第81話
口止めを口止めで返された。
キッス的な意味合いではない。
もっと心臓にカミソリ当てられるような何かだ。
て、天使が……! 俺の天使が汚されちゃった?! 幼馴染達に!
ジト目はターニャ。
間違いない。
腕組んだりするのはケニアで、悪戯な笑顔はアンかな?
拾った枝を振るっていたのは、よくよく考えてみればテッドがそんな振る舞いをしていたので、真似をしているうちに癖になったとかではあるまいか……。
なんて奴らなんだ。
今後一切うちの子に関わらないで欲しいね、全く。
テトラは俺の『木壁ピョン事件』をナイショにすると約束してくれた。
その代わり、自分の方も手伝って欲しいという交換条件で……。
テトラにとってバレるバレないは二の次なのだろう。
「……テツダウ?」
「そー。レーも手伝ってほしー」
森の奥に行くのを?
「…………そもそも森の奥に行ってどうすんの?」
「わかんない!」
そっかー? じゃあしょうがないねー?
「――いっしょに行って、なにするんだっけ?」
テトラが首を傾げながら問い掛けたのは俺ではない。
光る毛玉だ。
「ミ。ミ、ミ、ミ。ミィー」
ナゴナゴする猫にフンフンと頷きを返すテトラ。
…………これはあれだよね? もう勘違いしようもなくあれだよね?
「テトラは…………その『ミィ』が言ってることが……分かるの?」
「うん、わかるよ? なんで?」
こっちが聞きたいなぁ……。
「え、だって? なんかミィミィ鳴いてるだけで……わけわかんないというか……意味不明と言いますか」
その存在もなんだが?
「うん。ミィは、ミィーって鳴くねぇ。かわいーねー」
うふふ、テトラ程じゃないよ〜。
いや待て?
「……ミィって鳴いてるのは聞こえてる?」
「きこえてるー」
「……つまりはそれが、言語なの?」
「げんご?」
高音や低音の使い分けで意味を成している――――なんてそんな都合のいい理由であるわけがない、よなぁ……。
ターニャならワンチャンそれで説明がついたかもしれないけど。
テトラがそこまでの天才であるわけがなく……むしろ俺に近いものを感じる。
ただ
――――教わるでもなく魔法の使い方を知っているように。
おそらくは、そういう能力があるのだ。
まあ俺も全然説明出来る気はしないんだけど。
そもそも全貌もよく分かってないし。
「テトラには……その、小さい子? マキちゃんも含めて、精霊が見えるし、言ってることが『分かる』んだな?」
「うん、わかる。……すごい?」
「とっても凄い」
「えへへ、レーにホめられちった」
「……ちなみに、村にはどのぐらいいるの? その…………小さい子、とやらは?」
「いっぱい」
い、いっぱい?
気が付かなかったあなたの身近にも、ほらファンタジー?
つかホラーファンタジー。
いっぱいいるのかぁー、そうかー、異世界って凄いんだなぁー…………見えないってだけで前の世界にも居たりするんだろうか?
「井戸にいるのがー、ツメちゃん。木の下でいつもねてる、ゴロちゃん。カゼちゃんはねー、走るのが好きなの」
カゼちゃん以外のネーミングの由来が分からない。
カゼってのは、『風』なんだろうけど。
向こうからは丸見えなのに対して、こちらからはまるで無防備……。
そしてテトラはそんな
……………………やっべぇー。
「……テトラ、もう一個ナイショ、増やそうか?」
「う? うん! いいよー」
「うん。テトラのその、精霊が見えたり言ってることが聞こえる、ってこともナイショにしよう」
「……これナイショ?」
「あ、え?! もしかして、もう誰かに話しちゃった?!」
「うーうん。レーにしか言ってない」
そ、そっか、それなら良かった……。
「……パパにもナイショ? ニチャにもナイショ?」
「……そう、だね。ナイショにしよう……」
念の為だ。
テトラの能力は相当に良からぬことに使える。
そしてそれが最も有効なのも権力者だ。
村長がどうこうというわけじゃないのだが……いざとなったらどうなるか分からない。
村長は村を第一に考えている。
知っているというのは、それだけ選択肢が増えるということに成り得るのだ。
……テトラは天使、それだけでいいじゃないか?
いや充分過ぎるでしょ?
テッドに関しては色んな意味で信用してないので。
ぶっちゃけ冒険者になるからってテトラを連れて行きかねないとも思っている。
「わかった! これはあれー。えーと……ふたりだけ、のナイショ? のやつー」
うん?
「そうそう、二人だけの秘密ってやつで」
「……ふふふふ」
随分と持って回った言い方だが……どうせケニアとかアン辺りから仕入れた知識だろう。
二人が何処から仕入れたのかが気になるところではあるが。
「よし! そうと決まれば事情を聞こうじゃないか。テトラ、ミィはなんて言ってたの?」
「ふふふふふ、あのねー? ミィはねー? セーレーがいっぱいいるところからきたんだってー」
精霊の村? 的な?
ともかく人間がいないらしいことは分かった。
「それで?」
「それでー、ヒド〜〜い奴がいるんだって。大きいセーレーさんが、めっ! って言うんだけど、聞かないんだって」
テッドみたいなのが居るわけね?
「だからいっしょに行ってー、ダメだよー、ってしてほしいって。言ってる」
……仲裁を求めてるってことでいいのか?
なんでわざわざ人間に……あ、いや!
この場合はテトラの能力が欲しいのか?!
あんまり考えたくないんだが、テトラの能力が言うことを聞かせられるって範囲まで及ぶんだとしたら……!
…………って、恐ろしいな。
そんなチートが存在していいのか?
「あー、うん、わかった。俺も一緒に行くわ。そこまでどのぐらい時間が掛かりそうか訊いてくれる?」
「やたー! …………ふんふん。あのねー、すぐだって!」
空を飛べばとか言わないよね?
「あるいてー」
そっか…………ところで伝えるのに言葉はいらないんですね? いや、まあ、いいんだけど……。
「よし。その言葉がイマイチ信用出来ないのは置いといて……行くとするんなら色々と準備せねばなるまい……」
いざとなったら三倍速で行けるからなんとかなるとして……。
「言い訳作りと……テトラを外に出す理由? そんなん可能なのか? 上手いこと時間を作れば大丈夫か……? チャノスの家の馬車に潜り込んだことにするとか?」
「ねーねー」
ブツブツと小声で今後の段取りを口に出し始めた俺の背中を、テトラが引っ張った。
……もしやモモちゃんの真似とは言うまいね?
振り返ると笑顔のテトラ。
「あのねー、今日だってー」
何が?
「もうケガもなおったから、今日もどるー、って。ミィが言ってる」
よし。
ちょっとその猫、俺に預けてみようか?
大丈夫、何もしないから。
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