第91話
テトラを精霊の巣に残して、単身で水上を目指す。
手が無いことはない。
これはゲームじゃないのだから。
あのロボットの製作者の目的がなんなのかは分からないが、戦闘を主眼に作られたであろうことだけは分かる。
最高強化の攻撃を跳ね返す最硬のボディ、ダメージを瞬時に回復する機構、殺傷目的としか思えない各パーツ、トドメがビームを放つレンズである。
正しく
これがゲームなら、コントローラーを投げ出してデッキを割ってメーカーにクレーム入れて終わりだろう。
なんてことはない。
しかし
――――それがそのまま、あいつの弱点にもなる。
ゲームなら、不可避の戦闘に絶望感を覚える壁にしか見えないだろう。
どれだけ殴ろうと回復されてダメージは蓄積されず、相手の攻撃は受ける手順を間違えば即死。
クソゲーである。
しかしこれは現実だ、現実なのだ。
無補給で動き続けるロボットなんて、現実には有り得ない。
充電式、吸収式、もしくは交換式か?
エネルギーを得る手段が必ずある筈だ。
そしてそれはあのロボットにも
最高の攻撃力を持った最硬のロボット? 確かに倒せる相手じゃないのかもしれない。
少なくとも通用しそうな攻撃手段を、俺は持っていない。
ゲームなら、どこの誰だか知らないが、お前の勝ちだったんだろうさ……。
――これが画面に挟まれた戦闘じゃないことを教えてやろう。
精霊共からの聴取は済んでいる。
一年も前から暴れているあのロボットは、最近になってよく眠るようになったという。
最初の違和感だった。
無生物なのに、『眠る』? 精霊共にはそう見える何かをしているんだとしたら?
もしくは――――休眠のような状態なのだとしたら?
触ってないスマホの電源が落ちるみたいに、エネルギーを節約しているのだとしたら?
勝ち筋はある。
もし無限に動けるのなら、動きを止める必要はない筈なのだから。
動かないロボットと、触らない大蛇。
それが一種の膠着状態を生み、ミィが逃げ延びる隙を与えたんだそうだが……。
…………逃がすなよ、って思うのは不謹慎だろうか?
……ああ、全く…………面倒なロボットだ。
さあ、やってやる。
深く水を吸い込んで、気泡と共に全身から魔力を吐き出す。
三年ぶりの魔力の解放は荒ぶりを抑えきれず奔流となって湖に行き渡る。
まずは水上に『霧』を行使。
視界を奪う濃霧が湖を丸ごと包み込む。
どちらがバテるか、我慢比べといこうじゃないか?
強化を最大にバタ足を始める。
魔力が渦を巻き、体に纏わり付く――――全能感がやってきた。
蹴り足が水流を生み、体が弾丸のように加速される。
ロケットともかくやというスピードで湖の上に飛び出したというのに、遅れることなくピンクの光が俺を突き刺した。
「ぐっ……?!」
跳ね飛ばされるままに湖岸を転がる。
やはり強めにぶん殴られたような衝撃がある。
減衰して、強化の上に、尚この威力……! 直撃だけは避けなくていけない。
次々と飛んでくるビームをジグザグに駆け回りながら避ける。
……ちょっと持論が揺らぎそうだから手加減して欲しい。
ちくしょう?!
倒れてきた大木に指を突き刺して持ち上げる。
――硬化魔法!
メキメキという音と共に巨大なターニャ棒の完成である。
ビームの盾にはならないだろう。
しかし本体を殴る分には痛くないぞ!
ダメージの修復にだってエネルギーを使う筈だ! ここからが根比べだからな?!
霧を突き破ってくるビームを勘で躱しながら、直進する。
強化魔法を使っていなければ出来ない芸当だろう。
肉体的にも精神的にも。
幸い、相手の位置は、このピンクの光が教えてくれる。
湖岸を沿って――――最初に居た位置と変わりない所に立っているロボットを発見した。
「喰らえ! クソパペット!」
巨木をフルスイング。
乱気流を生みながらロボットに迫る。
ズパッ、という竹を割るような音で巨木が真っ二つに斬られた。
片側に着いているソードアームが仕事をした。
薄く光っているのは何らかのギミックが働いているからだろう。
よ、よしよしよし! エネルギーを使わせてる、使わせてるぞおおお?! だからこっち来んな!
距離を詰めてくるロボットに対して、手元に残った巨木を投擲。
唸り声を上げながらロボットに向かう。
今度は逆側のアームが動く。
バチィ! という激しく革を叩いたような音と共に――――残った巨木が粉砕された。
突き出されたロボットアームからは放電現象が見られる。
……それはズルい?! クレーンゲームみたいな腕しといてスタンガン仕様とかないと思う?! なんだお前?! 転生者の前でチートとかいい度胸だな?!
ズダダダダ! と足音を響かせて蜘蛛が這うように近付いてくるロボットに魔法を放つ。
――――落とし
ベコッ、という音と共にロボットが視界から消える。
「よっしゃ! 次だ!」
グッと手を握り込んで次の魔法を放つ。
瞬く間に落とし穴の中から火柱が上がった。
落とし穴から尚漏れて高々と上がる炎――――しかしロボットは溶けた様子も見せずに飛び出してくる。
「しつけえんだよ!」
着地際を狙って全力の蹴りを放った。
どこかの盗賊から習った技法である。
腹に受けて金属を撓ませながらも、ロボットはソードアームを突き出してきた。
こっちの額に突き刺さる前に――ロボットは蹴りに押されて飛んで行った。
当たっていないというのに、額から一筋、血が流れる。
やはりあの光も攻撃範囲ということか……どこのフォース使いなんだ、あのロボットは?
魔力を節約するために傷の回復を後回しにロボットを追う。
乱発から考えて……あまり想像したくないことだが、ビームのエネルギー消費量は少ないと予想。
省エネでビーム? 製作者は天才だな。死ね。
こっちの考えを証明してくれるかのように、霧を裂いてビームが飛んでくる。
勘ばかりで全弾避けられる訳もなく、被弾しながら進む。
四脚で巨木を足場に立つロボットが見えた。
落とし穴対策だろう。
学習能力も高いとか、凄いね? 製作者は二度死ね。
「――木魔法!」
突き出した腕の先――ロボットの周囲から蔓が伸び始める。
森の魔物をナメんなよ!
ロボットは絡み付いた蔓をソードアームと刃物のような脚先で回転するように斬り伏せた。
チャンス!
一本だけ突き刺さっていた脚を全力で殴った。
折れ曲がった脚じゃ姿勢を保てずに、ロボットが落下する。
直ぐに回復するのだろうけど、どうやら落とし穴が嫌みたいなので繰り返してやろう。
相手の嫌がることをやる、それが戦闘の鉄則。
「
ロボットが目からビームを発射した。
推進力よろしくビームで高速移動したロボットが体当たりを噛ましてくる。
「ぐっ?!」
――――いかん?!
白刃取りの要領で、手が焦げることも構わず突き出されたソードアームを受け止めたが、返す刀で繰り出されたロボットアームを腹に食らう。
殴り付けられたダメージは大したことないが――接触してる! マズい!
避けれ――
「アース!」
――――叶ったのかどうかは分からない。
しかし一瞬の衝撃に確かに耐えられたことは分かった。
空気が爆ぜる音と体の中を走る衝撃音がリンクした。
歯の根が合わず唇が痙攣する、頬の肉が痺れ足に力が入らない。
ソードアームと手の平の肉が焦げ付いて離れなかったことが不幸中の幸い。
しかし次弾を用意されているのは分かった。
近付いて分かる、キュィィィーーという高周波音。
ふざけんなよ。
「テ、メェもく、え」
願うは雷。
目の前が白く染まった。
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