第14話
前の世界では空想の産物だった代物も、所変わればなんとやら。
この世界には魔法が実在する。
まあ、魔晶石とかがある時点でお察しなのだが。
しかし魔晶石と魔法は明確に違うものらしい。
魔法は習得可能な技術、魔晶石は自然の恵み、といった棲み分けがあるそうだ。
前世の記憶持ちとしては「どう違うんじゃい?!」と叫び出したいところだが……。
こちらの世界では自然と受け止められる受け取り方だそうで、疑問を挟んで変に目立ちたくなかったのでスルーしている。
習得可能な技術、それがこちらの世界での魔法の立ち位置……。
なのだが。
幾らかの段階を踏んで、ようやく『魔法使い』と呼ばれるレベルになるらしく、そこまでの倍率の高さから、習得している人はそんなに多くないそうだ。
うちの村にもドゥブル爺さんだけだし。
さて、そんな一定の尊敬を集める『魔法使い』の資格を持つには、どんな段階を経る必要があるのか。
最初の一つは『才能』だ。
この言葉だけで死ねる。
異世界だというのに神はいないのか?
どこの世界だろうと持っている奴が正義なことには変わりがないらしい。
しかしそこは異世界。
この『才能』持ちというのが割と珍しくない確率で普通にいる。
その比率、十分の一。
つまり十人に一人は魔法が使える『才能』持ちで、貴族なんかだとほぼ全員がそうだという。
何かしらの遺伝的要素を思わせる。
しかしそれで終わるのなら、もっと魔法使いが存在していてもおかしくないだろう。
ここからだ、ここがスタートライン。
才能がスタートラインって随分だけどね……。
第二の関門、習得率。
魔法を使える素養があるからといって、必ずしも覚えられるかと言えばそうじゃないそうで……。
魔法の習得率も十分の一程度だと言われている。
才能が無きゃどうしようもないのに覚えるのも難しいというのだから特別感が過ぎると思う。
百人に一人、それが魔法までの道のり。
しかし『魔法使い』と呼ばれるためには、更に十人に一人へと絞られる。
資格試験よろしく『ある一定の威力を越えた攻撃的な魔法の複数回使用』が『魔法使い』と呼ばれるのに必須で、そこを乗り越えられてこそ、ようやく一人前の『魔法使い』なんだとか。
それ以外の魔法使用者は『魔法持ち』という呼ばれ方で区別されているそうだ。
人口二百人に満たない村に、千人に一人だという魔法使いがいれば、そりゃあ有名にもなる。
いざとなったらと頼りにされること請け合い。
重用も致し方なし。
魔法は狩りでも活躍するそうで、ドゥブル爺さんへの村人からの信頼は篤い。
ちなみにドゥブル爺さんは『火』の魔法使い。
属性というものが個人にもあるらしく、基本的には己の属性に準じた魔法が得意な魔法になるんだとか。
他の属性の魔法も使えない訳ではないが、習得に尚も苦労すると聞けば、その難易度の高さが窺える。
まあ、属性が一つ使えれば人間なんて余裕で殺せるレベルなんだろうけど。
人間火炎放射器だもん。
この村の子供である限り、ドゥブル爺さんを知らないということは無いだろう。
存分に俺の頬を引っ張ってればいいよ、少なくとも鼻水をつけられるよりはいい。
ここの子供が全員で襲い掛かろうとも、勝つのはドゥブル爺さんで間違いないだろう。
それぐらい強さに信頼を勝ち得ている。
そのドゥブル爺さんに頼まずして他の冒険者を呼ぶ判断に至ったのだ、何を
――――と、いうことにしておこう。
なんだかんだでドゥブル爺さんも結構な歳だし、魔物の規模がどれぐらいなのかも分からずに村の貴重な戦力を闇雲に討伐になんて送り出せない、っていう考え方もありそうだけど……。
というか慎重を期しているなら、そちらの可能性の方が高そうだけど。
でも今の子供達に必要なのは強さの進行マークで、魔物>ドゥブル爺>子供、となってくれさえすればいいのだ。
ドゥブル爺さんでも無理なのに……という思考に陥ってくれれば良し。
「そうだよな、あの爺さんでも無理なら……」
「そもそも子供でどうにかするのは……」
「大人の邪魔になるかも……」
「ドゥブル爺って昔は凄腕の冒険者だったんだろ?」
思惑は上手くいき、ケニアの涙もあって、其処此処で雑談の声が高まる。
チャノスのペースから外れた証だろう。
子供らしい思考というか……その『俺がやらなくちゃ』精神というのは、黒歴史の素みたいなもので……。
割と納得出来る要素が一つでも絡めば途端に冷めてしまったりする。
いわゆるマジレスだ。
ごめんな、中身中年で。
子供のノリについていけなくて。
「で、でもドゥブル爺さんが冒険者だったのは随分と昔の話だ!」
伝え聞こえてくる話に必死に反論の声を上げるチャノスだったが、もはや周りの声の方が大きく、主張は埋もれてしまう。
説得力にも欠けているのは賛同派の少年達の苦い顔を見れば分かるだろう。
でも魔法が……という思いがあるのだ。
魔法ってデカい。
「まあいいじゃん! 今回は大人に任せれば。俺達は村の守備を固めとこうぜ!」
ナイスだテッド。
「でもよ……」
お前、今日はマジで強情だな? どした? 多い日か?
渋い顔のチャノスがアンを見る。
反対意見が欲しいのだろう。
当のアンはテッドの意見に頻りに頷いているので無駄みたいだが。
どうやら大勢は決したようだ。
「おーい、帰るぞー」
タイミング良く扉が開き、誰かの保護者が顔を出した。
話が話だけに続けるわけにいかず、子供だけでの魔物討伐は有耶無耶になってくれた。
まあ、ほとんどが否定派で纏まった意見だったので、誰かが掘り返すということもないだろう。
聞かれたら叱られること間違いなしな内容だし。
……重要なのはこの後だ。
この後…………。
――――どうやって親の手繋ぎを回避して帰ろうか……っていう、ね?
より難しい問題が、俺を待ち受けている。
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