第135話 離間の計 Ⅲ

 「ただいま帰ったよ」


 風魯が襄陽に帰国すると劉備やその重臣たちがこぞって迎えて、


 「風魯大将軍、心配しましたぞ。あまりにも急に飛び出して帰ってこないから、寝返ったとかいう噂も広まっておりましたし・・・」


 と口々に安堵の声が聞こえた。


 「おーい、帰ったよ」


 特に風魯が屋敷に帰ると妻が怒り気味に・・・


 「も~ぅ、私に一言も言わずに夜陰に紛れて出ていくから、危うく謀反人の妻として処罰されるところだったのよ!」


 などと言われ、普段は大人しい妻もこればかりは我慢できずに、半日間説教された風魯。


 「ごめん、悪かった。この通りです」


 何度も頭を下げて謝った風魯は自分の軽率な行動を反省する。


 (俺にも家族がいる。なのに置いて出て行ってしまった)


 「これからはなるべくここに留まるよ」


 風魯はそう反省して言ったが、妻はこう返してきた。


 「まぁ、でもあなたは旅をしているほうが似合うと思いますよ。だから、次、旅することがあったら私も連れていってくださいね」


 「え、一緒に行くの?・・・てか、私は嬉しいけど・・・」


 「私だって一人じゃつまらないし、たまにはあちこち旅してみたいもの」


 こうして、風魯が次に旅をする時には夫婦で一緒に行く。これで話がまとまったものである。



 そのころ、西涼では・・・



 「行けー!!曹操に反撃せよーっ!」


 酒泉に逃れた馬超は一族の馬岱や韓遂らと合流し、曹操軍に再突入。

疫病や悪天候により疲弊していた曹操軍は蹴散らされて敗走した。


 しかし、曹操軍はこのまま負けっぱなしで終わるような集団ではない。

窮地にこそ居並ぶ軍師の智謀が発揮されるのだ。


 「丞相様。ここは離間の計を用いてはいかがでしょうか」


 軍議の場で曹操に献策したのは軍師の賈詡である。


 「離間の計とな?計略の概要は聞いたことがあるが、誰と誰の間を引き裂くのか?」


 「馬超と韓遂です」


 これに両者の関係を引き裂けるのか不安になった曹操が実現性を問うと、賈詡はニヤリと笑う。


 「分かった。自信があるのなら任せようではないか」


 こうして曹操の許可を得ると、賈詡はまず馬超に使者を送り、


 ”我々は浅はかな考えで馬騰殿を殺害してしまった。ものすごく反省している。だから我々は西涼の支配を捨てて馬超殿に西涼の全てを支配してほしい”


 という内容の文書を送った。


 もちろん、実際は馬騰を殺してなどいないのだが、これを読んだ馬超は曹操が遂に認めたか、と思い曹操への敵対心は薄れていく。


 そして、その後曹操と馬超が面会し、馬超が西涼を治める、との内容に合意した。


 しかし、この内容を聞いて仰天したのは韓遂だ。

彼は馬超の陣に押しかけると、


 「馬超殿!私はこれまで朋友としてあなたを助けてきた。なのに、勝手に曹操と話し合って、西涼をあなたが治めると決めてしまった。なんの断りもなく、この私に臣従せよと申されるか!?」


 と馬超に詰め寄った。


 馬超が西涼の全てを治める。これはつまり同じく西涼で割拠する韓遂が彼に従うということになってしまうのだ。


 ただ、それを特段深く考えずに決めてしまった馬超は何も言えずに口をつぐむ。


 自身の陣に帰った韓遂は頭を抱える。

馬超と曹操が合意している内容に反して領有を続けてしまっては侵攻の対象になってしまう。

 かといっていきなり臣従するわけにもいかなかった。


 悩んでいると、そこへ曹操からの使者が訪れる。


 「なに、馬超との合意は偽りとな!?」


 その使者は実際に馬騰を殺害していないことなどを伝えて、韓遂に曹操からの密書を渡して帰っていった。


 その密書には、”あなたが馬超との関係を破って攻撃すれば我々もすぐに大軍を差し向けて馬超を討ち果たすだろう。そうなれば韓遂殿の領地は全て安堵される。ただ、もしこの話に応じないのなら馬超との偽りの合意を継続してあなたを追い詰めるだろう”と書かれていた。


 (くっ、してやられたり・・・!)


 韓遂は追い込まれたが、生き残る道は一つしかない。



 「馬超を討てー!!」


 韓遂は馬超の陣営を急襲し、曹操の大軍も追って到着。

はじめは韓遂の猛攻を耐え忍んだ馬超軍であったが曹操の大軍が到着すると万事休す。


 馬超と馬岱は西涼を捨ててどこかへと落ち延びていった。


 賈詡の策略は見事に成功し、曹操は西涼を手に入れたのである。

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