第24話


「なあ、見に行ってみねぇ?」


 懲りてねぇな?


 ニコニコとした笑顔でワクワクを抑えきれていないのは幼馴染のテッドだ。


 そろそろ俺の任期が明けるという――――ことに関係なくほぼ毎日全員集合の我が家。


 よし、分かってないな?


 俺はご立腹だ。


 ターニャ以外にもこの演技がバレていたのなら今すぐこいつらをクチャクチャにしてやるのに……。


 未だ大人しい俺ペルソナを纏っている俺。


 今日は親が出掛けているので室内遊び中の幼馴染共。


 監督役として母が残っていたのなら、うちの周りで遊べるのだが。


 諸事情により離席中のため俺は家を出られない。


 友情を見せてくれた幼馴染共は俺の家で遊んでくれるという。


 俺に構わず外に行け!


 ……そう言いたい。


「後の方が良くないか? さすがの俺でも二ヶ月小遣い無しは厳しいからな」


「れー、ふふふ。……れー、へんなかおー、ふふふふふ!」


「あ、あ、ああ〜?! なんでなんでぇ? あたしの『攻撃力十』死んじゃった!」


「終わったら交代だからね? 次はターナーの番よ!」


「……前進」


 室内で戦術ゲームの真っ最中である。


 室内だろうと他人の家だろうと遠慮なぞしないお構いなしな幼馴染共の特性を知っていた俺は、外出禁止期間内にこいつらを大人しくさせるためのゲームを開発した。


 ボードゲームとトレーディングカードゲームが混ざったような遊びだ。


 まず木の板を自分の分と相手の分、それぞれ二十枚ずつ用意して、その裏に戦術カードを貼り付けていく。


 戦術カードの種類は『兵士 戦闘力五』『一度きりの刃 どんな敵であろうと撃破、ただしこのカードも同時に消滅』『ただの壁 突っ込んできた敵の戦闘力をマイナス五 移動不可』といったものを五十種類ほど作った。


 同じカードは選ばないというルールの下に、好きなカードを選んで貼り付けて貰う。


 その後でニ十✕四のマス目の半分を自分の陣地として木の板を配置させていく。


 これで準備完了。


 後は一ターンに一回、交互にコマを動かして王様を取った方の勝ちとするゲームだ。


 割と単純。


 しかし戦術カードは伏せた面に貼り付けているので、アタック時に確認する審判が必要となる。


 カードが重なった時に互いのカードの効果を確認して脱落するカードを決めるのが審判の役目だ。


 つまり必要最低人数が三人のゲーム。


 テッドとチャノス組には審判として俺が。


 ターニャとアン組にはケニアがついている。


 テトラなら俺の膝の上にいるよ?


 自分だけ戦術ゲームを理解できないので疎外感があるだろうに健気にも笑っているという涙ぐましい子なんだよ……。


 可愛い。


「ふふふ! もー、れ〜! ふふふふふ!」


 可愛いの塊だな。


「ぶっ! あっはっは! な、なんだよレン?! その顔〜!」


 てめぇの妹がメイクしたんだよ。


 最近のテトラの流行りはお化粧らしい。


 可愛いの精霊かな?


「どうかな、チャノス? 僕、キレイ?」


「ふっ……くっ! はっはっはっは! や、やめろよ、こ、こっち見るなよレン?!」


 あいよ。


「はえ? アハハハハハ?! アハハハハハハハ!」


「……ふっ……〜〜〜〜っふ」


「もうなにやっぶっは?! あはははははははは?! や、やめ、な、なによそのふははははは?!」


 大好評だ、テトラは天才かな?


 俺だけ腹を立てているのも不公平だったので幼馴染共の腹を捩じ切ってやろうと思ってやった。反省してる。でも後悔はない。


 いい加減全員が呼吸困難になりそうだったのと、メイクした本人であるテトラが「や~、ふふふふふ!」と笑い転げ回られたので実験を終了とした。


 水瓶から水を汲んで顔面の塗料を落とす。


 あの木の実の汁を使えば、あっという間に落ちてしまう。


 本当に便利な木の実だな? ヤバい薬効とか無いだろな?


 顔を拭いて戻ったというのに、未だに俺の顔を見て噴く幼馴染達。


 失敬だね? 君ら。


 元凶の兄が真っ先に立ち直り口を開く。


「あ~〜〜〜、面白かった。レンってそういうとこあるよな?」


 顔か? 顔が整ってないとでもいいたいのか?


「それで、どうする? レンも見に行ってみるか?」


 ちぃ、誤魔化されなかったか。


 こいつが先程からソワソワとしているのは、村が来客を迎えたからだ。


 予定外の客ではない。


 むしろ予定通りのお客様。


 魔物討伐のために村長が依頼を出して呼び寄せた――――冒険者が村に滞在している。


 未だに懲りていないテッドとしては、憧れの存在が近くに来ているのだから、一目見てみたいのだろう。


「無理言うなよ、レンは今日まで外出禁止なんだから。明日でいいだろ?」


 チャノスはいつも通りクール……というよりどちらでも良さそうな雰囲気。


 冒険者そのものには魅力を感じていないように見える。


 チャノスの場合は憧れの職業なんかじゃなく、あくまで金持ちになるための手段としか捉えてなさそうだもんな、冒険者。


 君、家業あるじゃん?


 何故に冒険者なのか。


「じゃあ明日かー。まあ、明日ならレンも行けるしな」


 渋々と納得するテッドに溜め息混じりのチャノスが応える。


「そもそもテッドの家に泊まってるんだから、いつでも見れるだろ?」


「いやそれがさ、父ちゃんが会わせてくんねぇんだよ。昼は外に出てるみたいだしさ」


「いくら会わせて貰えなくても、チラッとぐらいなら見れるだろ?」


「チラッと見たいだけじゃねぇの! 会って話してみたいんだよ、俺は! 冒険の話とかも聞きたいし……あ、ダンジョンの話とかも聞けるかもしんないぜ?」


「……ダンジョンか」


 ダンジョンという言葉に、チャノスが食いつく。


「……仕方ない。補給するならうちの店に寄るだろうし、従業員に来たら知らせるように言っとくから、明日は溜まり場で待ち伏せといくか?」


「いいのか?! さっすが若旦那!」


「やめろよ。嫌いなんだよ、その呼ばれ方」


 やいのやいのと盛り上がる幼馴染達を他所にニコニコと話を聞くだけの俺。


 そう、聞いているだけ。


 約束とかしてないから。


 ――――だからその予定に俺は入ってはいまいよね?


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