第10話
成長しました。
「ほんとにレンは寂しがり屋なんだから! 構って欲しくてそういうことするのね、もう! 子供なんだから! しょうがないから付き合ってあげたけど、早く直しなさいよ!」
「……
ベッドでスヤスヤと眠るテトラの手は、俺の服を掴んで離さない。
ちょっと幼馴染達が非情過ぎて困る。
どういう教育受けてんの?
ケニアは得意気に対面のベッドで足をパタパタとさせながらマシンガンのように捲し立て、ターナーは己の欲望に忠実に俺の背中をグイグイと押してくる。
いつもの小屋だ。
デッドエンドだ。
上手くいっていた筈なのに……。
どうしてこうなった?
予想通り過ぎて困るぐらい順調に幼馴染達を翻弄できた。
自信がある。
隠れていた木の下を、テッドが爆速で走り抜けて行き、それにケニアが文句を言いながらも碌にチェックもせずに追いすがり、嫌々ながら来たチェノスに見つかって、アンを引っ張り出そうとしてる間に村の中央付近に逃げた。
建物や井戸を利用してやり過ごし、キレたターナーが教会に角材持って入り込むのを見物し、溜まり場の小屋付近に潜伏して完封。
『ここにいるのに〜』というお里が知れそうな悪い笑みを浮かべていた。
完璧、まさに完璧なスニークミッション。
しかし満を持して最終兵器が登場。
ギャン泣きするテトラが視界をフラフラ。
幼馴染どもは鬼なのかな?
隠れ鬼と呼ばれる、こっち版かくれんぼ。
複数で鬼を追い回すという、どちらのことを鬼と呼べばいいのか分からない遊び。
そう、遊び。
遊びなんだよ?
遊んであげてるじゃん……。
なのに幼馴染達は躊躇せずに最終手段を切ってきた。
慚愧の念を掻き立てろとばかりに泣き声を上げて必死に俺の名前を呼ぶ幼子。
足取りはヨチヨチフラフラと危なく、親を見失った迷子のよう。
秒で陥落するよね?
何が酷いって他の幼馴染達はそれを平気そうに見てるのが酷い。
お前ら鬼だよ! お前らが鬼だよ!
「……さん?」
「いやニ」
「に……さん」
誰が兄さんやねん。
指で手を叩いたら立てる指の本数が叩いた指の分だけ増えていくというゲームをしながら、次こそはと決意を固める。
次こそは……! 次こそは心を鬼にしてこの悪魔どもに敗北を教えよう……!
なんでもかんでも思い通りになると思われたら将来困るからな、うん。ちくしょう共め! 反省してます!
「ちょっと! あたしも混ぜなさいよ! 混ぜるべきだわ!」
お前ら混ぜたら危険に決まってるだろ? 分かれ。
願い届かず、途中参戦を果たしたケニアがいそいそとベッドに上がってくる。
子供とはいえベッド一つに四人って君らバカなの?
「五ね!」
「四だから」
バカだった。
指を足し引きしつつ雑談に興じて……今日もまた終わるのだろう。
……まあ、あれだ。
色々と疲れるが――悪くない。
そう思えるようになった。
子供だからなのか田舎だからなのかは知らないが、ここで過ごす時間というのは本当にゆっくりと流れている。
それが妙に心地良い。
スローライフとはよく言ったもので、今までの人生がいかに急かされて生きてきたのかを実感できる。
そういう人生が悪いとは、未だに思ってないけども。
別の生き方だって悪いものじゃない。
ふとした拍子に、『気がつけば前の人生に戻っているのでは?』と思うことがある。
赤ん坊の頃はそれを待ち望んでいた筈なのだが、今ではそう思う度に不安と寂しさを覚える。
未練が無いわけじゃない。
積み上げた人間関係や、歩んできた道のり――――そんな諸々を含めた俺の歴史。
大したことない、どこにでもいるサラリーマンの人生。
それでも……それでも、なんだよな。
つまらないと思っていたものでも、無くなるとなると酷く惜しく感じてしまう。
なんでこんなことになっているのかも分からないのだから、俺にはどうしようもないことなのだけど。
もし、万が一、元の世界に、前の人生に、帰る時が来るのなら……。
それまでは――――こいつらに振り回されるのも、しょうがないではないか。
そう思う。
……まあ、成長期を迎えて家の手伝いが始まれば、心配せずとも、こいつらだって落ち着いてくれるだろうけど……。
「あ。あたし気付いたんだけどこれって数字の勉強になるんじゃない? 凄い発見よね! みんなに教えたら良いんじゃないかしら? ねえレンどう思う?!」
「……足の指もあり」
「………………れー…………れー……」
前言撤回で。
やっぱり振り回すのは無しでお願いします。
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