第33話


 村の中を隅々まで回って他の冒険者共も見つけた。


 やはり全員が全員フラフラしていた。


 足取りはしっかりしていたので酔っているという意味ではない。


 あっち行っちゃこっち行って……目的が分からない徘徊という意味だ。


 子供に当たっていた時とは打って変わって黙々と村を徘徊する様は、仕事に真面目という印象よりも不気味さが際立った。


 そもそもなんの仕事なのかも分からない。


 テッドの家周りで聞き込みでもしようと思っていたのだが、その日は冒険者の変な行動を調べるのに終始してしまった。


「外周の抜けられそうな場所を調べてるんだとさ」


 翌日、チャノス家の小屋溜まり場にてカードゲームをしながらチャノスが教えてくれた。


 今日は男女別に分かれて遊んでいる。


 というかターニャに昨日の事を聞きたがったアンとケニアがテトラを合わせて連れていったのだ。


 たぶんだけど、ユノの家だと思う。


 今日はお休みらしいから。


 偶にする立ち話で喜々として語っていたので覚えている。


 テトラもユノには散々お世話になったので多少は懐いていて、割とあっさり付いて行ってくれた。


 今頃はターニャ以外の女の子が女子会を楽しんでいることだろう。


 ドナドナされてる時の目がもうね?


 俺は何も知らないアンタッチャブル


 そんなわけで男は男同士、戦術カードゲームで遊んでいる現在、もしかしたらと情報収集に励んだところチャノスが知っていた。


 ……意外だ。


 チャノスの方は、冒険者にそれほど興味を抱いていなかったように思えるから余計に。


「う〜ん、やっぱり魔法って便利だよなぁ。魔法……魔法かぁ」


 『一度きりの刃』の駒をもて遊びながら、そう呟いたのはテッドだった。


 ごめんそれ魔法のつもりで作ったわけじゃないんだ。


「一回しか使えないんじゃ意味ないだろ? しかも頑張ったところで指先に火を灯すとか、コップ半分の水を出すぐらいが精々とか……魔晶石で出来るだろ魔晶石で。頑張る意味、あるか?」


 面倒そうな表情で駒を進めるチャノス。


 そうか……こっちの子供にとっての魔法ってそういう認識なのか。


 俺がまんま子供の精神だったら飛び付きそうなものなんだけどな。


 だって魔法だよ? 手から火とか水とか出るだけで大興奮だろ? 威力とか関係無しに。


「分からないだろ? もしかしたら攻撃できるようなの覚えれるかもしれないしさ! それにそういう魔法だって、いざって時には使えるかもしれないぜ?」


 そうそう、こんな感じで。


「金稼いで色んな魔晶石買った方が早いと思うんだがなぁ……」


「今すぐ冒険者になれるわけじゃないんだしさ! 早いうちに魔法を覚えとけば有利だって! な? ドゥブ爺に教えて貰おうぜ!」


 どうやら訓練の方法は魔法ありきで固まったらしい。


 難色を示しているのはドゥブル爺さんが苦手なチャノス。


 ドゥブル爺さんだけでなく神父のおじさんも苦手だもんな?


 魔法には……正確には魔法が使える人には関わりたくないのだろう。


 そもそも百人の壁があるというのは頭に無いようで、テッドの誘いを断りあぐねている。


 もしかしたら十人の壁にも躓くかもしれないというのに……俺の幼馴染達が楽天的で困る。


 というか自信過剰が過ぎるんだけど……。


 今のうちから魔法が使えなくても田舎暮らしスローライフには困らない、という言い訳ネタでも考えておこうか。


 テッドやチャノスに対する慰めを考えながら、テッドが動かした駒のジャッジを粛々と行う。


 墓地へと送られる駒にテッドが目を見開く。


「あ」


「よし。『攻撃力一いち』に『一度きりの刃』を使ったな? これでだいぶ有利に進められる」


「すげぇな、チャノス?! なんで分かったんだ?」


 そりゃお前……。


「こういうこともあるってことさ。だから魔法の習得は考え直した方がいい……」


 全然関係の無いことに絡めて有耶無耶にしてしまおうとするチャノス。


 お前、親父さんが商人なだけあって口の回りが早いよな? 考え無しなことはともかく。


 大人しく親父さんの跡を継いどけって。


 そもそもテッドがそんなことで意見を変えるわけがないのに。


 どうせテッドは聞いていないので、チャノスの長広舌を遮って気になっていたことを探ってみた。


「あのさ……チャノスは毎回、そういう話をどこで聞いてくるの?」


 いつぞやのケニアの言葉のようだ。


 だから変ではない筈。


 しかし驚いた表情を浮かべる二人に、なんかマズいことでも訊いたのかと、背中にジワリ、冷や汗が浮かぶ。


 先に口を開いたのはテッドだ。


「そっか。レンはついて来なかったもんな」


「お前がテトラの世話ばかり任せるからだろ?」


「違うって! ほら、エノクとマッシを連れてった時だよ!」


「ああ……そういやレンは来なかったな。なんでだ?」


 いやなんでって。


「ぼ、僕が一緒だったら見つかっちゃうと思ったから……」


 恐ろしくくだらなかったから、さっさと捕まって叱られてしまえばいい、って思ってました。


「そんなこと心配する必要ないのにな。なぁ?」


「あー、まあレンはまだ五つだもんな。そう思っても仕方ねぇよ」


 なんだなんだ? なんかさっきからテッドとチャノスにある共通認識を俺が知らないみたいになってるんだけど。


 またこっちの世界特有の何かとかか?


 少なくともこの五年間で、そういう話が当たり前のように聞けるなんて知らないんだけど?


 ラインニュースか何かですか?


「あ、今から行ってみないか?」


 良いこと思い付いたとばかりに笑うテッド。


「あー、別にいいぜ?」


 応えるチャノスにも、友達に悪い遊びを教えることを面白がっている悪友のような雰囲気があった。


 まあテッドの方は、単純に戦術ゲームに負けそうだから放棄できる良い言い訳ができたとでも思っているのかもしれないけど……。


 表情に出るから弱いんだよなぁ。


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