第58話
まあ色々と変わるよね、色々と。
具体的には村人の数とか。
埋めや腐痩せや血に満ちよ、だっけ?
まあそんな感じで村人の増員というか村の拡大が本願な開拓村にあって、子作りは推奨されているわけで……。
うちの両親とかそりゃもう模範的ですから……ええ……。
まだまだ川の字です。
何がとは言いませんけど。
しかし、そんな事情も含め新しい命を望むこともあって、ここ数年で分かったことなのだが……ほぼ間違いなく――
前の世界とは出生率に違いがあるようだ。
たぶんだけど…………百倍は授かり難いんじゃないかな?
下手すると千倍?
余所の家の事情なんて知らないから分からないけど、うちの両親がスタンダードだとしたらそれぐらいあってもおかしくないように思える。
こちらの世界で、生まれて初めて強く『……異世界なんだなぁ』って思ったよ。
『あるかも?』なんて思っていた魔法以上に。
なんだろ? 何が違うのかな?
まあ魔法なんてビックリ現象起こせる時点で色々と違うんだろうけど。
もう分からんよ、ハッキリ分かんだね。
「あっ、ぶ!」
「ああ、はいはい。そうだね? 危ないね? バンされちゃうね?」
畑の中央で子守りをしている転生者、どうも俺です。
ターニャはモモちゃんを俺に抱かせて、興味深そうに妹のホッペを弄っている。
やめてあげなさい。
「ターナー……なんで持って来ちゃうの? 前も言ったろ? モモちゃんにお外は早いんだよ」
「……お母さんは、子守りがヘタ」
それ絶対お母さんに言ってやるなよ?!
俺の服を掴んでは登りたがる赤ん坊を適当にいなしながら畑を出る。
後ろ手に付いてくるターニャは今日も今日とてジト目だが――――少女特有の丸さというか儚さのようなものを備え始めている。
これはアンやケニアのような美少女になることは間違いがなさそうである。
テトラは既に天使だから比べるべくもない。
人が天使に勝てるわけないだろう? うん?
しかし人という範疇では充分に人目を惹き付けるようになった幼馴染の女子達。
収穫祭で十一歳。
そう考えるとまだまだ子供なのだが……こちらの成人年齢からすると中学生ぐらいの精神性はありそうで……。
というか体躯は中学生なんだよね。
…………あいつら成長早くね?
チラリ振り返ったターニャを見て安堵。
ストーンだから。
オーケー大丈夫。
まだ希望は残っている。
「……なに?」
「いや、そっくりだなって」
「似てない」
おおぅふ……なんか妹に思うことでもあるの? やけに返事が早いじゃないですか。
「あっぶぶっ!」
おおぅふ……妹も姉ちゃんに不満がある感じ? やけにご機嫌斜めじゃないですか。
「そっくり」
「似てない」
「ぶっぶぅ」
そうだね、君にとって人間は乗り物で間違いないね、転生した人かな?
収穫も終わり掛けなので急ぐこともないと休憩を入れることにした。
木陰に荷物を置いていたので、ひとまずはそこへ。
水筒と小麦粉を練って焼いた食べ物を持参している。
……パンなのかなぁ? なんなのかなぁ? まあ美味いからなんでもいいんだけどね。
赤ん坊片手に包みを解くべく手を伸ばして……荒された荷物を発見した!
なんということでしょう、平和な村で起こる不可解な盗難事件……。
「ターナー?」
「……落ちてたから」
「あーうー」
置いてたんだよ……食い物が落ちてるわけねぇだろ。
相変わらずの腹ペコ娘具合。
この前も、せっかく焼いたパンを全部食べられた! ってアンとケニアが愚痴ってたぞ?
両者共にあげたい相手がいたっていうのにさ。
ここに!
「ぶー」
「なにかな? 文句があるんなら早く喋れるようになろうねー?」
それまでは受け付けません。
まあおやつ程度だったので文句は言いませんが、これが昼飯だったら危なかった。
泣き喚いて醜態を晒していたまである。
仕方なしに水分だけ取ろうと木陰に腰を降ろして水筒を探る。
堂々と悪びれることなく隣りに腰を降ろすターニャ。
腕からの脱走を試みる妹をからかっている。
「それで? 今日はどしたん?」
「……うん」
……うん、じゃ分からないでしょ、……うん、じゃ。
「なん? 収穫祭関係? ユノさんに大鍋代わってとか言われたのか? あの人最近サボり癖付き始めてるから断っとけよ?」
「……わかった」
……言われたの? あれ一応仕事なんですけど?!
「……言いにくいんなら俺から言ってやろうか?」
「……違う」
どう違うのか……相変わらず言葉が足りない。
おかげさまで読解に苦労するよ。
あの
それまでが長かったからなぁ……ターニャ激オコだったし、収穫祭あったし、冬籠りしてたし。
言いにくいことなのか口を開いては閉じて、閉じては開いてを繰り返すターニャを、モモちゃんの相手をしながら粘り強く待った。
そろそろモモちゃんだけでも帰そうかと考えたところで、ターニャがようやく口を開いた。
「……お母さんとケンカした」
めっちゃ普通。
少しばかり警戒度を上げていたのは、ターニャの賢さを知っているが故にだろう。
まさに神が与えし才能を持って生まれたターニャ。
そのターニャが言い出しにくそうにしているとくれば……何事かと警戒もしよう。
しかし考えるでもなく年頃、難しい時期。
たとえ天才だろうとなんだろうと、歳相応の悩みというのは付いて回る。
…………にしても、だ。
お前ら……俺を愚痴の吐け口にし過ぎじゃない?
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