第69話
五割を割ればで体に違和感を感じ、三割を下回る頃にはハッキリとした拒絶反応に苦しみ、一割を切れば失神する――――それが体に流れる魔力の仕組み。
…………だ、そうだ。
そんな筈はないのだが?
しかし実際に、そうなったことがあるわけで……。
あれぇ〜?
もはや首を傾げるぐらいしかやれることがない。
『人間の体は魔力で動いている』、これについては違うと分かっている。
しかし本来持っている魔力が減ることによって体に及ぼす影響を、科学的に解明出来ないであろう現状では、そんなどう考えても作り話の神話だろうと信じる一因にはなるようで……。
『魔力が減ると苦しい、魔力が無くなると死ぬ、神話通りだ、人は魔力で動いている』って?
もしかしてこれが連綿と受け継がれている『魔力の不思議』になっているのでは? と思わずにはいられない。
今、分かっている事実が二つ。
魔力の減少が五割を下回ると体調に変化を伴う。
魔力は……たとえ無くなったところで死にはしない。
両方経験がある。
凄い矛盾だ。
…………どういうことだろう?
両者の差異は、それを行った年齢ぐらいのものだが……。
魔力の減少に伴う体調の変化は、言わずもがな五歳の頃だ。
凄いキツかった……正直もう一回やれと言われたら躊躇するレベル。
あの時の魔力は…………一割を切っていなかったか?
確かに気を失ったけど…………そこそこ動けていたような?
そして魔力を切らすという経験は……ぶっちゃけ何百とある。
下手すれば何千……。
まさかそんな危険な行為だったとは……。
この世界に生まれた頃の俺は、前世を引き摺っているだけあって荒れていた。
物に当たり、親に当たり、泣き喚き、暴れ散らしていた(赤ん坊なので)。
その時に見つけたのが、魔力の放出という遊びだ。
初めて見た紫のオーロラは随分と綺麗で、異なる世界にあって落ち込む俺の心を癒やしてくれた。
体外に放出すると一瞬だけ紫のカーテンを生み出す魔力。
ファンタジーな産物だけあって他にやることもない俺は、喜々として魔力を
実は危機としてだったんだけど。
当時は……ナイアガラじゃー! 爆流じゃー! ふへへー! 善き哉善き哉ー! なんて思いながら吐き出してたっけなぁ……。
不満とか不安と共に。
本当に綺麗だったので、一瞬だけだが現状を忘れることが出来たし…………出した後は何故か急激に眠くなるので睡眠薬代わりになって便利……。
オゥ、身に覚えがあるぞ?
……いや、でも? 死んでないんだけどなぁ? いや死んだからこそここにいるんだろうけども、いやいやそっちもまだ泡沫の夢的な可能性もあるわけだし?
とにかく、魔力の減少による苦痛とやらも、当時は感じなかった。
徐々に増えていく水量と爽快感もあって中毒者並みに続けていたんだけど……なんでやめたんだっけ?
ああ、そうだ。
魔力が他人からも見えるという事実に気付いてやめたんだった。
…………もしかして時期的にも最良と呼べるタイミングだったんじゃ?
今となってはそう思う。
あれが確か三つぐらいの頃だったから……毛玉事変から数えると二年。
その間に、魔力は劇薬へと変化したのか……。
…………いや、変化したのは体の方じゃなかろうか?
成長期、という言葉がある。
体に追加される機能……それは生殖のためであったり未熟な身体機能を補うためであったりと様々だ。
しかし変化するということがハッキリと分かっている。
少なくとも俺にとっては、確かな事実だ。
子供と大人の差異が、ただデカくなると思っているだけの村人とは違い、科学に晒され続けた歴史が、俺にはある。
…………もしや魔力には、その根源となる器官が存在するのでは?
魔力を精製する臓器のようなものが存在していて、成長と共に安全弁が設置されるとしたら…………どうだろう? この仮説どうだろう?!
なんか
ああ! この仮説をめっちゃ誰かに聞かせたい! ちょっとした発見を自慢したい! できればターニャさん以外で!
ターニャさんはダメだ。
ターニャさんだったらこの発見から更にとんでもないものを引っ張ってきそうだし、それでなくともリアクションしてくれない気がするし。
ちょうどいい転生仕立ての誰かがそこらに転がってないかなぁ?
ここでモモちゃんというフラグは無い。
彼女、オムツ処理嫌がってないからね。
憤激して暴れ回っていた俺と違ってね……。
大丈夫だからトイレに行かせてくれと何度泣き叫んだことか…………その後の『あ、オーロラ……キレイ』は仕方のないことだったんだ。
赤ん坊だから赤ん坊だから赤ん坊だから! 逃げちゃダメだ! って言い聞かせてた。
良い(?)思い出だよ。
一人、訓練を辞して畑へと戻ってきた。
……畑が言い訳にも使えて俺の中で魔法に並ぶ勢いだ。
畑作業は考え事にもいい。
人参っぽい何かを収穫しながらドゥブル爺さんの話を纏めている。
なかなか面白い話だったけど、前の世界の知識がある身としては『神様の罰だから』という理由を納得するわけにはいかない。
ふへっ、と鼻で笑いながら人参っぽい何かの山を積み上げていく。
まあ、だからと言って検証したりとかはしないんですけどね。
体を切り刻んで該当する臓器を探すなんてグロ過ぎるうえに痛過ぎるし、かといって魔力を全放出してみようなんて研究者度胸みたいなものもない。
使い過ぎに注意、これだけ分かってればいい。
しかしチャノスの親父が偽冒険者に向かって怒鳴り散らしてた理由も、今なら分からんでもないと思う。
そんな危険があるとはなぁ。
魔法を覚えれるのは、才能を持つ人間の更に十分の一。
なるほどねぇ。
今、テッドとチャノスは魔力を感じるために瞑想とやらを行っている。
なんかちゃんとした修行でちょっとビックリした。
放出される魔力に晒されて「どうだ! 魔力を感じるか?!」的なことで覚醒とはいかないようだ。
さすが千人に一人である。
しかも貴族がほぼほぼ魔法使いだというのなら、庶民出の魔法使いなんて更に確率が下がるわけで……。
…………魔晶石買った方が早いよ。
今になってようやく村の価値観が追いついてきた。
己の中の結論と最後の収穫物が同時に見えてきたところで――――またも服を引っ張られた。
……。
「ター……」
「レー」
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