第63話
「違うって! 力を入れるんじゃなくて、こう……擦り合わせるんだよ。で、飛び出た火花を…………こうだ!」
「……絶対に時間の無駄だろ。火の魔晶石か着火の魔道具を持ち歩いた方が効率的さ」
「師匠が覚えろって言ってんだからやるんだよ! それにそんな金あったら装備に回したほうがいいだろ」
「いや、着火の魔道具は持ってていいだろ? 有名なパーティーならどこでも持ってるだろうし」
「……うーん……でも駆け出しが魔道具なんて持ってたら狙われないか?」
「それは…………ギルドに、預けとく……とか?」
「持ち歩いてないじゃん」
試行錯誤しながら焚き火を起こそうとしている幼馴染の男の子が二人。
顔を突き合わせながら、あーだこーだと言い合っている。
念の為になのか近くにある桶には水が汲んである。
そんな様子を見たアンとケニアが嬉しそうな笑みを零す。
「やっほー! 来たよー!」
元気を貰ったとばかりに復活したアンが、早々に声を上げて手を振る。
じゃあ俺は帰るよー?
「おー。……あれ? レンじゃん! なんだよ収穫終わったのかよ!」
キメられていた関節を解放されたので、てっきり帰っていいものだとばかり思っていた俺に、テッドの言葉が突き刺さる。
「いや……」
「ちょっと様子見に来たの! 息抜きよ息抜き!」
俺にとっての息抜きって畑作業だから。
当人がいるというのに言葉を被せるのはお節介お姉さんだ。
「――ね? そうでしょ、レン」
「あ、はい」
……ケニアお姉さんは迫力が出てきたなぁ。
美人は可愛い系より綺麗系の方が圧があると思う。
空気を読んで参加することにした、幼馴染男子による修行。
……まあ今日はマシな方だろう。
どうやらキャンプ作業をしているらしい。
地面に散らばっている随分と年季の入った道具一式は、師匠さんに借りているようだ。
寝袋、肩掛け鞄、鍋、薪と枯れ枝、ロープ、エトセトラエトセトラ……。
……これ、とりあえずぶち撒けただけだろ? 火熾しも出来ていないようだし……。
というか火熾し機を使えばいいのに、便利だよ? あれ。
嵩張るけど。
テッドが手にしている火打ち石と金属片は手の平サイズだ。
携行性を重視しているのだろう。
「今日は打ち合いはしないの?」
アホが余計なことを……!
「する! けど、今はこれだな。打ち合いは午前中もしたし、そもそもチャノスがヘバッたから」
「俺はヘバッてないぞ! テッドに効率的に動けって言ってるだけだ! ぶっ通しでやるより、間にコレをやっておけば効率がいいって話だったろ?!」
「ああ、それそれ」
「ふーん。なんかチャノス、凄いねぇ」
「……テッドがバカなだけさ」
とは言いつつも満更ではない様子のチャノス。
いつもの遣り取りなのだろう、気にすることなく手にした火打ち石を再びイジり始めるテッド、その周りに皆が集まる。
「……どうするの?」
珍しいことに強く興味を示したのはターニャだった。
「火を起こすんだ。野営するときに必要だからな。出来るようになっておいて損はないだろ? ……まあ、俺には必要ないかもだけど!」
「バカテッド。そんなに簡単に魔法が使えるようになるわけないだろ? 属性が『火』だったからって浮かれるなよ」
「チャノスだって『俺に水筒は必要ない』って言ってたじゃん? まだ魔法の修行も始めてないのにさ」
「かもしれない、だ。かもしれない。ちゃんと聞いてろよ」
わーわー言いながらも、手にした石と金属を擦り合わせて薪に火を着けようとする子供達。
会話の内容はあれだが、前世で言うところの花火の前の雰囲気に酷似している。
……というか、なんだ? もしかして全員『火熾し』をしたことがないのか?
割とご家庭で見る機会があると思うんだけど……。
「ダメだ! 点かない! おっかしいなー?」
「ちっちゃいのは出てるのにね?」
「そういえばケニア、最近料理が出来るようになったって言ってなかったか?」
「料理の時に扱ったことはあるんだけど……火熾しはお父さんにしてもらってたから」
「……叩いてもいい?」
「もうちょっと!」
ガツガツと火打ち石と金属片を擦り合わせて火花を飛ばすテッド。
火花の先には――――薪がある。
いや、点くわけねぇだろ。
散らばったキャンプ用品一式を見渡してみれば、ちゃんと藁や紙の切れ端なんかの燃えやすい素材も見つかった。
答えは用意されているようだ。
必死になる幼馴染達には悪いけど……俺には他の道具の方が興味深い。
リストバンドみたいな道具や、細長いストローが付いた筒なんかが気になった。
……どういう時に使うんだろう?
「レェン、触ってもいいけど壊すなよー。下手に触って爆発……とかはしないか」
「するわけないだろ? 師匠のだぞ? 最初から俺のじゃないから触るなって言っとけよ」
テッドとチャノスの誂いに、伸ばし掛けた手を引っ込める。
いつぞやの爆発が頭に蘇ったためだ。
トラウマものですよ。
農家にとって火の魔晶石は縁が無い物の筈なのに……。
「あ、レンなら出来るんじゃない?」
いい事思い付いたと言わんばかりのアホ。
きっと根拠は無いんだろうなぁ。
「出来るのか?」
「知らない」
アンが首を振るのを見てチャノスが絶句する。
許してあげて、アホなんだ。
「目の前にいるんだから聞いてみればいいだろ? レン! これに火って着けれるか?」
……まあ、それで話が早く済むっていうんなら。
ドゥブル爺さんも、まさか火熾しで躓いてるとは思ってないだろうなぁ。
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