第8話
朝食を済ませると、まず父が狩りへと出掛けていく。
「いってらっしゃーい」
「うん、いってくるよ」
母と食器を洗いながらそれを見送り、使用した水を捨てに行く。
と言っても、専用の捨て場があるとか下水があるとかではなく、道に放るだけなのだが。
なんとなくで家の近くには捨てていないけど、あんまり意味はないだろう。
これが大きな街になったりすると上下水道が整備されていたりするんだとか。
浄水器代わりに使われているのは水の魔晶石あたりかな?
まあ、うちには縁の無い話だ。
特に不便にも思ってないし。
無きゃ無いで生活できるもんなんだなぁ、と。
昔を思えば驚いて仕方ないけど。
学生の頃……いや、たとえ社会に出た後だろうとも、『お前は将来田舎暮らしをする』なんて言われたところで『宗教?』と疑うであろうビジョンしか浮かばない。
それぐらい、今の生活っていうのは前の俺から掛け離れているように思う。
人間って変われば変わるもんなんだなぁ、って……いや変わり過ぎじゃない? もはや別人なんですけど? ああ別人か。
朝食の後片付けを終えたら、母と共に畑へと出る。
畑仕事は、基本的に涼しい時間に終わらせることが多いので、朝のうちからやる。
太陽が高い昼頃は休憩が多めだ。
脱水症状や熱中症にならないための知恵なんだろう。
この時間の手伝いは特に何も言われない。
赤ん坊の頃から背中におぶさって見ていた作業なので、割と直ぐに慣れた。
適度に働くことには母も賛成なのだろう。
しかし一日中ということもなく、少し早めの昼ご飯を食べたら遊びに行ってこいと言われる。
ちなみに昼は母と二人だ。
父は畑仕事では力作業を担当しているので、種植えや収穫などでは活躍するが、それ以外の日は基本的に狩りに出たり木を切ったりして過ごしているため昼に居合わせることが少ない。
雨の日はまた別なのだが、今日はいい天気だ。
「それじゃ、お手伝いはもういいわよ。ありがとう。天気もいいし、外に遊びに行ってきなさい」
「う、うん……いってくるよ」
昼を食べ終わると言われる定型文。
母上……息子はボチボチ反抗期です。
元気よく飛び出していく五歳児を演じながら、心の中では残業気分。
それならまだ家で昼寝でもしてた方がと思わなくもない。
しかし村長の息子であるテッドには関係なく叩き起こされるのだ。
どうしろと?
これが部落格差ってやつかな……いや違うな。
今から日が沈むまでが自由時間という名の拘束タイム。
たまに全力で逃げ隠れするのだが……遊びだとでも思われるのか全員に追い回される始末。
テトラが泣き出したところでゲームセット。
それが毎度のオチ。
……可哀想になって出て行っちゃうんですよ。
平の農民にとって自由なんて幻なんだね……。
しかし昨今のテトラのお昼寝具合を見るに、待ちきれずに寝てしまう可能性も……あると信じたい。
ならば虐げられし者の主張ではないけれど、今日は村の中を逃げ惑いながら
家の前で待っていればお迎えが来るので、村の外周を回ろう。
見通しのいい一本道も、このときばかりは裏目になる。
早いとこズラからねば鉄砲玉が来てしまうから。
小さい手足を目一杯振って村を囲っている木壁を目指す。
「あー! おーい! レェーン! どこ行くんだよお!」
お前ちゃんと飯食って来てんのかよ! 毎度毎度早過ぎるだろ?!
聞こえない振りをして外周を目指す。
奴も人の畑を横断するような躾はされていないので、こちらが聞こえない振りをしたら諦めて人数を増やすために一度帰っていく。
挟み撃ちをするために。
前の世界での子供なら畑があろうとなかろうとショートカットを選択していただろう。
無邪気であっても害になるならやってはいけない。
そういうことを親に口が酸っぱくなるほど言われているので、この村の子供は万が一にも畑を横切ったりはしない。
食材の大切さを知っているからだろうか?
おかげさまで、余程の脚力の差がない限り一本道で追い付かれるなんてことはないけども。
しかし見つかってしまったので、午後からも体力を使うことになりそうだ。
振り返って敵方の様子を探る。
まだ捕まえた訳でもないというのに、帰っていくテッドは楽しげ。
その姿にムクムクと不満が募る。
……言っとくけど負けたことないからな? 勝ちを譲ってるだけだからな?
毎回同じオチで終わっているので、勝利が約束されているとでも思っているのだろう。
テッドの得意満面な表情に、ちょっと本気で逃げてやろうか、なんて思う。
こちらとしては、つまりあれだ。
ここらで一発シメとくか、的な? ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます