第13話
「大人達はダメだ」
お前の考え方の方がダメだ。
人口密度が薄まったことと
いや関連性は無いんだけど。
テトラ人気が高かった。
見た目からして可愛いテトラが人気者なのは当然の摂理。
おかげさまで年上のグループと多少の交流が生まれた。
そこで一気に打ち解けようとゲームを提案。
変な空気の払拭に励んだ。
友情破壊……失礼。人間観察ゲーム『人狼』をやらせてみた。
これがまあ、異様な盛り上がりを見せた。
さすがは幼馴染グループ、相手の癖や考えていることなんかは勝手知ったるなんとやら。
その真偽如何がまたゲームに面白さを齎しているようで、不安そうだった顔を笑顔に変えて楽しんでいた。
プレイヤーとしてターナーとケニアが参加。
俺はテトラの相手もあったので、ゲームマスターをすることに。
出ていった悪ガキ共を気にしないようにという配慮でもあった。
しかし奴らは帰ってきた。
しかも見つかることなく。
ちょっとセキュリティ甘いんじゃないの田舎?
向こうは向こうでスリルを楽しんだらしく、意気揚々と凱旋。
こちらもゲーム後の高揚感があったからか、英雄よろしく迎え入れてしまい、脱出組の増長は傍目で見ていても分かった。
しまった?! 『場を暖めておきました』的なことを
てっきり『その後……彼らの姿を見ることは無かった』パターンだと思ってたのに……。
興味もあったのだろう居残り組は、脱出組から大人達の会議内容を聞きたがった。
チャノスが鼻高々でもうね……。
そこから冒頭の発言に繋がる。
ベッドの上を陣取ったチャノスとテッドが、さも『重要なことを話すぞ』という雰囲気を醸し出していてイタい。
ついて行った年上の少年達の鎮痛な表情も笑いを誘う。
殺す気か?
充分に
「この村は魔物に襲われている」
ならなんで会議なんて開けるんだよ。
呑気か?
そう思ったのは俺だけだったのか、騒然となる室内からは笑顔が消えていた。
「れー」
いや全然残ってるな。
むしろ他の奴の
テトラの手をプラプラと揺らしてやりながら聞いたチャノスの話を纏めると。
森に――――狼の魔物が出たんだとか。
そこで一斉にこっちを見られても困る。
偶然だから。
ゲーム名に狼が入っていたのは偶々だって。
魔物。
ファンタジーを代表するモンスター格。
ロールプレイングゲームなんかだと、そこら辺をうろついただけでエンカウントしてしまうアレだ。
しかしこの世界にいる魔物は、そこまでの数が分布しているわけじゃない。
魔物には魔物の住む環境みたいなものがある。
魔物が住む森を『魔の森』と呼んで、普通の森と区別しているように。
他にもダンジョンや人の手の入っていない向こうの大陸なんかにも魔物はいるらしいのだが、ここでは遠い話。
辺境も辺境、ド辺境と呼んでも差し支えのない地域にあるこの村の周りの森は――――『魔の森』ではないからだ。
深くて広い森だから、これ以上広がらないようにと開拓している部分もあるだろう。
しかし何より、魔物が住みついていないというのが、ここが開拓村として選ばれた大きな理由だと思う。
いるといないじゃ防衛する戦力や暮らし易さなんかも変わってくるからね。
その魔物が森に出たというのが今回の会議の中核だったようで。
それでなんで大人達がダメになるのかが分からん。
チャノスが盗み聞きしてきた内容によると、初めての魔物対策というより……。
その予算会議に近いと思う。
流れてきた魔物が住みつくかもしれないというのは予想されていたことだったようで、それ用の予算を積み立てていたらしく、それを使用するか否か、使用するならどういった用途なのか、という話し合いが行われていた模様。
……テッドやチャノスの親は立派だなぁ。
言いつけを守らずに盗み聞きする子供の親御さんとは思えないぐらい。
遺伝って不思議。
会議の内容は、冒険者の招集か領主の兵を頼るかの二択に絞られたそうだ。
堅実だと思う。
村人の被害を出さないために、だろう。
今も続いているであろう残る会議の内容は、それまでの村人の過ごし方についてとかだと思う。
……何が不満なのか?
襲われてるも何も、森にて早期発見しとるやないかい。
むしろどうにかする算段は既についていて、あとは決議だけに見えるんだけど?
不安を煽るとか良くないぞ?
ざわざわと騒がしい室内で、どう収集をつけたものかと悩んでいると、チャノスが立ち上がった。
……嫌な予感がする。
上から抑えつけるように手を振って静かにするよう促すチャノスは、ざわめきが収まるのを待ってから、厳かなことでも告げるように口を開いた。
「俺たちでやろう」
なんでそうなんねん。
こいつあれだ、今の状況に少し酔ってやがる。
もしくは思春期特有のあれだろう。
「大人はダメだ。何も分かってない。放っておいたら被害が広がるかもしれないのに、悠長に冒険者や領主様に依頼するとか言ってるんだ。このままじゃ危ない。魔物がいるのは分かってるんだ。こちらから攻めた方が安全さ」
もうぶん殴ろうかな? 手っ取り早く。
テッドやアンも驚いているので、この事は聞かされていなかったのだろう。
「エノクとマッシは既に狼退治を経験してる。勝算は十分にある」
チャノスが腕を振った先には、まだ体が出来上がる前の少年が二人。
盗み聞きについて行った少年達だ。
紹介されたからか手を上げて応えるバカども。
どう見ても訳知り顔。
下手な入れ知恵の元はこいつらか?
どうせ狩りの手伝いについて行ってチョロっと弓打ったくらいだろうに……よく自身満々に言えるよね?
うっわ、めんどくさ。
マジでこれどうしよう?
『自分が正しい』のオンパレードを歌う幼馴染の声を聞き流しながら現実逃避する。
控え目な僕っ子を演じてきた身としては、ここで声高に止めたとしても影響力など無い。
もうテッド辺りがやめるって言ってくんねえかな。
青い顔してるし。
テトラに頬を引っ張られながらそう思っていると、おさげの委員長が立ち上がった。
「ダメよ! なに言ってるの……?」
ケニアマジケニア。
最高かよケニア愛してるよケニア。
「だから……」
「ダメよ! ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダ〜〜〜〜メ〜〜〜〜! 絶対ダメ!」
チャノスがうんざりとした表情で屁理屈を述べようとしたが、ケニアはさせじと大声で遮った。
そんなケニアの目尻には涙が浮かんでいて、さすがのチャノスもこれには驚いているようだった。
「ぐすっ…………絶対、ダメなんだからぁ……」
気まずい雰囲気が漂う小屋内。
ケニアの目から涙がポロポロと溢れ落ちる。
……しょうがねぇなあ。
「ドゥブルさんは?」
ポツリと呟いた俺に、ハッとした表情で見つめ返してくる幼馴染達。
キリッとキメたいところだが、片頬をテトラが、片眉をターナーが引っ張ってるので変顔。
「ドゥブルさんでも勝てないんなら……僕たちには無理なんじゃないかなぁ……」
と、気弱な声で後押しする。
無理だよ、たぶん無理……というか絶対無理わかれバカ。
「そ、そっか! そういやドゥブ
テッドの声が嬉しそうに弾んでいるのは、さすがに魔物の討伐は勘弁だったのだろう。
変に意地張っちゃう奴なので、先に意思を固めてくれる分にはありがたい。
妙な説得力を発揮するドゥブル爺さん。
枯れ木のような体だが、我が村の最高戦力で間違いない。
何故か?
そう、魔法だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます