第64話
テッドとチャノスとついでにアンが、ドゥブル爺さんに弟子入りしたのは、二年ぐらい前のことだ。
ドゥブル爺さんの雰囲気が柔らかくなってからである。
……気付くのに一年近く掛かっているのは置いといて。
アンがドゥブル爺さんを平気になった理由っていうのは……なんとなくだそうだ。
実際に、ドゥブル爺さんの衰えは年々と増しているように思える。
水汲みや薪割りを代わりにやってあげることも増えた。
そういう時に『ありがとう』という言葉をよく口にするので、他の村人にもドゥブル爺さんが柔らかくなったように見えているのではないだろうか。
いやドゥブル爺さんって礼節はハッキリしてたから昔からちゃんとお礼の言葉は口にしてたんだけども。
その回数が多くなったので、そう見られ易くなったというのは…………あるんだろうなぁ。
ドゥブル爺さんの歳を聞いたことはないが、他の爺さん婆さんよりも高齢も高齢だということは知っている。
おそらくは村の最高齢だろう。
誰も達したことのない老境にいることは間違いない。
その境地に何を思ったのかは知らないが、ここが好機とばかりに気持ち真っ直ぐなテッドが勢いのまま弟子入りを申し込み――――あまつさえ受け入れられたということには驚いた。
これには本気で驚いた。
どっちにもだ。
冒険者に憧れるというのは、なんだかんだでこの世界の男の子の通過儀礼的なものだと思っていただけに……まさか本気とは。
エノクとマッシの例もある。
そんな二人すら、今じゃ立派に村の一員として働いてるわけだし……いずれはテッドやチャノスも家業を継ぐもんだとばかり……。
アンがアホなのはともかく、チャノスも意外だった。
チャノスの究極の目的はお金持ちになることだ。
そこに偉大さは関係ない。
冒険者も手段の一つとして考えてはいたんだろうけど……まさか家業を捨ててまでなろうとしているなんて思ってもみなかった。
…………もしかして自分では気付いてないとかじゃないよね?
もしくは若いうちだけ冒険者をやるつもりとかなんだろうか?
幼馴染達の将来設計が謎過ぎる。
……畑継いだ方が安定してると思うんだけどなぁ。
これも前の世界の記憶が尾を引く俺独自の考え方なのかね? 周りはそれにあまり引いてないようなのがなんとも言えない。
「おー! 着いた着いた!」
「なるほど。いきなり薪からじゃなく徐々に燃やす物を大きくしていくんだな? よし、もう覚えた。次は出来る」
――――そんな冒険者志望共は、俺が点けた小さな火に興奮している。
ご家庭では誰しもが行う朝の習いである。
……これに不安を覚える俺って変なの? ねえ、変なの?
思わず視線を向けてしまったターニャに、分かっているとばかりに頷き返される。
「……次、わたし」
違う、そうじゃねぇ。
「ちゃんと消してからじゃないと危ないわよ!」
そうだけど、そうじゃねぇ。
「えへへ、お芋持ってきて良かった」
論外。
あとアホ、お芋はそんなところに仕舞うんじゃありません。
ほらチャノスもビックリしてるじゃん。
……俺もだけど。
通りで意外と固いんだなって…………いや、なんでもないです。
アンの取り出したのは極普通のジャガイモだ。
……ただしこの世界での。
ジャガイモはジャガイモなんだけど……平べったいうえに毒性がないという優れもの。
でもその形状のせいか、俺は皮剥きが面倒だと思ってしまう。
そのままザク切りにして揚げたらフライドポテトが出来上がりそうなものなのだが、ふかしたり焼いたりがこの村のメイン。
取り出したジャガイモを、これまた取り出した串に刺して焼き始めるアンを、テッドが羨ましそうに眺める。
「いいなー。……一個だけか?」
「皆の分もあるよ!」
「さすがはアンだな! 賢い!」
「えへへー」
お前ら飯食っただろ?
しかし成長期の子供に食事について注意することほど無意味なものはない。
俺も貰お。
それぞれがアンから芋と串を受け取って焼き芋を始める。
チャノスが芋を受け取る時に若干挙動不審っぽい動きだったけど…………それは仕方がないことだと思う。
男の子だから。
俺も前の世界だったら危なかった。
暑さも感じなくなって久しい季節なので、焚き火を囲って芋を焼くという風景が妙にマッチして思える。
とても田舎暮らしっぽい。
……こんな誘いだったら断ったりしないのになぁ。
しかしいいのかな? 目の前の食欲に囚われすぎていないかな?
ワイワイと楽しそうな幼馴染達に冷水を浴びせるのもどうかと思ったので黙っているが……。
確か今――――
「……芋を焼いてるのか」
――――修行中なのでは?
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