第78話


「ミィーはねぇ、えと……なんだっけ?」


「ミ?」


 魔物じゃない?


 首を傾げ合う子供と魔物と子供おじさん


 人に知られたらマズい感じの通路でバリバリに光っている猫に扮した何かを灯りに話し合っている。


 ……人生って何が起こるか分からないもんだなぁ。


 十年前なら病院を紹介されたであろう現状である。


 現在進行系で入院を希望している。


「いや…………魔物じゃないかなぁ?」


 レーはそう思うよ?


 咄嗟に言い訳している感じではないが、状況証拠が推論を真だと押してくれている。


 真っ黒だもの、光ってるけど。


 猫が犯人、ハッキリ分かんだね。


「ちがうけどなぁ」


 うーん、と首を傾げているのはテトラ。


 何かを思い出そうと光る猫とにらめっこしている。


 遊んで貰っているとでも思っているのか、己の未来に待つ処遇を決めようとしているのにテトラの鼻を猫パンチする子猫。


「ミ。ミ、ミ」


 ギルティ。


 爪を立てるかどうかで処分の重さが変わるからな? 分かってんな? フリじゃねぇからな?


「あ、そだ。セーエーだ。ミィはねぇ、セーエー」


 肉球の痛みに耐える健気な天使が、ショック療法よろしく何かを思い出したとばかりに顔を上げた。


 セーエー? 精鋭かな? なんの? 魔物の?


 それは大変だ、あとは鬼ぃさんに任せて先に帰りたまえ。


 キッチリ処しておこう。


「そう! せぃえい……セ、イ、レイ、だた! ミィは水のセーレー……なんだって!」


「ミィ」


 どうだ! とばかりに自慢気に鼻を鳴らす天使と自称水の精霊。


 …………精鋭でいいじゃん、もうさぁ。


 なんとなく、そうなのかな? とは思ったけど。


 その後の展開を考えた時に煩わしさが勝ったから聞き間違いをしました、ええ積極的に。


 反省はしてます、後悔は今から。


 なんて……………………なんて、面倒なものを。


「テトラ……拾うならせめて普通の犬猫にして……」


「う?」


「ミ?」


 精霊。


 数多あるファンタジー要素から抜きん出てメジャーな存在だろう。


 語られる際には魔物と対を為すことなどが多いが、物に依っては人間を塵芥のように捉えていることもある超常の生命。


 一説には神と並べられることもある存在が、この世界ではどういう立ち位置なのかというと……。


 よく知らない。


 ぶっちゃけテッドの考えたお話に出てきたことがあるよね? ぐらいの知識しかない。


 精霊がどうのこうの言う村人に至っては皆無だったので。


 魔物や賊の存在すら懐疑的だったからなぁ。


 そんなバカなと鼻で笑っちゃうぐらい。


 もうさ……ここは辺境のゆったりした田舎村だよ…………それでいいじゃないか?


 精霊って言うぐらいなんだから……土とか水とかに還してあげて、それで解決ってことにしようや? なあ、スローライフ……これスローライフって言う?


「ミィはねー、いっぱい食べるよ」


 精霊なのに?


 俺のボヤキをどう受け取ったのかは分からないが、テトラによる精霊自慢のようなものが始まった。


「お水が好きなの。ねー?」


「ミィ」


 そりゃ水の精霊だもの。


「でもお野菜も食べるよ? たくさんりょーり、してる!」


「ミィ!」


 そこは素直に良かった。


「ミィは、とぶの。すぐとんでっちゃうから、木とかに当たってあぶない。めっ!」


「ミィ〜……」


 何処までも飛んでけばいいのに。


「あと、光る。まぶしい! ナメたりもするよ? くすぐったいの。それにー、声が小さいから、近くに行かなきゃ聞こえないの」


 ……いや自慢かなぁ? 欠点とか愚痴の可能性もあるぞ?


「……どこで拾って来たの?」


 テトラの行動範囲を考えると不思議で仕方ない。


 村の外に行くわけもないし、これだけ目立つ奴を連れていれば気付かないわけもない……どういった出会い方をしたら、こんなことになるんだ?


「ひろってないよ?」


 いやいやめちゃくちゃ拾って来てるやん。


 大丈夫だから? 内緒にするから、ね? お兄さんは安心だから、とりあえず言ってみよ、な?


「おちてきた」


 言葉巧みに懐柔を試みる悪い子供に対して、割とあっさりと天井を指差して教えてくれるテトラ。


 …………落ちてた、ではなくて?


「落ちてきた?」


「うん。おちてきた――――お空から。たすけてー、って。だから、いいよー、って」


 …………いや待て。


 さっきからちょっと気になってることがあるんだが…………どうする?


 確認するか?


 いや確認するのが怖い。


 割と確定的なことを仰られているが、気付かないフリをして話を進めよう。


 具体的にはミィの処分。


「あのねー、ミィは、森のずーっと、ず〜〜〜〜っと奥から来たん。なんかねー、ミィの、おかあさん? おとうさん? が、たすけてー、……なんだって。だからミィがそれを、たすけてー、ってしてるの。だからテーのとこに来て、たすけてー、ってから、テーが、いいよーって言ったの。でもミィーもお腹へっちゃったから、いっぱい食べて元気になってね? って、りょーりしてるの。アンが食べたら元気なるって言ってたし。ターもうんうんってしてたから。だからミィが元気になった! すごい? えへー? 


 もう嫌よ! こんな生活! 実家に帰らせて貰うから?! 本気よ! もう本気?!


 猫の肉球をフニフニしながら見つめ合う一匹と一人。


 しかしそこには確かな意思の疎通が存在していた……。


 ――――


 きっとツーカーなんだよ……。


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