第89話
――――やれる!
やはりロボットの基礎速度は速くないのか、ビームを撃った体勢のまま、霧の中、為す術もなく立ち尽くしていた。
姿勢を確認出来る程近くにいるというのに、無防備な横っ面を晒している。
なら独壇場である。
「ふはははははは! 死すべし!」
正面から挑む度胸は無かったので、横合いから思いっきり殴り付けようと思う。
狙いは腹である。
レンズが弱点っぽく見えたが、どう考えても暴発が怖い。
もし本当に機械ならという注釈が付くけど、確かめる術がない。
いつでも腹さ、リーゼントも言ってた。
振りかぶってのテレフォンパンチをお見舞いする。
――――かっっっっっっったあ?!!!!
ガオン、という金属っぽい音を響かせて霧の中をぶっ飛んでいくロボ。
そして拳を押さえて蹲る
油断というのは、いつでも勝ったと思った時に飛んでくるのだ。
勝ったというか硬かった。
…………いっっっっっっっったあ?! 偶には素直に勝たせてくれてもいいと思うんだけど?!
『殴る方も痛い』という名言に「殴られる方が痛いわ!」と返していたのは前の世界での俺。
ほ、ほんとだ…………凄い痛いや……。
涙目で震える手に震える手で回復魔法を掛ける。
強化を推して初めて感じるこの
「あ…………しゅ、終了。もう終了です……」
痛えよ?! なんだあれ?! ロボットか? あ? 金属か?! いやどう見ても金属ですけどちょっとおかしいでしょ?!
痛みも腫れも瞬く間に引いていくが、出した涙は引っ込まない。
いや、本当に異常だ。
鉄や鋼なんて比ではない硬さを感じた。
少なくとも賊の皮鎧よりも遥かに硬いであろう痛さだった。
あのときもアドレナリンが出てただけで指の骨バキバキだったけど。
それでも結果が出てただけマシなのだと身を持って知ることになってしまった……。
芯に響く痛さだった。
遅れて響いた轟音に、飛ばされたロボットが着地したことを知る。
いつぞやの賊のように木を薙ぎ倒してのアクロバットだ。
ちょっとはダメージになっただろうか?
霧を残して環境破壊著しい跡を追う。
予想通り、木にめりこんだロボットの腹にはベッコリとした凹みがあった。
「……これは行動不能でしょ? 割とあっさり……」
ホッと一息つこうとしたのも束の間。
みるみるうちに、凹みが直っていく。
…………お湯に浸けたピンポン球みたいだなぁ。
安直な感想を他所に――驚きは続く。
ガション、という音を響かせて、ロボットが立ち上がったのだ。
「んな?!」
――――それは聞いてない?!
未だ強化魔法は使用中である。
キリキリとコマ送りのように動く魚眼レンズの射線から飛び退いて霧の中に入る。
ビームが腕を焼いたのはそんな時だった。
熱さは感じるものの、減退された威力に三倍の併用効果で高まった頑丈さが効果を発揮した。
…………蛇並みの焦げ跡もないぜ!
「昔マンガでビームとやり合うシーン読んでて良かったなあ?!」
ヤケクソである。
痛いものは痛い。
より短くなった照射時間は、高速戦闘への影響だろうか?
しかし発射へのタメが……!
しかも的を絞らせないようにとジグザグに動いているのに、この霧の中、ピンポイントで俺の位置に撃ってくるという。
なんだそりゃ?!
「こりゃ戦略的撤退ですよ?!」
風穴を空けながら倒れる木々を避けつつ、湖岸を回る。
こっちの攻撃は効かないのに、向こうの攻撃だけ通るとかやってられない! 異世界転生を果たした人間ってのは、大抵が周囲から抜きん出た能力を持っている筈なんだけどお?!
アンとのランニングが一番役に立ってるのはどういうわけかなあ?!
時折フェイントを掛けてみるが、間違いなく位置はバレているようで、ピンクの光が追ってくる。
曲射のようなことが出来ないのは周りへの被害からも確かだ……恐らくはロック機能のような物が搭載されていると見た。
美術室の残念工作の分際でええええええ?!
森に入って撒くのは無理か……湖の方へ戻るのは嫌だったが致し方ない!
体感時間と経過時間の乖離から、蛇側にしてみれば一瞬で逃げ帰ってきたように思われるかもしれないけど、結構頑張ったと思うんだ。
そんな言い訳が通ればいいなぁ。
霧を抜けて湖に戻ると、そこには大蛇の影も形も無く……。
…………いや、テトラの安全的に考えるといいんだけど。
なんか納得がいかないものを感じつつも、文字通り背中を狙うピンクの光に推されて、湖へと飛び込んだ。
恐らくは大蛇達も似たような対策を取ってきたのだろう。
狙い通りというか予想通りというか、ビームが追加されることはなく、ロボットも追ってくることはなかった。
問題は一点。
…………呼吸をどうするかである。
――――モグラ叩きのように、水上で待ち構える魚眼レンズが、妄想もかくやと連想出来た。
狙い撃たれちゃう……。
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