第30話
勿論……と言っていいのか分からないが、ターニャとのデートというのは
どうにかして
作戦って程でもないんだけど、なんとか一人になりたいという俺の希望をターニャが叶えてくれた形だ。
ただ、結論から口にされた時は何を言ってるのかよく分からなかったけど。
何言ってんだこいつって思ったけど。
……もしかしてターニャって頭がいいんだろうか?
欲望ダダ漏れマイペース娘なんて考えていたのだが……よくよく考えてみると頭の回転は早いところもあるような無いような……。
発想が斜め上になるのは置いといて、前の世界に生まれていたら結構な神童の範囲に入るのでは?
なんて、まさかね。
別に『じゃあ私が連れ出してあげる』を実践されたというだけで、それは考え過ぎだろう。
しかし大きな借りが出来たことは間違いないので、どこかでちゃんと返すことにしようと思う。
お金を稼げるようになったら小さな人形でも作ってプレゼントしてあげようかな? ほら、子供なんだし、女の子なんだし、人形とか貰ったら…………いや全然喜ぶ姿が思い浮かばないんだけど。
むしろ鳥でもシメて持っていった方が喜びそうなんだけど。
…………まあそれは機会があれば前向きに検討するとして。
あの後、第一関門をクリアしたターニャをその場に残し家へと戻った。
畑作業を抜け出してきたのだが、特に文句を言われることもなく昼ご飯を食べてテッドが迎えに来るのを待った。
何食わぬ顔でテッドの誘いを受け、いつものようにチャノス家の小屋へ。
ターニャの誘導によって一計を案じさせられているアンとケニアは……やたらとニヤニヤしていて、普段であれば不審に思ったことだろう。
上手く行っているように思えた作戦だったが、小屋に入ってこいつらの表情を見たことで不安になってしまった……大丈夫だろうか、こいつら?
「止まってー!」
「待って、テッド、チャノス!」
いつものように飛び出していこうとするテッドとチャノスの腕を、アンとケニアがそれぞれ掴み、強制的に足を止めさせた。
「うん? なんだなんだ?」
「どうした?」
「今日は小屋の中で遊ばない? アンも今日は中がいいって言ってるの」
「そうそう!」
そこでようやく、アンとケニアのニヤニヤに気付いたチャノスが顔を顰める。
「……なんか企んでるだろ?」
「べ、べべべ別に何も? ふんふふふーん」
「そ、そうね! 何もないわ! 偶にはあたしたちと家の中で遊びましょうって言ってるだけよ。……ほんとよ?」
ヒドい、あんた達ヒド過ぎるよ。
アンが混ざってる時点でこうなるんじゃないかなぁ、とは思ったけど。
表情を変えないチャノスを余所にテッドが問い掛ける。
「偶にはって、最近はずっと一緒じゃん。ず〜っとレンの家で一緒に遊んだし、この前は一日中ここで一緒に話してただろ? 俺ら。それにそんなに何度も訓練サボったら、強い冒険者になれなくなっちゃうぜ?」
鋭いこと言うな? とかの前に、毎日の遊びを訓練とか思ってたことに驚きだよ。
かけっこして、かくれんぼして、木登りして、チャンバラして、疲れたらそのまま木陰で寝てしまう。
あれ訓練だったの?
これだから異世界の常識というのは…………いや待てよ? 俺も前の世界の幼少期に水に打たれて修行とか言っていたような……。
気のせいだな。
作戦の失敗が仄見え始めたところで、今日はスカート姿のターニャが前に出た。
「……だからこそ」
「だからこそ?」
テッドが問い返す声に頷き返すターニャ。
「……強い冒険者になるために、訓練の内容を詰めた方がいい」
「お、おう。なるほどな…………チャノス、詰めるってなんだ?」
「……親父達が偶に使うんだよな。たぶん、完璧にするとかそんな意味だと思う……」
普段のターニャからは予想も付かない言葉が飛び出したことで狼狽えるテッドとチャノスに、考える暇を与えまいとターニャが続ける。
「テッドとチャノスは……将来冒険者になるん……でしょ? なら……強い冒険者になるために、凄い訓練を考えた方がいい」
「そんな訓練があるのか?!」
さすがテッド、食いつきがいい。
「皆で、考える」
「なるほど!」
何がなるほどなのか。
……まあ、冒険者に会ったら「どうしたらより強くなれるのか聞く!」って言ってたもんなぁ。
冒険者はアレだったけど。
強くっていうより『どうしたらそんなに人相が悪くなるんですか?』って訊いちゃったんだけど。
先程までとは打って変わってノリ気なテッドが、早速とばかりにベッドの前で靴を脱ぐ。
こうなってしまうとチャノスも従わざるを得ない。
一人で訓練することになっちゃうもんね?
こうして、外で遊びたい組改め外で訓練したい組の訓練メニューを考えることになった。
これは上手くいってるのか?
ターニャの表情からじゃ分からないんだけど、ケニアとアンの顔的には問題なさそうである。
筋トレが全くもって理解されない『強くなるための訓練メニュー』討論では、ランニングなんかの体力作りよりも棒を振ることや魔法を教わることが重要視された。
分からんでもない。
地味だし、効果も実感しにくいし、そもそも子供に言い聞かせて続くわけもないし。
「あーーー! そういえばぁー」
ドゥブル爺さんに弟子入りをするというテッドの案を、テトラをあやしながら聞いている時に、ケニアが棒読みの大声を上げた。
「ターナー、お昼から用事があるんじゃなかったっけ?」
「……そうだった」
「じゃあ早く帰らなきゃダメね! レン! ターナーを家まで送ってあげて!」
なんという三文芝居。
隣で猛烈に頷いているアンがまた良い味出してやがる。
「なんでターナーを送らなきゃならないんだ?」
それな。
チャノスの疑問にケニアは鼻息荒くも答えた。
「ターナーは今、一人でウロウロしないようにおじさんとおばさんに言われてるのよ! だからレンに送って貰うの!」
「ああ、あれか」
ターニャが保護者によって送迎されていることを思い出したチャノスが、納得とばかりに頷く。
「あれ、まだ続いてたんだなー。よし、俺が送ろう!」
「ダメだよ?!」
テッドが鉄砲玉気質で自分がやると手を上げるのを、アンが慌てた様子で止めた。
「なんで?」
そうだね、お前いつも俺のお迎えに走ってるもんね、ここで止められるのは不思議だね。
テッドの含みを持たない疑問にアンが口籠る。
「え?! えーと、えーと」
「……訓練の会議をしてるのに、冒険者になりたいテッドが聞いてなきゃ……意味ない」
「それも……そうだな。よしレン。頼む!」
……これって会議だったんだ、初耳。
話は決まったとばかり立ち上がるターニャの背中に、軽く手を添えて送り出す女子二人。
なるほどねー、そういう作戦かぁ。
でもさぁ……。
「……いくぅ」
チョイチョイと手を揺らしてやっていたら、そのリズムによって眠りに誘われていたテトラが、俺が小屋を出ると聞いて立ち上がった。
……こっちはどうする?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます