第93話
コタツにテレビじゃ……ないよなぁ。
意識を戻して目にしたのは、慣れ親しみつつある陽の光だった。
「あー! レー、起きたぁ!」
……さすがはテトラだ、後光が差してるよ。
指を差すテトラに手を上げて応えようとしたが、体は全くと
……ええ? どうなってんの、俺?
どこかの木に寄り掛かっているようだ。
歪な稜線から昇る朝日が視界を焼く。
目を逸らしたくても、逸らせない現状……まあテトラが元気そうでなにより…………。
いやヤバい、帰らんと。
無理やり体を動かそうと力を入れると脳髄に痛みが走った。
だからなんだと言うのか?
時間厳守、それが社会というもの。
うおおおおお! 遅刻するぅううううう?!
何が悪いのか分からないけれど体の何処かが悪いらしいと、咄嗟に回復魔法を掛けようとしてフと気付いた。
「……あれ? 魔力がそこそこ……」
戻ってるな?
少し寝ていたからだろうか? 朝日が出ているということは、四時間ぐらいは寝ていたことになる。
それにしては多いような……? 意識を失う寸前の魔力残量は、命の危険を感じるほど少なかった気がしたのだが。
回復するにしても……早くない?
五割以上ある。
「……愛し子と、『ミィ』……に、感謝……するといい……」
うお?! いたのかよ? どこ?! 後ろ? ちょっ、せめて見える範囲に居てくださいよ?!
怖いので。
首を動かして大蛇を探すと、寄り掛かっていると思われた木が、どうやら蛇の体だったようで……だって白い……。
陸にも壁にもなれる、便利な蛇だ……。
いや俺も自分が何を言ってるのかよく分からないや、ちょっと寝直すから、朝ご飯の時間に起こして。
真っ白な蛇面が空から降ってきた。
勘弁。
改めて陸地で見ると尚デカい。
大きさが際立つ。
「……無くなった、糧を……『ミィ』が、分け与えた…………こやつは、少し……特殊、ゆえ……」
お前の体の方が特殊だよ。
ひええ、朝なのに暗いよ〜。
「レー、元気になった? かえろ」
それな。
ペチペチと頬を叩いてくるテトラに微かに首を動かして返す。
回復魔法の効きがイマイチだ。
「ああ、帰ろう……」
日常に。
こんな変な森じゃなくて、畑に囲まれた俺達の村に。
森は……一言で言うと荒れていた。
朝日が歪な稜線を描いているのは、山の形が大きく欠けているからだろう。
……欠けているって言うか、抉られている。
あの爆発の影響はそれだけに留まらないようで……。
混ぜっ返された大地と焼け焦げた樹木が、山を中心点に波のように広がっていた。
中心に居れば俺も無事では済まなかっただろう。
…………いやほんとによく無事だったよね?
ようやく動かせるようになってきた体を、再度確認して欠けがないか調べる。
徐々に戻ってくる力に、手を握ったり開いたり。
「よし、復調。テトラ、帰ろうか?」
「うん」
「……よい、のか……?」
おい、余計なこと言うなよ蛇面? 約束は守ったでしょうが?! 正確には自滅したんだけど?! 俺、頑張ったでしょうが?!
しかし蛇に問われたテトラは気にする風もなく、俺と手を繋いで満面の笑みを浮かべた。
行きと同じように。
「テー、かえるー。レーとかえる。やくそく」
「そうそう! 約束ならしょうがないね? 約束だもんね?」
大人は破りがちだけどね?
ニヘラ、と笑うテトラに笑顔を返していると、目の前にある天使の御髪がウネウネと動き出した。
テトラ……もう
「ミィ?」
現れたのは、子猫……?
しかし随分とミニマム。
どうした? サイズが半分になってんぞ?
手乗りサイズとは思っていたけど、それじゃテトラの手にも乗れるやん。
「うん、かえるー。おねがーい」
「ミ」
なんらかのコントタクトを交わしたテトラと子猫。
昨晩のように子猫が地面に飛び降りてお絵描きを始める。
ちゃんと帰り道もあるようだ。
最悪テトラを背負って帰るつもりだったのでありがたい。
なんかよく分からんが助けられたみたいだし、帰りにうちで作った干物でもやるとしよう。
サイズが半分になったせいなのか、行きよりも描くのに時間が掛かっている。
ちょっとした待ち時間。
「……礼を、言おう……」
蛇が話し掛けてきたのは、そんな時だった。
そうか……その前にちょっと離れてくれる? 圧力半端ないぞ、お前。
早く帰りたい理由の一、二を争う。
見上げると巨大な蛇面。
……ほんと、傍目で見てたらパクっといかれそうにしか見えないよ。
「……いいよ、別に」
「……祝福無き、罪人よ……感謝、する……」
いやしてないね? 絶対感謝してないね?
なに? 祝福無き罪人ってなんやねん? どんな極悪人だっつーんだよ。
「……なんの間違いで生まれてきたか……わからぬ……しかし世界に『属』さぬ身でありながら……よく、やった……」
……は?
ゆっくりと瞳を細くする蛇に、心臓を引き絞られる。
何か……こいつ、何か知ってるのか?
いや、分かるのか?
だとしたら――
「俺は――」
「レー」
繋いだ手を、テトラが引いた。
「ミィが、『できた』ってー。かえろー」
……ああ、毒気を抜かれるというのはこういうことを言うんだろう。
無邪気な笑顔に詰めていた息を吐き出す。
「…………帰るか」
「うん、かえるー」
昨晩も見た光る水溜まりに、今度は二人並んで歩き出す。
「……いずれ、また……」
降ってくる声に振り返ることなく答える。
「次とか無ぇよ」
吐き捨てて水溜まりに逃げ込んだ。
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