第136話 劉備入蜀 Ⅰ
「さぁ、巴蜀の地へ行くぞ」
劉備は関羽や張飛らに声を掛け、彼らは
「おうっ」
と元気よく返して準備は整った。
劉備軍は荊州に風魯や孔明、趙雲などを残して出撃し益州へと入る。
益州太守の劉璋には領内で脅威となっている五斗米道の討伐のための援軍だ、と伝えて許可を貰っているため、先導者も付けてもらい難なく行軍。
成都を経由して五斗米道が勢力を持つ漢中へと迫った。
劉備やそれに従う軍師龐統の計画では、五斗米道の首領である張魯を討ってその勢いで劉璋も討ち果たしてしまおうというものであったのだが・・・
「な、なんだ、あの豪傑は・・・!」
張魯軍に武勇に極めて秀でた猛将がいて、劉備軍は攻め込めないどころか却って猛攻を受けてしまった。
「誰かあの者の名前を知っていないか!?」
劉備が配下たちに問いただすと、負傷して戦場から本陣に戻ってきた魏延が答える。
「あの輩、馬超と名乗っておりました・・・」
「なにっ、あの曹操軍の守りを突破して許褚と打ち合ったあの馬超なのか!?」
劉備は魏延の報告を聞いて改めて前方に目をやる。
その猛将・・・馬超は劉備軍の兵士を次々と蹴散らして本陣に迫ってきていた。
「義兄上、この張飛が馬超を退治してご覧に入れましょう!」
張飛が劉備にそう言葉を残して前方へと駆けて行ったが、劉備は馬超を殺すのが惜しいので、
「張飛っ、ここは生け捕りにするんだ!」
と、大声で叫ぶと張飛も槍を天高く上げて了承した。
益州の山河が赤く染まる中、張飛と馬超は十数合打ち合い、結局張飛の怪力に負けて落馬。
「張飛・・・っ、お主は強い、さぁ我が首を掲げて帰るがいい・・・」
馬超は死を望んだが、張飛は劉備から生け捕るように伝えられていたので、
「殺すわけにいかねーよ」
と落馬の際に負傷した馬超を背負って本陣に帰った。
そして馬超は治療を受けてから劉備と顔を合わせて、劉備は自らに従うように求めたが、
「私はあなたに従うつもりはない。そもそも張魯様に拾われた時点で命を捧げる覚悟はできている」
と言って頑なに応じなかった。
劉備は困り果てて龐統に意見を求めた。
すると、龐統は出陣前に風魯から聞いた話を思い出し、
「風魯大将軍を呼びましょう。彼なら馬超を説得できるかもしれない」
と劉備に伝えた。
それから少しして益州からの手紙が荊州に届く。
「風魯大将軍、お願いがあります」
手紙を受け取った孔明が風魯を呼び、馬超の説得を依頼した。
「まぁ、私にできるかはわからないけど、やってみる」
風魯は益州に行くことになり、妻に帯同するか聞いたが、
妻は”仕事で行くのですから私が居てはお手を煩わすでしょう”と断ったため単身で益州に向かうことに。
風魯は貰い物の地図を片手に再び益州に入ったのである。
「は、早く私の首を斬れっ」
馬超はその朝も獄中で叫び続けていた。
その時、牢獄に人が入ってくる音が聞こえたので、
(いよいよ処刑しに来たのだろう)
と踏んで、
「さぁこの馬超を殺すがいいっ」
そう言った矢先にふゎんとした声が聞こえる。
「やぁ馬超殿、どうしたのそんなこと言って」
「な、風魯大将軍・・・」
馬超はあの日のことを思い出す。
今、ここに命があるのは目の前の男のお陰だったということも。
「せっかく助けてあげたのだから生きてよ。ここで死んだらなんで助けたのかわからなくなる。ねぇ?そうでしょ」
風魯はその後も馬超を説得し続け、初めは頑なだった馬超も遂に折れて・・・
「分かりました。劉備様に従います。そして、助けてもらったその命で戦い抜きます!」
と、説得に応じて劉備の配下になったのであった。
猛将を失った張魯軍は一気に押し込まれて漢中を失い、張魯は山奥深くに逃亡。
五斗米道を一掃した劉備は劉璋討伐へ切り替えるべく準備をしていたが、ここで想定外の事態が起きてしまうのである―
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