第79話


 順繰りに話を聞いた。


 なんかすっかり聞き役に徹している幼馴染のポジションを、そろそろ変えたいと思ってきている。


 ……だってめちゃくちゃ面倒なんだもん。


 一番楽なポジションだと思ってたのに……。


 まずテトラがミィとやらに会ったのは二週間前ぐらいだそうだ。


 正確な日時は覚えてないとのことなので、大体になる。


 …………テトラの行方不明ってここ何ヶ月かなんだが?


 テトラの普段が迷宮入りしてしまった。


 出会いは…………読んで字の如く『空から落ちてきた』そうで……。


 そんな出会い方って現実に出来たりするんやなぁ……。


 主人公とヒロインが出逢うそれやん。


 もうテトラ主人公やん。


 可愛いので可。


 しかし落ちてきたのが面倒事とは……テトラも報われないなぁ……どーれ、お兄さんがナイナイしてあげようか? いらない? そっかー……。


 今日のように原っぱにて虫を見つめていたテトラに、空から真っ直ぐ――――雲を貫いてのが、その猫モドキらしい。


 傍目から見たら幼女に隕石直撃のトラウマシーンである。


 近付いてきたミィは、テトラに必死に何かを伝えようとしていたそうなのだが、如何せん弱っていたせいかが聞き取りにくく、とりあえず『助けて』という言葉に従って、ミィを元の状態に戻すべく奮闘を始めたという。


 …………うん、まあ……うん。


 人の目に晒されたくないというミィの希望に従って、テトラはチャノスが持っていた家畜小屋のスペアキーを貰い、今や誰も気にすることがなくなった抜け穴にてミィを飼い始める癒やすことにしたんだとか。


 ……貸して? それだとチャノスが……黙って無断で? そうか、うん……そうか。


 とはいえ、テトラにしても未知の経験。


 何をどうしたらいいのかなんて分からない。


 ――――分からないなら、聞けばいい。


 そんな基本的な考え方に立ち返ったテトラは、幼馴染達に「弱った精霊動物を元気にするにはどうしたらいいか?」を聞いて回ったらしい。


 ……ああ、内緒でペットを飼ってるとでも思われたのか……。


 満場一致で『食わしとけ』になった答え。


 こっちの世界の女の子が逞しくて男の子が不必要な件。


 男子側に意見は求められていない。


 ……よね? 俺だけハブられてるとかじゃなく……だよね?


 テトラは言われるがままミィに食べ物を与えた。


 最初は、テトラが食べる食事を残して与えていたそうなのだが……ミィは加工された食事を嫌がったという。


 なるべく素材のまま、味付けのされていない食べ物を好むんだとか。


 水は井戸の物でも魔晶石で作り出した物でもオーケー。


 しかし食材は畑に盗みに入るわけにもいかず。


 そこで野菜の切れ端やヘタを中心とした食事になったようで……。


 大絶賛する畜生がいたから? 自分の料理の腕を誰かに見て欲しくなって? ほうほう? ちょっとその猫貸してくれる? ダメ? そっかー……。


 おままごとの真実に辿り着いてしまった。


 俺の冒険はここで終わりということでいいんじゃないかな?


 最近になって回復してきたミィが言うには……あ、ちょっと待ってくれる? 心の準備するから、ダメ? そっかー……。


 ミィが言うには『ヒドい奴がいる。みんなイジメられてる。助けて欲しい。森の奥にある聖域まで一緒に来て』とこう。


 なるほどね。


「断ろう」


 断ろうや……。


「ミ?!」


「……どうして?」


 どうしてって……。


「どうしても」


「……なんで?」


 なんでって……。


「なんででも」


 一般的な親子の会話受け答えに終始する俺とテトラ。


 どうせ説明したところで納得なんてしちゃくれないのだ。


 捨ててきなさいと言われつつも神社にダンボールで飼い始めるのがオチである。


 村が関係するわけでもなく、更にはテトラにも危険が及びそうだというのだから……。


 頷けるわけがない。


 なので強行な姿勢は崩さない。


「そもそも子供テトラだけで村の外に出ちゃダメだろう?」


 どの口が言うのか、というのは置いといて。


「…………ぶぅ」


 そっぽを向いてしまったテトラ。


 珍しいことに頬を膨らませて、精一杯の不機嫌を演出している。


 可愛いが留まらねぇよ。


 テトラの不機嫌を察知して困惑するような慰めるような態度を取る水の精霊。


 必死にテトラの指をペロペロ。


 殺意が留まらねぇよ。


 きっと賛成してくれると思っていたのだろう。


 無条件の信頼が今は痛い。


 味方だよ? 俺はテトラの味方さ、勿論。


 しかしだからこそ、賛成は出来ない。


 プリプリと怒りを露わにするテトラが珍しくて写真に収めたいと思っていても!


 俺は味方なんだよ!


 さあ、じゃあこの件はお終いということで……。


「……レーはナイショでお外に出たのに」


 ――――ちょっと待て?


 拗ねた様子のテトラに、浮かし掛けた腰を降ろして対応する。


 ななななんでかな? どどどどうしてかな?


 バカな……バレるわけが……ターニャか? いやあり得ない?!


 ……あ、あー……あっちの件かな? 賊共をボコボコにした方じゃなくて、狼共をバラバラにした方の。


 ……碌なことしてねぇな、俺。


「あれはテッド達を追い掛けて……」


「そっちじゃない」


 ななな何故かね?! どどどどういうことだね?!


 タジタジになる俺をテトラがジト目で責めてくる可愛い。


 間違いなくターニャが悪影響を齎している良くやった。


 どうすんの? 幼女にジト目で見られるのが癖になったらどうすんの?


「テーしってるもん。レーとターがお外に行ったの。聞いたもん。が言ってたから」


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