第43話
冒険者じゃない?
「あの冒険者共が?」
俺の問い返す声に頷きを見せるターニャ。
冒険者が冒険者じゃないとはこれ如何に?
「いや……うん、まあ……なるほど……でもそれは……そうか?」
曖昧な返事になってしまったのも仕方がないと思う。
あの見た目なのだ。
誰もが一度は『こいつら賊じゃね?』と考えたことだろう。
俺も思った。
きっと
しかしそれだけでその結論に飛び付くのはどうなのかな?
「……でもそれは、村長達が確認してると思うんだけど?」
そう、重要なのはそこだ。
たぶんだけど、
でなきゃ大人達の受け入れ具合といい信用度の高さといい、説明がつかないことが多過ぎる。
ここの村人は確かに善人が多いけど、人並みに排他的で、愚かでもない。
村の外から来た人間を無条件に信じるような性格をしちゃいないのだ。
俺の家の位置を考えれば分かることだ。
中心地から離れ、近くに住んでいるのは最高戦力。
逃げやすく、また守りやすい場所を考えれば……村の外縁に住むというのがどういう扱いなのかは自ずと知れる。
それだけ後から来る者を警戒しているのだ。
だというのに、大人達の会話の端々から聞こえる『間違いない』の言葉には、確信的な響きがあった。
間違いない、安心だ、大丈夫だ、と確信させる何か。
俺が知らない――――つまり異世界特有の信頼出来る何か。
警察に提出する運転免許証のような、病院で確認する保険証のような、本人の身分を確かに証明してくれる何か。
そりゃもう前の世界の常識がある俺からしたら「インチキだ!」と呼べる手段さ。
そこは疑うべくもない。
村人全員が呑気ってことも無いだろう。
……無いよね?
「……してた。間違い……なかった」
そ、そこも調査済みですか……ゆ、優秀だなぁ〜、ターニャちゃんは…………どこかの前世有りと違って……。
しかし間違いが無いと判断しているのなら、ターニャの結論もまた違うものになると思うのだが?
俺の疑問を解きほぐすように、ターニャの声が続く。
「……『冒険者』であることに間違いはない。でも冒険者として来ていないことにも間違いが無い」
冒険者として……来ていない?
「別の何かとして来てるってことか?」
「そう。そして入り混じってる。そもそもの元は違う。撹乱」
……入り混じる?
腰を据えて
どうも切羽詰まっている事態のようなのだ。
よく分からんが?
「えーと、ちょっと待って? 冒険者であることに間違いがないのなら、ターニャはどこで冒険者として来ていないって判断したの? そいつらがついてた嘘ってやつか?」
「そう」
「でもそれは竜巻の魔物云々じゃない?」
「そう」
「……じゃあどこでそう判断したの?」
分からんちん? 僕五歳。
見た目や粗暴さを除いたら、あいつらは普通の冒険者に見えた。
言われた仕事はこなしていただけに尚更だ。
実際、村長達はそう判断していた訳だし。
一体どこで……?
「――――歩き方」
…………音を殺すのが癖にでもなっていたんだろうか?
「一人、歩き方に嘘があった」
「一人? 一人だけ?」
「うん」
「つまり……そいつだけ、冒険者じゃない?」
「ううん。その人が冒険者。他は賊」
ちょ、ちょ〜っと待ってね? おじさん頭の回転がいいわけじゃないんだ? 前の人生の知識があるってだけで……。
そもそもが、もう一回受験しろなんて言われても同じところに受かるかどうかも定かではないレベル。
並も並なの、特上じゃないの。
事前知識も大事だけど、本人の資質や対策や準備って重要だと思う。
他で負けてるせいか話に追い付けないよ?!
「村が狙われてる」
必死に理解しようとする前世持ちに、ターニャが分かりやすく結論を述べた。
……うん、それでいい……いいんだけど……なんだろう? 絶妙に……こう? ……傷付く、なぁ……それ。
「外に仲間もいる」
「……あいつらは……全員が盗賊とか山賊で、外に仲間が控えてる…………ってこと?」
「そう」
一気に背筋が冷えた。
「……ドゥブル爺さんを連れてったのは……こっちの戦力を――」
「――削るため。そう」
言葉尻を補ったターニャの言葉に冷や汗が流れる。
ようやく理解が追い付いた。
「わたしは寝てたからドゥブル
その後テッドがどうなったのかは置いといて。
普段に無い長広舌が、ターニャも動揺しているのだと教えてくれる。
「……それで、俺が同じ結論に至ってドゥブル爺さんの小屋に行くと思ったのか?」
実際は結論もクソも無い、漠然とした不安に突き動かされてだったんだけど!
ご、ごめんね?
「レンなら、一人で行く」
そこは反論できねぇ。
「……賊なんだな?」
「確実」
「ドゥブル爺さんが」
「危ない」
それだけ分かればいい。
……しかし本当ならターニャには村に帰って欲しいところだが、時間が無いのと賊がいる森に放置できないのと何より場所が分からない! ……ので、連れて行くしかないように思える。
…………これ狙ってないよね?
「ターニャ、だいぶ東まで来たぞ? ここまで人間っぽい反応が無い。南に下るか?」
反応というのは、あくまで感覚の延長なので気配を察知するようなものではない。
目と耳と鼻をフル稼働しているだけだ。
肌感覚のような感度も上がるのだが、そっちは広範囲に使えない。
一度足を止めて倍率を上げるべきか悩む。
魔力を節約すべきかも……。
そう悩むのは、もはや荒事が避けられそうにもないからだ。
確認のための監視ではなく……この先に待ち受ける――
隠れそうになる意識が、ターニャの呟きに戻される。
「……ここまでに、何か他の反応はあった?」
「小動物の反応ぐらいだよ。僅かな呼吸音とか、地面スレスレで動くような、ネズミっぽい風切り音。複数の大人、もしくは個人レベルのものは無い」
「……小動物」
うん、でもそれこそ一々確認してられないだろ?
しかしターニャの考えは違うようで……。
「……近くのものでいいから確認して」
「お、おう」
ターニャの真剣な表情に思わず頷く。
「……戻るんじゃなく、少し風下を回って」
南下しながら西に? 調べてた範囲が被るぞ?
「行って」
「……はい」
抱き着いてくるターニャは、忘れそうだったが角材装備。
その迫力と相まって否と言えない。
――――しかしターニャの懸念や判断に間違いはなかったのだと、直ぐに思い知らされた。
それは――――漂ってくる鉄のような臭いから始まった。
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