第46話


「……」


「……できる?」


 うわああああああああああああああああああ?!


 『待ってろよ? 森の魔物が、行くからな。キリッ』じゃねぇよ!!


 なんなんだよ?! 魔法こいつもうよぉ?!


 ドゥブル爺さんを背負って移動した。


 さすがに二人抱えてとなるとそんなに速度は出せなかったが、小走り程度の速さは保てたと思う。


 南の森へと一直線に向かう途上で、人の気配を捉えた。


 捉えたというか……酒盛りをしていたようなので嫌でも分かったというか……。


 未だ東の森と呼べる範囲だが、もしかしたら奴らが一時的な拠点としていた場所なのかもしれないと、探りを入れるついでに、ここで大人の策を披露してターニャ子供の不信感を払拭しようと考えた。


 俺の秘密も守れて、奴らも撃退可能な、一挙両得とも言える完璧な策を――――お見せしましょう!


 酒盛り中の奴らに気取られないように、執拗な程距離を空けてから、ターニャとドゥブル爺さんの安全を確保。


 魔法秘策を行使した。


「見よ! これが現代魔法の粋! ゴーレム化ゴレゴラムだ!」


 昔、マンガで土を纏って攻撃する奴というのを見たことがある。


 凄い雑魚だったけど。


 しかし姿を隠せるという一点においては一考の価値がある。


 魔物になってのフリで賊を撃退、するとどうだ? 村はハッピー、俺もハッピー 皆幸せ。


 完璧過ぎる自分の才能が怖い…………異世界で開花してしまったわ、どうする?


 モコモコと盛り上がった土と俺とが合わさるべく手を伸ばして――――……手だけ覆われる結果で終わったゴレゴラム。


 おかしいな?


 きっと魔力が不足していたのだろうと、今度は土に手を付けて魔力を馴染ませるよう努力する。


 しっかりとイメージ! そして発動!


 土が手を覆った!


 それは手の形になったというよりも、ただ土に手が埋まっているような状態で…………見ようによっちゃ拘束されているようにも見えるな?


 ポツリと呟かれたターニャの一言が痛い。


 あれ? もしかして皮肉った? え? いま皮肉ったか幼馴染?


「……んでだよぉおおおお?! もうこいつの発動条件とかよく分からん! 俺、こいつのこともう分からないよ?! こんな不安定で不確かなもんを技術として組み込んでんじゃねぇよ世界!」


「……落ち着く」


「無理だね!」


「……そう」


「ごめん!」


「……いい」


 年下の女児に当たってしまったことで、やや落ち着きを取り戻せたが…………これじゃ作戦は失敗だ。


 ヤバい、完全に詰む……どうする?


「……レン」


「フッ。今のはちょっとした余興さ。次が本番。次がラスト。オレ、デキる。チョト、マテ」


「……そう」


 俺は学習した。


 気合いを入れたところで、いつかの川の水の二の舞になるんでしょ? そうなんでしょ?


 とにかく魔力を過剰供給しようとおのがゴーストに問い掛けようと必死こいて神頼みしようと、無理なものは無理という結果に収まる魔法。


 どうも限界値みたいなものが備わっているように思える。


 もうね、魔法に夢見ちゃダメなんだよ。


 ここじゃ現実的過ぎる技術でしかないから。


 つまるところ『土』じゃダメなのだ。


 ……相性みたいな物が存在するのか? それとも適性? もしくは魔力の質?


 ……………………分からん。


 詳しく調べて来なかった弊害が出ている。


 しかし属性というものは多岐に渡ることが確認されている。


 他の物で代用してはどうだろう?


 例えば『火』――焼け死ぬ、『水』――いや隠せないから、『風』――カッコいいかよ、『光』――目が目がああぁ、『闇』――隠れ過ぎだよ、あとは…………なんだ? ……あのあの、あれあれ。


 何かないかとターニャの方に視線を向ければ、返ってくるジト目。


 違う。


 アイデアアイデアアイデア、森なんだから見渡したところで木しかない?!


 …………それでええやん?


 というわけで『木』を採用。


 魔法って言うから四元素だとばかり……よく考えたら五行思想なんてものもあったなとオカルト思考。


 魔法と違うけど。


 まあ出来ないなら出来ないで砕けよう。


 あんまり時間も掛けられないようだし


 ただイメージがぼんやりとしていてイマイチ固まっていないのだが? 『木』ってなんだよ、木人にでもなれってか?


 しかし他に良い案も思い浮かばなかったのでとりあえずやってみる。


 体に植物……体に植物が巻き付く……。


 魔力が吸い取られ魔法が励起する。


 属性は『木』。


 とりあえず『土』の時と同じ格好で変化を待つ。


 すると何処からともなく伸びてきた蔓や草が、手元や足元から体に纏わりついていく。


 執拗な程に隙間無く体を覆う草木。


 関節部分の稼働を考えてくれているのか伸縮は効くようだ。


 無駄に気遣いが良い……。


 こういうの何処かで見たことあるなぁ……と現実逃避しながら記憶の底を探ると、友達と行ったサバゲーが思い出された。


 確か……ギリースーツって言うんだっけ?


 腕から垂れた蔓や頭から伸びた花を含めても、ギリギリでギリースーツに見えなくもないだろう。


 ……手、どこ?


 視界が確保されている不思議には文字通り目をつぶって、動けるかどうかの確認をする。


 軽く走って、飛んで、寝転がり、射撃姿勢。


 完璧だ。


「どう?」


 いつの間にかドゥブル爺さんの隣で体育座りをしていたターニャに、目線低く訊いてみた。


「…………そう」


 それは返事になってないと思うんだけど?


 無言で差し出される角材。


 思わず受け取る。


 切腹って意味じゃないよね?


 地球じゃないもんね?!


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