第5話
何故それが秘密なのかと言うと……。
まあ、気持ち悪いし。
突然息子がそんなことを言い出したのなら、親は病気を心配し、友は離れ、集落からは村八分、最悪放逐されるであろう未来まで見えた。
まず頭のおかしな子であるという風評は免れないだろう。
俺だってそんなこと言い出す奴が会社に居たら、極力関わらないようにするし、なんならそいつのデスクに精神科のある病院の連絡先を貼り付けるまである。
他人事ならば笑い話。
しかし己の事というのだから辛い話である。
なのでナイショ。
まあ、ナイショも何も、俺が言わなければいいだけの話。
転生云々が他人に見分けられるわけでもあるまいし。
黙っていればオーケーだろう。
下手にしゃべくり回して魔女裁判に掛けられるような事態になられても困る。
宗教とかあるだろうしね。
つまり普通の子供を演じていればいいのだ。
実は俺……転生してきたんだ! などという頭のおかしなカミングアウトをすることもなければ、現代知識を利用すればこんなに便利! などというドヤマウントを取ることもなく。
ただ普通に、あれれぇ? おかしいなぁ〜? とか言ってれば大丈夫。
いやそれ色々と大丈夫じゃないけど。
のんびり平和に暮らしていけば、自ずとそれは付いてくる……と思う。
たぶん。
それで言ったら、聞いたことのないお伽噺を知っているというのは危ない線ではある。
しかし子供が話すことなのだ。
最悪問い詰められたとしても妄想ということでオチがつく。
万が一を想定してテッドやチャノスにも語らせたことがあるので大丈夫だろう。
ちなみに、テッドの話すお伽噺は次々と出てくる悪役を主人公が倒すという少年マンガのような物で、チャノスの方はどの話でも絶対にお金持ちになって終わるという物だった。
願望ダダ漏れである。
お互いが長男坊で家業もあるというのに、二人共目指しているのが冒険者で辿り着きたい
音楽性の違いとか表れないといいけど。
そんな将来の冒険者パーティーの火種はともかくとして、俺の話すお伽噺は出来が良い物として他の子供には認識されている。
少なくともテッドとチャノスのよりはね。
うん、まあ、俺の考えた話じゃないんだけどね。
ここと向こうじゃ文化が違うから、もしかしたら面白くないかもなんて思っていたけど……。
宝箱の中身が煙なのも、主人公が爺さんになったのも、案外受け入れられている。
「不用意に開けるからね!」
とケニア。
こちらの世界ではお土産が罠でも割と変ではないらしい。
なにそれ怖い。
これだから貴族制がある世界はダメなんだ。
いや貴族制なのかどうか知らんけど。
領主がいるっていうからそうだと思っている。
ファンタジーな世界なので、老化する煙も海の底の屋敷も不思議じゃないっていうね……どうなってんだよこの世界。
フィクションがフィクションとして成立していない。
子供の教育としてどうなの?
「スー……スー……」
「……」
まあ参加者の過半数が寝てるから問題ないかな?
「今日のお話も面白かったわ。さすがはレンね! やっぱり宝箱なんて軽々しく開けちゃダメなのよ。テッドのお話だと魔物が落とした宝箱は直ぐに開けちゃうの。魔物が持ってたものなのによ? 魔物のよ? そんなの絶対に危ないじゃない! チャノスのお話だと、中身は凄い財宝だったりするんだけど、そんなに美味い話ってあるのかしら? ダンジョンなら大丈夫! とか言ってたんだけど。ああ、大丈夫よレン。あたし、将来ダンジョンに行くことになっても宝箱は開けないから!」
そもそもダンジョンとか行かねー。
「姫様は魔物使いか何かね……。当たってるでしょ? サハギンとかマーメイドを操ってたから間違いないわ。喋る亀っていうのは初めて聞いたけど……凄い高位の魔物の使いなら……うん。高すぎる実力を危ぶまれて海底に追いやられた魔物使い……そう、そうだわ! そして主人公は姫様を追いやった家の次期当主なのよ! 子供を作れない歳にしたの! 家を潰すために! どうこれ?! 当たってるんじゃない!」
いやほんと子供の妄想って凄いや。
お伽噺とか話して大丈夫かなぁ? 変な常識が植え付いたりしない? とか不安に思ってた自分が恥ずかしいよ。
「ねえレン? 聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「聞いてないじゃない!」
どう返せと言うのか?
顔を赤くしてペチペチと叩いてくるケニアを避けることはできない。
テトラが寝てるから。
動いたら起きちゃうだろ?
甘んじて受け入れようと思う。
だからここの返事はこうかな?
「効いてる効いてる」
「聞いてないでしょおおお?!」
これも違うというのだから、返事は最初から一択。
「うん。実は聞いてない」
「ほらぁ!」
それでも結果は同じ。
ペチペチペチペチ。
最初から世界の半分なんてくれる気ないんだろ? じゃあ選択肢なんて出さないでよ、全く。
テトラの枕兼ケニアのサンドバッグになっていると、寝てても喋らないターナーの目が開いた。
割と最初の方で眠っていたので、実は話を全然聞いていなかったであろうターナー。
ショボショボとした目に俺の視線が重なる。
助けてくれるかな?
再び閉まる瞼に拒絶を見た。
委員長無双である。
どこの世界であろうと女性というのは強いのだ。
うちの家庭然り。
さて、どうしよう?
隣りの女傑に視線を合わせれば、何が不満なのかムームーと唸り声を上げて猛る始末。
別にケニアの打撃が痛いわけじゃないんだけど、そろそろご機嫌取りの一つでもしておこうと思う。
幼馴染みの少女をいつまでも膨れっ面にしとくのもあれなんで。
「……皆寝ちゃったし、計算でも教えようか?」
「ほんと?!」
見ろよ、入れ食いだぜ。
泣いた蛙がって言うぐらいの笑顔になったケニアに、俺も笑顔で返す。
これが大人のやり方である。
……でも結果として見れば。
どの子供にも上手い具合に転がされているようにしか見えないわけで……。
だから嫌なんだよなぁ……ここに来るの。
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