第67話
幼馴染は俺を裏切った。
芋返せや。
「まずは魔力というものを感じることから始めるか……」
ひぃ!
木の下に移動しての魔法講義となった。
焚き火を消して、二列に並んで…………こういう時ばかり素早く行動する幼馴染達。
お前らさぁ……。
前列には待ちきれないと言わんばかりの弟子勢が、しかし大人しく拝聴する姿勢で座っている。
アンに至っては私語をしないようにと手で口を塞いでいる始末。
後列には、未だに芋を頬張る同年代と、ここが空いてるからと真ん中に座らせてくるお姉さん。
そしてどうやって帰ろうかと考えている異常魔法児童が一人。
興味がない…………とは言わない。
ハッキリした魔法の話なんて、村にあって雲を掴むような
しかも魔法使い直々の講義。
知識として、まず間違いのないものだと思われる。
き、聞きたい……!
流れで属性の判別なんてされたら溜まったもんじゃないけど…………しっかりとした知識が欲しい。
特に魔法なんて、いざという時の俺の生命線でもあるのだから。
また土壇場でバケツ三杯分の水に八つ当たり――――みたいな結果にならないとも限らない訳で……。
いやあれは魔法の奴が悪いよ、こっちゃ鼻の奥から血を流してまで頑張ってんのに残念を引っ張ってくるんだから。
あれから三年…………実は魔法を使っていない。
ハッキリ言うと――――ちょっと怖いからだ。
神経をヤスリでガリガリと削られるような苦痛と脳味噌を掻き回されるような頭痛が、軽いトラウマになっている。
吐き気を我慢して胃酸で喉を焼きながら捻り出した魔法が……バケツ三杯だよ?
森林火災一歩手前に対して。
極限状態だからか『前の世界から赤い車を引っ張ってこれないかな?』なんて考えたりもしてたなぁ……。
随分と思考能力が低下していたので、仕方ない帰結だと思う。
思い返すと『それはちょっとないな……』って思うけど。
懸念材料はもう一つ。
――――リスクだ。
自分で言うのもなんなのだが、ハイスペックだと思うこの能力。
多属性持ちなんて凄い! ……と思う。
しかしいつの世もリターンにはリスクが付き物な訳で……。
あまり気にしてこなかったのは、反動がないと知っていたからだ。
しかし途轍もないデメリットの存在が証明されてしまった。
これが魔法使いの普通なのか俺特有のものなのか……他にサンプルが無いのだから、自重は当然の結果だろう。
変な広告を踏んでしまって二度とそのサイトにアクセスしたくない気持ち、みたいな?
ぶっちゃけビビってるよね。
体に害はないのかな? 障害が残るとかないのかな? 実は寿命が減っているとかないのかな?
そんな不安というか、心配がある。
外傷は無かったけど……あれだけ具合が悪くなったのだから、中身の心配なんてあって当然だろう。
一番忘れたかった記憶『この影なんだろなぁ?』を思い出してしまうくらいにはトラウマってる。
しかし、もしかしたらそれを解消出来るかもしれないドゥブル爺さん直々の講義。
…………超聞きたい……!
こちらの予定としては知識のみ得る形で、程々に退場、やったねハッピー、という計画だったのだが?
まさかの『考えるな、感じろ』である。
一番引いちゃいけないババですよ、それはぁ。
ターニャもんなんとかしてぇ?!
アイコンタクトよろしく瞬きもかくやと高速でパチパチと瞼を開閉させていたら、手に付いた塩を舐めるのに夢中だったマイペース娘がようやくこちらに気付いてくれた。
なんで『何かくれ』とばかりに手を突き出してくるんだろう? お前、俺のナンもどきも食べたやろがい。
てかまだ食べるのかよ……もう『ごちそうさま』しときなさい。
俺が首を振ると仕方ないとばかりに突き出した手を挙手の形に持っていくターニャ。
それに気付いたドゥブル爺さんがターニャに応える。
「……どうした?」
「……魔力って、なんですか?」
いい質問だ! なんとなく不思議パワー的に思っていた魔力が、これで解明されるぞ!
しかしドゥブル爺さんが口を開く前に、訳知り顔のテッドが横入りを果たした。
「バカだな、ターナー。魔力っていうのは……魔法になる力に決まってるだろ! だから魔力! 当たり前じゃん」
指を振る様がムカつく。
ちょっ、黙って?
「……テッドの言い方はともかく、俺も魔力ってのは魔法に代えられる対価だと思ってる。自分の持ってる魔力で、魔法を買うんだ」
隣に座るチャノスまでもが注釈を入れてくる。
いいから、そこに正解があるんだから、まず聞こう? ね? 良・い・子・だからぁ!
勿論俺のことだ。
「買うってなんだよ、買うって。魔法なんだから、使うが正解だろ? チャノスはバカだなぁ」
「お前にだけは言われたくないぞ! 分かりやすい説明だろうが!」
「そうか?」
「そうだよ!」
あー、結局いつものペース?!
どういうことだよターナー?! これじゃいつも通り最終的には有耶無耶に……。
「…………あー、ケンカするでない。……そうだな、まずは魔力の説明から始めるか。急ぐもんでもない」
分かってたよターナー! 君を信じてた!
師匠の前では猫を被ることが多いテッドにチャノスだったが、興奮していたせいか、それとも幼馴染が勢揃いしていたせいか、いつも通りのケンカ漫才を披露しかけたため、ドゥブル爺さんが仲裁する結果になった。
これで聞きたい話が聞けそうである。
しかも基本的なことからという垂涎の展開。
相変わらず未来予知ばりに洞察力が凄いターニャに脱帽である。
頭おかしいんじゃない?
「師匠! 俺ので合ってますよね?」
元気良さげに手を上げるテッドに、やや嬉しそうな雰囲気で頷き返すドゥブル爺さん。
「そうだな……魔力というのは魔法に成り得る力、魔法へと代わる対価、どちらも的を得ている」
「ほらな?」
「どちらもって言ってるだろ?」
いいから聞けよ。
「だがそれだけではない…………それだけじゃ足りまい。魔力というのは――――全ての命に通じる力じゃ。寝て、起きて、生きて、死ぬまで、ワシらは魔力を使っとる。生きるために必要な力、動くために必要な力…………それらは全てが魔力から成る。そう……――ワシらは、魔力で動いとる」
それは…………。
え? いや、違うんじゃない?
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