第126話 周瑜、憤死 Ⅱ
「あれ?もしかして龐統殿?こんな夜中に会うなんてね」
眠りにつけず散策していた風魯は阿斗を連れ去ろうとした龐統に遭遇。
「ん、阿斗様を連れてどこかへ行くの?城内は阿斗様がいないって大騒ぎだけど・・・」
風魯の問いかけに龐統は答えない。
いや、答えられないのだ。
彼は今、計画が露呈したのかと思い内心、激しく動揺していた。
(こうなれば風魯を斬ってでも・・・!)
彼はそう思ったが、かつて孔明が風魯を天才と褒め称えたことを思い出し、
(まさか一人でふらふらと出てくるはずがない。何か策があるに違いない)
と周囲に注意を向けたその時、両側の草むらから気配を感じた龐統。
(伏兵がいるってことか。残念だがこのまま連れ去るのは不可能だな)
彼は抱きかかえていた阿斗をそっと降ろすと一目散に西へと逃げていった。
その草むらの気配はただ単に風が吹いただけだったが、風魯が天才という話から龐統が勝手に伏兵の存在を作り出したようだ。
「孔明殿、城外に阿斗様がいたから連れてきたよ」
風魯が阿斗を引き連れて戻ると孔明は安堵した表情で二人を迎えた。
そして風魯はこの事件に龐統が関わっていたことを孔明に伝える。
すると孔明は風魯の対応に謝意を示し、またこのように予言した。
「龐統は近いうちにこの荊州に来るでしょう。それも仕官という形で」
「な、何をするのです・・・!」
呉の屈強な兵士に手足を取られてジタバタしているのは孫尚香。
母の呉夫人が危篤と聞いて建業郊外まで来たが、そこで孫権の指示を受けた丁奉の部隊に囚われたのだ。
「母に・・・、危篤の母に・・・っ、最期だけでも会わせてくださいっ」
彼女の懇願を丁奉は鼻で笑い、真実を伝えた。
「呉夫人は至って健康です。何の心配もいりません」
「ま、まさか・・・、私をおびき出すために・・・!」
「それ以外に何があると思う?・・・ま、このような受け答えも無意味だ」
「皆の者、彼女を斬り捨てろ!」
丁奉の号令で彼女は斬殺された。
また、呉夫人にはこの内容を一切説明せず、呉夫人は亡くなるまで娘を気にかけた。
孫尚香が斬られたとの噂は荊州にまで及び、劉備は悔しがる。
(私が相手の罠にかかり江南に向かわせたせいで彼女は亡くなってしまった・・・)
劉備はかなり気落ちしたが、側近の簡雍が”ご子息が助かったのですから、それでいいと思うべきでしょう”となだめてようやく前を向いたものである。
その時である、荊州東部から斥候が慌てて帰ってきたのは。
「大変です!呉の軍勢が益州巴蜀に向けて出陣しました!」
「ついに来たか・・・」
劉備はそうこぼすとすぐに孔明を呼んだ。
「孔明、孫権はこの荊州を通って益州に攻め入る姿勢だ。相手は荊州で我々が抵抗するのを分かっていての進軍なのだろうか?」
「恐らく、抵抗を封じ込めながらの進軍なのでしょう。それなら、我々は相手の抑え部隊の撃破を目指すべきです」
「ただ、呉が荊州の将兵に揺さぶりをかけると厄介です・・・」
と、孔明が危惧した事態が実際に起こってしまう。
「なあ聞いたか。この荊州は数年後には呉の手に渡るみたいだぞ」
「ああ聞いた聞いた。劉備様はあくまでも呉から借りているだけみたいだな」
「だから戦で功績立てるなら呉軍の中で戦ったほうがいいよな」
「確かに、劉備軍で功績あげても太守が呉になったら一からだもんな」
「そうそう、そういえばこんな書状が出回っているのだよ。今、呉軍に加勢すれば優遇するっていう内容さ!」
「おお、そりゃあみんなで呉軍に入ろうじゃないか。劉備なんか捨ててかまわねぇ」
このように荊州の将兵が劉備を捨てて続々と呉に走り出したのだ。
これにより劉備軍の戦力は半減し、周瑜率いる呉軍が荊州入りしても抵抗できる状況ではなくなってしまった。
劉備の軍師孔明も対応策が閃かず困り果てて、遂には風魯にも尋ねてきたものである。
「風魯大将軍!この状況をどうすれば打開できると思いますか!?」
孔明がすがるように聞いてきたので風魯も困り果てたが、何も答えないのも悪いので一言。
「呉の敵を動かせばいいんじゃないの・・・?」
風魯は適当に言ったが、孔明は真剣そのものなのでさらに聞いてくる。
「呉の敵といえば曹操!これをどうやって動かすのですか!?」
「ええぇ、呉に曹操が来たと勘違いさせるとか?・・・わからないから黄月英殿にでも聞いてよ・・・」
風魯はその場しのぎに黄月英に聞けといったが、孔明は風魯の適当発言を本気で考えて、
(なるほど、黄月英が呉に曹操来襲を勘違いさせる、その方策を持っていて風魯大将軍がそれを指し示しているに違いない・・・!)
孔明は一目散に屋敷にいる妻、黄月英に会いに行くのであった。
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