第76話


 いつから異世界ホラーになったのかな?


 まあ、そもそも異世界がホラーみたいなものなわけで……。


 薄闇の向こうに存在する抜け穴には人気ひとけが無く、いつかの時のように騒がしい幼馴染が居るということもなかった。


 季節柄なのか、ただただヒンヤリとしている。


 首を突っ込んで覗いてみても、テトラの姿を捉えることは出来ず。


 俺がモタモタしているうちに先に進んだらしい。


 やけにテキパキと動いている様子をみるに、今回が初めてじゃなさそうな気配。


 …………そりゃ初めてなわけないよなぁ、じゃあなんで鍵持ってんだよ、ってなるし。


 というか危ない、やめさせなくては。


 この暗闇の中を進むというだけで五歳のテトラには充分な脅威に成り得る。


 転んで怪我しちゃうじゃないか! 寒くて風邪を引きかねないぞ?! 心細くて泣いちゃうかもしれん?!!


 そんな脅威……あると思います。


 テトラを追い掛けるべく抜け穴に足を踏み入れると、押さえていた回転扉が閉まった。


 …………そういえばチャノスが押さえていたなぁ。


 急な暗闇に包まれてしまったが、確か光の魔晶石を応用したランプがあった筈……………………。


 いや何処かな?


 予め置き場所を知っているのならともかく、闇雲に探しても見つかる訳がなく……。


 ……もしかして俺ってちょっとマヌケなのかな?


 いやいやそんなまさか…………テトラのことで動揺しているだけに違いない。


 比較対象が年下しか存在していないので、そんなに浮き彫りになっていないだけとか…………そんなわけがない。


 ……断じてない!


 落ち着こう、まだ慌てる時間じゃない。


 暗闇と言ったところで、薄っすらと輪郭を確認出来る程度のもので、そんなに……。


 ……………………おやぁ?


 記憶の中の暗闇は完全な黒なのに対して、僅かばかりの光があるのは何故なのか……。


 光源を探して抜け穴の先へと視線を向ければ、落とし穴のように下に掘られた穴から――――僅かながらの光が確認出来た。


 どうやらそこにランプがある模様。


 つまりテトラがいる模様。


 …………返事が無かったのは、見つけられて縮こまっちゃったせいなのかもしれない。


 幼さの残る子供が、悪さを見咎められるが如く。


 テトラも例に漏れず、そういうところがあるのかと……変に安心してしまった。


 若干一名無双するター馴染がいるからな、もしやそっち方面に育っているのではないかと……。


 良かった、要らぬ心配のようだ。


 そうと決まれば、お父さんレーは怒ってないよ? と伝えねばなるまい。


 いや村長は怒るかもしれないけど。


 その時は全部テッドが被ってくれるさ、大丈夫。


 子供が秘密の場所を欲しがるのは次元を越えた常識なのだから。


 頭を悩ませるのは次期村長もうすぐ大人に頑張って貰おう。


 しかしちゃんと注意をしておかなくてはなぁ。


 やはり暗闇の中で遊ぶというのは……あまりよろしくないように感じるし。


 なにより場所が地下なのだ。


 何かがあっては遅いと思う。


 暗闇の中を這いつくばるように進む。


 薄っすらと明るいからいいが、この先に落とし穴よろしく縦穴が空いていると知らなければ落ちてしまうこと間違いないだろう。


 地面を掴んでいた手が空を切る。


 おっ、ここから穴のようだ。


 光の発生源テトラも近いのか明るい。


「テトラぁ…………」


 呼び掛けて覗いた穴の先には――


 テトラはいなかった。



 代わりに発光する何かが蹲っていた。



 悩み事を消すべく顔を下げて、一旦は視界から遠ざけることに成功したが……。


 ダメだ、自分を騙せない。


 な、なんかいたな? なんかやべーのがいたな? 少なくとも天使じゃなかったな?


 あ、これは久しぶりにアカンやつや。


 キタコレですよ。


 しかも死角から飛んできやがる。


 意識を手放さないだけで精一杯。


 今はこれが精一杯、やでぇ……。


 ど、どうするぅ? どうするどうするどうする? どうしよう……?


 上手く考えを纏めようとする前に、千々に乱れる思考へと、さらなる燃料が投下される。


 地面を舐めるように伏せていた視界に滑り込むように――――光が差し込んできたのだ。


 …………い、嫌な予感がするぜぇ。


 恐る恐る顔を上げると、至近距離から……遠目には分からなかった物体エックスが


 クリクリした緑色の瞳に眉根を寄せるモフモフ……。


 一見しただけでは子猫のような姿形をしたそれは……。


 


 絶対に猫じゃないと思う。


 少なくとも俺の知っている猫じゃない。


 そもそも異世界で初めて猫を見た。


「ミィー」


 嘘つくなよおどれぇ?!


 鳴き声と共に首を傾げる様は――――どこか人のそれを思わせた。


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