第6話
今日もよく遊ばれた……。
家への帰路を一人で歩きながら今日一日を反芻する。
昼も半ばからテッドに連れられて、チャノス家の小屋で妄想お伽噺。
指折りながら数の数え方を教えるという苦行をこなしつつ、テトラの相手。
ターナーの独特なコミュニケーションに苦戦していると、
ただ転んで怪我しただけだったんだけどね……あいつ、俺を便利屋扱いしすぎじゃない?
そういう時は大人を呼べよ。
はぁ……疲れたなぁ。
肩をグルリと回す。
別に凝っているわけじゃないんだけど、これも前の世界での習慣である。
油断していると無意識にやってしまう。
まあ、そんなに変な事でもないとは思うんだけど……いや子供がやってたら変かな?
注意しよう。
とはいえ、クソ田舎の人影皆無な田んぼ道。
誰に注意するのかというのもある。
あくまで心に留める程度にして、考えを切り替える。
一日の最大にして最後の楽しみ、夕食の献立へと――
子供らしい思考としては満点である。
変われば変わるものというか……実際別人なんで勘弁して欲しい。
今生では野菜が大層口に合う。
というか美味い。
異世界野菜がマジで美味い。
前世でも嫌いというわけでもなかった野菜なのだが、今では大好物へと進化した。
野菜独特の苦味や渋味は勿論のこと、甘さや辛さに深みがあるというか……調味料との組み合わせが抜群というか……。
洗って食べるだけでも満足感が高い。
米の無い生活というのも意外に慣れた。
味噌や醤油を懐かしく思うこともあるが、強く求めることもない。
こちらにはこちらの調味料があるしね。
夕食は……ふかした芋に荒塩掛けて食べたいなぁ、なんて思うぐらいにはこっちの食生活に馴染んでいる。
……待てよ? 大根っぽいのを焼いたやつでもいいな?
なんて子供らしく夕食に夢を馳せていたら、通りの先を歩く人影に気付いた。
知っている人影に思わず声が漏れる。
「父さん?」
「うん? ああ、レンか。今帰りかな?」
呼び掛けると振り返って立ち止まってくれる人影。
茶髪で茶目の細い体。
しかし毎日のように木こりの仕事をこなしているせいか、そこそこに引き締まっていて、なよなよしている印象はない。
柔和な笑みを浮かべて優しい雰囲気を醸し出すこの人が、ここでの俺の父親だ。
「うん。父さんも、今日は遅かったんだね?」
「う、う〜ん? レンに言われるのも変な気がするなぁ。レンの方こそ遅いじゃないか。あんまり遅いと母さんに怒られるぞ?」
「気をつけるよ」
ニコニコと嬉しそうな父に笑顔を返す。
我ながら理想的な親子関係を構築していると思う。
しかし、だからなのか――――
隣りに到達したところで手を繋がれてしまった。
ひええええ。
五歳の子供に対する親の対応としては間違っていないのだが、こちらとしては叫んで走り出したい衝動に駆られる。
「ん? どうかしたかい?」
「……ううん、別に」
死にそうなだけ。
まだだ、まだ親との手繋ぎを恥ずかしがるには早い!
俺の子供っぷりは、基本的には村にいる子供を模倣しているので、ここで恥ずかしがって範を乱すのもマズいと思う。
あのクソ生意気なチャノスですら未だに母親と手を繋ぐのだ。
せめてあと一年は待つべきだろう。
口調ですら『僕』にして精神年齢を悟られないようにしているというのに、ここでそんな自立精神を見せてどうする?!
耐えろ! 耐えるんだよぉおおお?!
うおおおおおおおおおおおおおおお!
目前にある家に向かって駆け出す子供に、やれやれと言わんばかりに引っ張られる父親。
沈みゆく夕日に照らされて、親子の影が畑へと伸びる。
穏やかな田舎の光景である(ガチギレ)。
「どうした急に?」
「ちょっと早く帰りたくなってさ(逃避)! お腹減ったし! 夕飯何かなぁ(現実逃避)?」
子供のコメカミに浮かぶ血管が無かったらなお良かったかもしれない。
大丈夫。
口調も思考も行動も、完璧に子供のそれだから!
ただ残念なるかな、精神が大人ってだけで……。
…………はぁ。
異世界スローライフも……楽じゃないよな。
早く大人になりたい。
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