第59話


 各々おのおの物思う時期思春期へと突入した幼馴染達。


 感じ方にも差が出てきて、不平不満は勿論、大人の言うことにも素直に頷けないという……それは元からですね、ええ。


 だからって妹強奪してきちゃダミだよ?!


「まさかの共犯説ですよ……」


「あーうー、あー」


「……だって」


 おお? 珍しいこともあるもんだ。


 ターニャが『だって』とか言うなんてなぁ。


 そういえばターニャの親御さんはターニャの扱い方が分かっている感じがあったよな。


 いつか受けた『罰』の内容然り。


 ターニャが強く言い出せないギリギリのラインを突いた子供扱いだったと思う。


 さすがはターニャの親だけある。


 実際は逆なんだろうけど。


 俺達は今、ターニャの家に向かっている。


 分かりやすく言うなら『ごめんなさい』するために。


 さすがのターニャでも一人は言い出し辛いのか、付いてきて欲しいとのこと。


 そこはケニアやアンという同性に頼めば良かったじゃん、と言うのは野暮なんだろうなぁ……。


 頼られてると思えばいいのか、使われてると思えばいいのか……。


「あー?」


 可愛いから全然問題ないな。


 別にオムツ換える訳でもないんだし、むしろ得したな。


 ターニャ家の次女、モモちゃん。


 この名前は別に略称ではない、ちゃんと確認済みである。


 髪の色や瞳の色は茶色で、これは多くの村人と同じで一般的。


 外見的な特徴は特に無いのだが、とにかく物怖じしない性格で、なんにでも突撃していく。


 あと全然泣かない。


 ターニャの時と比べると、世話というより危険という意味合いで、非常に手の掛かる赤ん坊なんだそうだ。


 ターニャが拗ねている原因はその辺りだろうか?


 一人っ子からお姉ちゃんになったことによる不満……とか?


 前の人生と合わせても俺に兄弟姉妹なんていなかったので、その辺の心模様は理解出来ない。


 …………弟妹がいた方が寂しくないと思うんだけどなぁ。


 モモちゃんを抱えながら、ターニャと二人、村を歩く。


 自分の家の畑から真っ直ぐ進むと見えてくるのが、チャノス家の小屋だ。


 いつかのように中からは騒がしい声が聞こえてくる。


「なんで?! なんで?!」


「うそついた! うそつき! このっ……」


「うわああああん?! ぶったあああああ!」


「やめろお前ら! ああ、こら?! それは口に入れるもんじゃない!」


 子供の声に混じって聞こえてきた新しい世話役さんの声は――――聞いたことのある男の声だった。


 誰だか知ってるけどね。


 売店に勤め始めたそうだし。


「……寄る?」


「うー?」


 知り合いの声を聞いたターニャが訊ねてくる。


 ……答えは分かってるだろうに。


 二の轍は踏まないさ。


「さー、帰ろうねー? モモちゃん、手を伸ばしちゃダメだ。あいつはもう救えない……」


「……バイバイ」


「ぶっ!」


 そんなに怒らなくても、三年もしたら嫌でも通うようになるから。


 チャノス家の塀をグルリと周りながら売店の方へ向かう。


 売店の近くには新しい建物も増えたのだが、夜にしかやらないのと子供には関係のないものを扱っているのでスルー。


 辿り着いた売店の軒先で、これまた知り合いが台車に薪を積んでいた。


 目が合ってしまったので、挨拶を交わすべく頭を下げた。


「こんにちは、エノクさん。さっき相棒が泣いてましたよ」


「よう、レン。フッ、今週はあいつが当番なんだ。……聞いてる分には楽な仕事なんだがなぁ、ありゃ詐欺だぜ。あいつは知らなかったからさ、薪運びを代わってやるって言ったら飛び付いてきてよぉ」


「……売店の仕事でしょ?」


 マッシはともかくエノクは売店勤めじゃなかった筈。


「この前、畑手伝って貰ったからな。ユノさんの代わりだ。んでもって俺があいつの代わり」


 わっるぅー。


「手伝いってことは、収穫?」


「そそ。もう終わったから気楽なもんさ。お前んとこも手伝おうか?」


「……それで『小屋行き』は割に合わなくありません?」


「だよなぁ? あの人、ほんとなんつーか……上手いよな」


「ええ、全く。まあ、うちも殆ど終わったんで、引っ掛かることはなさそうですけど」


「おう、なんだ? まあ、気をつけろよ。じゃあな」


 手を振って台車を押していくエノクは妙に堂に入っていて、それが普段の仕事ぶりなのだと窺えた。


「……喋り方、まだだね」


 にこやかに手を振っている俺の隣りでジト目さんがポツリ。


「……そんな急には無理だよ。でも一人称はにしてるし……」


「……ううん、別にいい。…………むしろ――」


 あ、そう? 別に責めてるわけじゃない感じ?


「あーぶ」


「――本当に危ないからやめて?!」


 ターニャと喋っていると、構って欲しくなったのか体を反り返らせたモモちゃんを、慌てて抱え直す。


 あっぶ?!


「あー……で? なんだったっけ?」


「……そう」


 いや、それじゃ返事になってないから。


 しかしターニャが再び口を開くことはなく、先に進めとばかりに見つめてくるので、仕方なく足を進める。


 と言っても大した距離ではないし、迷うようなものでもないが。


 ここから東の方へ行けば……。


「ああああ?! いたああああ!」


 背後から響いてきた声に足を止める。


 これも知っている声だ。


 なんというか…………外見と違って、中身はまだまだ全然歳相応なんだよねぇ……。


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