第129話 鳳雛の予見 Ⅱ
「風魯大将軍!あの孔明がひれ伏した才知をこの目で見たいのです!」
「この私と語り合ってもらえませんか!?」
仕官早々風魯に頼み込んでいるのは龐統だ。
彼は孔明が敵わないと言った風魯という存在に興味津々であった。
「語り合おうと言われても、語り合うことなんてないよ」
風魯がそう断っても龐統は諦めずにつきまとうので、
(ここにいるのも嫌だなぁ。鬱陶しい・・・)
と風魯は感じていた。
一方の龐統は風魯に相手にされず茫然と夜空を眺めていた。
(なぜ風魯大将軍はこの私を相手にしてくださらないのか・・・)
そんなことを思い星空に耽っていると、ある異変を感じた。
(むむ、何やらあちらの星が変だ)
星で占う術を会得している龐統はある方向の異変に気付く。
(北西だ。荊州の北西、西涼で異変が起こる!!)
こうしてはいられないと龐統。
すぐに劉備に会うと、そう遠くないうちに涼州で異変が起こると伝えた。
「西涼で異変とな。それはどのようなことが起こりそうなのか?」
「はい。恐らく考えられるのは馬騰と曹操の対立です。馬騰の一党は曹操と関係を築いていますが、自分たちの涼州に踏み入れられるのを嫌っているので、曹操が何らかの理由で涼州に入って軋轢が生じる、という筋書きが考えられましょう」
「ふむ、なるほど」
「特に、馬騰の後継者である
「分かった。だが、その時我々には何ができる?」
劉備の問いに龐統は半秒溜めて答える。
「益州を取ることです」
「ほう」
「曹操が西涼の変で涼州から動けなくなれば、孫権は曹操の後方を襲撃するでしょう」
「そうなれば、邪魔者はいなくなります」
「おお!」
劉備はこれまで、同じ劉氏の益州太守劉璋を討つことに対して抵抗を持っていたが、”そのようなことを気にしては天下に泰平をもたらせない”と考えて覚悟を決めたのが昨今のこと。
そんな中で好機が巡ってこようとしていた。
「分かった。龐統の予見通りにことが進めば、益州に入り巴蜀を得ようではないか」
「はい。それがよろしいかと」
こうして劉備は密かに益州侵攻への準備を始めたが、そこで問題が浮かび上がる。
それは、益州の地図がないこと。そして先導者がいないことであった。
益州は初めて行く土地なので進軍には地図や先導者が欠かせない。
しかし、元来山々に囲まれて人の往来がほとんどない益州のそれらを探すのは困難であった。
「孔明、これは困った。どうしたものか」
「ここは劉璋の味方を装うべきです。聞くならば、益州の漢中一帯では五斗米道という信仰がはやってその指導者である張魯という男が軍事力を拡大しているといいます」
「彼らの振舞には劉璋も困って手を焼いているとも聞きますので、劉璋の援軍として益州に入り張魯を退治するという名目であれば、劉璋は先導者を送ってくれるはずです」
「一度益州に入れば斥候を送って地勢を調べるなど容易にできましょう」
「なるほど、それは妙案だ」
劉備はその策に賛同すると、早速劉璋宛に手紙を書き荊益の州境にまで使者を走らせた。
州境には劉璋配下の
益州の州府、成都で手紙を読んだ劉璋は配下の
「これは信頼していいものなのだろうか」
主君の問いに厳顔と王累は信じるべきではないと言い、張任と張松は信頼できると言った。
残る法正は悩んでいる様子であったが、
「法正はどう考える?」
と劉璋がさらに問うと、
「信頼するべきだと思います」
と答えた。
実のところ、法正は劉備が益州の乗っ取る算段だと見抜いていたが、
(この主君ではどのみち太刀打ちできない)
と考えて決断を下した。
とはいえ苦渋の決断であった法正は自らに言い聞かせるように”信頼するべきだ”と答えたのである。
だが、そんなこと知る由もない劉璋は法正の意見を容れて劉備を迎え入れる準備を始めた。
劉備や孔明らも劉璋からの返答を読んで軍勢の手配を進めたが、その頃であった。
「な、な、なんと・・・」
孔明が立ち寄った風魯の屋敷の扉に貼ってある紙に書いてあった文言。
”旅に出ます。探しても分からないだろうからよろしくね”
龐統の付きまといに嫌気がさした風魯は一人、旅に出たのである―
※人物紹介
・馬超:顔は色白で唇が際立つ紅色なことから
・許靖:若き日は人物鑑定家の親族と共に人物鑑定をし、その後は劉璋の下で郡の太守を務めていたと伝わる。
・法正:劉璋配下で随一の才知を持ち、後に劉備の配下となり活躍する。
・張松:劉璋の重臣であり、曹操のもとに使者として向かったこともある。
・王累:劉璋の重臣で主君のことを思い最期まで劉備の入蜀に反対した。
・張任:劉備と劉璋が抗争になった際に劉備軍を苦しめることになる武将。
・厳顔:老将ながら張任と共に戦い劉備軍を苦しめることになる武将。
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