第62話


 俺の幼馴染には女の子しかいない。


 …………もうそんな異世界転生でいいんじゃないかな?


 むしろそっちがスタンダードな正解だと思うんだ……。


「ほらレン! 早く早く!」


「ちょっとアン、別に急がなくてもいいでしょ? レンも畑作業してたから疲れてるのよ、きっと」


 強制連行とでも言えばいいのか。


 レライト君としては、幼馴染の女の子達に手を引かれるだけで、何処へなりと行かないわけにもいかないわけで……。


 せっかく畑作業を理由に断っていたっていうのになぁ。


 いや困った!


「……」


 何かなターニャ? そのジト目は。


「よう、レェン! 今日は両手に花だな!」


「こんにちは、オグノさん! この前の魚美味しかったです! ありがとうございました!」


「おうよ!」


 通り掛かった売店で、知り合いのおじさんにからかい混じりに声を掛けられた。


 おじさんの言葉通り、右手をアンに、左手をケニアに、遠足の小学生よろしく握られている。


 グイグイと引っ張るアンとは対象的に、下の子とはそうすると言わんばかりのケニア。


 現にケニアの反対の手はターニャへと繋がっている。


 お姉さんかぜというやつだ。


 むしろお姉さん風邪と言った方がいいのかもしれない。


 ブンブンと大きく手を振るターニャにやれやれといった表情のケニアだったが…………あれ、元気さアピールのフリして引き離しに掛かってませんかね?


 風邪に掛かっているケニアが気付くことはないだろうけど……。


 どの子もこの娘も思春期です。


 昔からケニアはお姉さんぶった振る舞いが多かったんだけど、最近は特に多い。


 早く大人になりたいという心情の表れなのだろう。


 アンは相変わらずアホ。


「あ! あんまり強く引っ張ったら……背が伸びちゃう?! ……なのかな?」


 極アホだ。


 そこは伸ばさなくていいんだよ……背の話じゃないぞ?


 ターニャの家から村の中央を通り抜け、教会がある東側へ向かう。


 目指すは大きな木が生えている木壁の近くだ。


 そこに目的の人物はいる。


「お、悪ガキ共。またぞろ悪さでもしに行くのか?」


 あ、含めないでくれます? 自分違うんで。


 教会の前を通り掛かると、そこを管理している神父のおじさんが出てきた。


 ビックリしたアンが俺の後ろへと回る。


 手を握ったままだったから、なんか腕キメられたみたいになってるんだけど……。


「神父さま。こんにちは」


「ああ、こんにちは。……というかケニア、神父はやめてくれ……。俺はそんな上等なもんじゃない」


 神父のおじさんは……見てくれが厳つい傭兵上がり。


 顔の渋さも話し方も、とても聖職者には思えない。


 神父というか神父ブラザーって感じだ。


 しかも印象そのものといった過去を歩んでいるそうで、この村に来る前までは兵士として戦地を転々としていた経歴を持つ。


 持っている魔法の特性上、になった兵士を看取ることが多かったせいか宗教に詳しくなってしまい、引退を機に自分の出来る職業を探したところ、教会がピッタリという数奇な運命を辿った神父様だ。


 壮絶な人生が強烈な背景となって神父のおじさんを彩っている。


 性格は『誰に対しても平等』。


 年寄りだろうが子供だろうが悪さをしたら拳で黙らせるという攻撃型。


 一切の説法を説かないという不良具合。


 村じゃ葉巻が似合うナンバーワン。


 そりゃアンもチャノスもビビるよって。


「あら、神父様は神父様よ? 実際に神父様なんだからそう呼ぶべきだわ」


 正しいことを言っているとばかりに充分に栄養を蓄えている胸を張るケニア。


 苦い薬を飲んだ時のような表情で何も言えなくなっている神父のおじさん。


 実は真面目な人間が苦手なのかもしれない。


 めっちゃ気が合う予感。


 酒が飲めるようになったら、神父のおじさんの昔話を肴に一献お願いしたいところだ。


 将来の楽しみに期待しつつ、話は終わりとばかりに手を振る神父のおじさんに頭を下げて先を行く。


 アン、もういいぞ………………もういい……もう……早く前来いや?! 痛いんだよ!


 こちらは既に手を離しているというのに、ギリギリと関節を締め上げる幼馴染。


 背中から見られているとでも思っているのか、握られる手には力が入っている。


「…………ね、ねえねえ! 見てない? こっち見てない? か、確認してよ〜……」


 思ってたよ。


「ないない。だから手を離してよアン……」


 折れちゃうよ〜……。


「ほんと? ほんとのほんと?」


 ほんとほんと。


 ほんとに折れる。


「もう! アンは相変わらずバートンさんが苦手なのね。神父様なのよ? なんでそんなに嫌うのよ」


「き、嫌いじゃないんだけど……怖くない? 神父のおじさん……」


「……怖くない」


 ターニャは少し怖がった方がいいな。


 何度角材についての説教されたと思ってんだ。


 あれで次会った時は嫌な顔しないってんだから、人間出来てるよ。


 さすがは神父様。


「そのうち聖句を習いに行くかもしれないんだから、怖がらないようにしなくちゃ。どのみち成人の儀式は教会でやるのよ? 大丈夫なの?」


「……ケ、ケニアから教われば良くない? セイク……」


「儀式は?」


「ケニアが……」


 そりゃもうシスターやん。


「あたしはシスターじゃないのよ?」


「……うう。……レェ〜〜ン」


 まだ関節決められてるからね? そろそろ泣きたいのはこっちだからね?


 肩越しにグリグリとさせる頭からは、本当に嫌だという気配が漂っている。


 これには幼馴染一同鼻白む。


 …………いやー、昔からドゥブル爺さんと神父のおじさんが苦手なのは分かっていたけど、まさかここまでとは。


 ドゥブル爺さんの方がから、反動が神父のおじさんにいってるのかもしれない。


「……怖くない」


「……なくないよぉ……怖いものは怖いんだよ〜」


 珍しく慰め役に回っているターニャ。


 神父のおじさんに怒られている原因が主に自分だと自覚しているからか。


 それ慰めになってないけどね。


「ほら、顔上げて。着いたわよ」


 ……着いちゃったかぁ。


 文字通り連行されて――――テッドとチャノスが待つ、西側の木壁へとやって来た。


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