第134話 離間の計 Ⅱ
「ん?怪我を負っているけど大丈夫?」
風魯が西涼の荒野を散策中、一本の木にもたれるようにして座る手負いの男を発見した。
「大丈夫だ、心配される筋合いはない。なんのこれしき・・・!」
彼は立ち上がろうとしたが足に矢傷を負っていて立つことができない。
「全然大丈夫じゃないよ、ちょっと待ってて。手当の用具がないか探ってくるから」
風魯は先ほど立ち寄った村に引き返すと、負傷した男がいることを伝えて村人から包帯などを貰い再び彼のもとに。
「包帯?そんなの要らぬ」
彼はまだ強がっていたが、傷が剥き出しの状態では細菌が入るので、
「そんなに強がっていないで、巻くよ」
風魯は強引に包帯を巻く。
彼は逃げようとしたが逃げられず、治療を受けた。
「くっ、かたじけない」
「いや、全然大丈夫。私は風魯っていうのだけど、あなたは?」
「俺は馬超だ。・・・と自己紹介したとて無駄だ。俺はもうすぐ死ぬ」
「ん?そんな亡くなるような怪我には見えないけど、もしかして追われているの?」
「ああ。そのもしかしてだ。曹操の大軍が俺を探して迫っている。明日には殺される。だから、あなたも早く逃げた方がいい」
馬超は風魯に逃げるよう促したが、
「えぇ、馬超殿が動けるようになるまで、私も心配で動けないよ」
と、風魯は応じない。
「・・・風魯殿も俺と一緒にいたら仲間と見られて殺されるけど、それでもいいのか?」
「いや、大丈夫だよ。私も幾度となく殺されそうになったけど、こうして生きているもの。今回も何とかなるさ」
「はぁ、俺はもし殺されても責任とれないが本当にいいのか・・・?」
「大丈夫。殺される予定ないから」
「そうですか、大軍がすぐそばにいるのに―よくそんなことが言えますね」
「まぁね」
馬超は死を覚悟していたようだが、その日から曹操軍に異変が起こる。
「ぐわぁ、苦しい・・・」
3つに分かれた曹操軍の中で馬超に一番近い部隊で疫病が流行ったのだ。
おびただしい数の病人が出て進軍どころではなくなった。
さらに・・・
「うわぁ!砂嵐だ!!」
右側を迂回していた部隊は局地的で猛烈な砂嵐に遭遇し身動きが取れず、
さらにさらに・・・
「うへぇ、なんだこの暑さは、耐えられねぇ・・・」
左側を迂回していた部隊は局地的で猛烈な暑さに遭遇。
じりじりとした暑さに倒れる兵士が続出し、温暖な中原生まれの兵士は死に絶えた。
「・・・なぜだ?追手が来ないぞ・・・?」
馬超は不思議に思う。
彼が今、風魯といる場所は天候も安定し、暑いものの倒れるほどではない。
(風魯殿の言う通り、逃げられるかもしれない)
馬超は一瞬希望を感じたが、再び絶望に還る。
(だめだ。乗っていた馬にも逃げられたんだった。歩けるようにはなったが、走ることができない。これでは追いつかれてしまう)
だが、その絶望も束の間。
「馬超殿、近くの村で酒泉の方に行く人がいて馬の後ろに乗せられるみたいだけど、馬超殿は乗る?」
風魯が立ち寄った村で教えられた情報を伝えてくれた。
馬超にとって、再起への道は西涼の奥地に行くことしかない。酒泉地域はまさに奥の方であり韓遂や一族の馬岱などもいると思われるため、行ければそれに越したことはなかった。
「おお、そうか!ありがとう風魯殿!!」
馬超は村人の馬の後方に跨り、一緒に酒泉郡へと向かった。
また、それを見送った風魯は、
(俺もそろそろ帰るかな)
と思い、許靖からもらった地図と自作の史書を握りしめて益州を経由し、荊州襄陽へと帰るのであった。
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