って一体…………。
しかし比較的には『なるようになった』という雰囲気を見せる村の中で、唯一と言っていい程に気落ちしているのが、ケニアだ。
この時は、そういうこともあるのが人生だと軽く考えていたんだけど……。
これが中々の問題に発展することになった。
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