第53話
ズキンズキンと断続的に襲い来る脇腹の痛みに、そういえば一撃貰っていたなと思い出す。
不快感に眉を寄せれば――――額から流れ落ちた血が目に入る。
…………二撃だったか。
ふふふ……はは、なんだ俺……すっげー
全然関係がないのに、何故か入社一ヶ月目の残業時間のことを思い出していた。
「このっ! クソ化け物が!」
「囲むラ! お頭の一撃で参ってるラ! 歩き方がおかしいラ!」
「そもそも歩いてんのかよ?! 消えたり出たりしてんだぞ?!」
文句を言いつつも連携を取り始める盗賊団に、意外と息が合ってんだなぁ……等と、どこか場違いな感想が浮かぶ。
襲い来る蔓を切り飛ばす奴らと、俺の討伐をする奴らの二手に分かれたようだ。
未だに盗賊団を捕えようとする蔓は、しかし俺の魔力も削っている。
短期決戦は望むところ。
「掛かれ!」
応ともさ。
カエル面を正面に、八人が襲い掛かってくる。
背後から飛び掛かってきた四人を、肉の壁で足止めする。
「こいつ?! 捕まった奴を盾に!」
「根元だ! 蔓を斬れ! 切れば止まる!」
織り込み済みだ。
僅かな時間を稼いで前に出る。
「上等ラ!」
こんなのが上等なもんかよ。
掬い上げるようにナイフでの突きを放ってきたカエル面の目の前にライター程度の火を生み出す。
怯むのは一瞬。
しかしその一瞬で充分だ。
足元から新たに生み出した蔓を四方へと伸ばす。
他の三人は対応出来たが、怯んでいたカエル面の動作が遅れる。
足を絡め取られ僅かに動きを止めたカエル面を、蔓に拾わせた剣の面で殴る。
「……がっ?!」
エノクとマッシの弟子入りを断ってくれてありがとよ。
オマケとばかりにもう一発、白目を剥いて倒れ伏すカエル面を蔓が縛り上げていく。
「野郎!」
蔓を切り飛ばし終えた三人が同時に襲ってきた。
肉の盾組の方も対応が終わる頃だろう。
その三人の内の一人と剣を斬り合わせる。
斬り結ぶような形で動きを止められると、相手は得意気な様子で笑みを浮かべた。
「へへ、おい!」
「ああ!」
今のうちだとばかりに残りの二人が俺の背後へ回る。
しかし背後から迫る剣には目もくれず、力の限り目の前の男の腹を蹴り飛ばす。
「ぐっ?!」
前のめりに倒れる男の後頭部に一撃――――背後からの攻撃は無い。
……あと二人。
「ああ?! なんだこれ?」
「蔓が絡まって……?!」
そうさ? なんだよ、自然の植物とでも思ってたのか?
切り飛ばせば無害と思われていた蔓の残骸が、ヘビのように残る二人に絡み付いていた。
拘束するほどではないのだが、動き難さと気持ち悪さと驚きで、足を止めることに成功していた。
それは魔法で生み出した物なんだから、切ろうが払おうが操れるに決まってんだろ?
コントロールが面倒で、長い時間は無理だけどな。
相手が蔓を解くのに梃子摺っているうちに殴り
掛かる。
「ぎゃ?!」
側頭部に一撃、これで一人。
返す刀でもう一人。
「っつ! ……っの!」
「…………っがぁ?!」
するとお返しとばかりに腹に蹴りを受けた。
一撃が甘かったのか、返す刀を入れた方が殴られながらも蹴りを放ってきたのだ。
脇腹の傷と連鎖して脳天へ痛みが突き抜けていく。
吹き出る脂汗が、体の異常が限界だと告げてくる。
「貰った!」
蔓の効力が無くなり、自由になった剣を振りかぶるキック野郎。
――――ナメんな!
降ってくる剣を――――剣で弾き飛ばして、驚くキック野郎の顔面に素手の一撃を入れた。
身体能力強化――――三倍。
ただし肉体強化無し。
――――――――いっっってぇ…………?!
想像以上に体への反応が強い。
振り切った腕がプルプルと震える。
もんどり打って転がるキック野郎が蔓に拘束されていく。
……これで、あと……四人。
いや、外蔓対策班も二人いたから…………六人だ。
しかしおかげさまで魔力の節約は出来ている。
このペースなら一割は下回らないだろう。
切り札を温存しながら戦える。
冷静に戦況を纏めながら、一息付けることに疑問を覚える。
…………どうした? どうして来ないんだ?
「あ……うぁ」
「お、おい! どうする?」
「どうするって……や、やるしかねぇよ! でもよぉ……」
…………ああ、そうか。
士気が、下がってるのか。
人数も七分の一以下になったうえに、主要メンバーがやられてるもんなぁ。
実はこっちもボロボロだけど、傍目には元気そうに見えるだろうし……。
残りの幹部候補をやったら、自壊するかも……。
スキンヘッド、毛玉野郎、カエル面、ここらが中心メンバーだったのだろう。
なら残すところは――――
木々の合間から伸びてくる蔓を対策していた賊共の方へと目を向ける。
ここで余計な入れ知恵を発揮される前に、あの傷顔の男も倒してしまおう。
しかし――――そこには蔓に巻き付かれた賊がいるばかりで。
……なんだ?
正直、蔓の対応は二人以上いるのなら容易なもので、油断していたとしても、もう一人が刃物を持っている時点で――――
「がっ?!」
「ぎゃあ?!」
肉の盾組の奴らが倒れていく。
肩から矢を生やして。
指先を震わせながら傷口をどうにかしようとしているが、そんな隙を蔓が与えてくれる筈もなく、瞬く間に蓑虫のように成り果てる。
――――はい?
痛みと気持ち悪さに濁った頭から速い回転が生まれるわけもなく、ただただ矢が飛んで来た方を見つめるに留まった。
傷顔だ。
傷顔がいる。
誰もが傷を負い倒れ伏す中で一人、無傷のまま、凪いだ湖面のような表情で、疲れた様子もなく、剣を持って立っている。
――――毛玉野郎の直ぐそばに。
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