第123話 焦る風魯、ダメもとで趙雲を笑わす Ⅳ
「あら?何かしら。出先からの手紙だなんて珍しいわね」
ここは荊州の襄陽。風魯の妻である彼女は使者に渡された手紙を開きながら呟く。
「え・・・、今生の別れになるかも・・・!?」
彼女は慌てて船を用意すると留守居の孔明などに声もかけずに出立。
航路で建業に向けて供回りに船を漕がせた。
(川の流れのまま行けばいいからそう日数はかからないけど、なんとか無事でいますように・・・!)
彼女は供回りが疲れてくると自らも船を漕いで進む。
もう川の流れに任せてなんかいられない、という思いであった。
「どうした趙雲殿。甘寧が誘っているではないか、こちらのことは構わずに行って大丈夫だぞ」
ところ変わって孫呉の中枢、建業。
甘寧の誘い、実際には劉備からの引き離しを受けて趙雲は封書1を孔明からの策と思って開いた。
しかし、内容が右隣の呉夫人を抱きかかえろ、とのことだったので躊躇していたものである。
「さあ趙雲殿。行かれるがいい」
孫権が趙雲にその場を離れて甘寧の誘いに乗るよう圧力をかける。
(誘いに乗れば劉備様と私が別々に殺され、一緒にいても守るのは難しい)
(よし、腹は決まった!孔明殿の渾身の策を用いる!)
意を決した趙雲は呉夫人にサッと近寄ると床から浮かして抱きかかえた。
「ややっ、呉夫人を人質にするつもりかっ!」
孫権の隣に控える周泰や
シュッ!シュッ!シュッ!
呉夫人の座っていた床から三本の槍が突き出てきたではないか。
「大変だ、床下に曲者がいるぞ!」
呉の将兵は慌ててそれを探し出し捕まえて拷問を加えた。
すると、曹操の”婚儀を阻止するために祝宴を血で汚してこい”との命令でやったと白状。
曹操としては劉備と孫権が手を組むのを嫌がってやったようだが、これが逆効果となる。
「さて、曲者も消えましたし劉備一行を成敗しま・・・あ」
孫権は気が抜けたその一瞬に企みを漏らしてしまった。
すると、先ほどまで趙雲に抱かれていた呉夫人が・・・
「ええ!?彼らを殺すために誘ったのですか!?他の方はともかく趙雲殿を殺すのは許せません!」
その企みを聞いて怒り出す。
どうやら趙雲に惚れてしまったようだ。
(他の方はともかくってわしは!?)
劉備は突っ込みたくなったが、考えてもみれば趙雲は劉備の護衛である。
二人を引き離せてないこの状況において、趙雲を殺さなければその先はないのだ。
「ええい呉夫人が口出しすることではないわ!ここは甘寧が・・・」
猛将甘寧が劉備や趙雲のもとへ歩き出したが、呉夫人がその前に立ち塞がり、
「彼を殺すなら私も一緒に殺しなさいっ!」
と甘寧を逆に睨みつけた。
さすがの甘寧も孫権の母である呉夫人を斬ることはできない。
しばらくの間、その場の時間が止まる。
だが、遂に孫権は意を決して甘寧に、
「我が母のことは構うな。邪魔をしたら切り捨ててほしい。とにかく劉備と趙雲の首が優先だ」
と伝える。
「わかりました!」
甘寧はいよいよ形相を厳しくして呉夫人を睨みつける。
すると呉夫人は圧に負けて横へ倒れてしまった。
(まずい。このままではやられてしまう)
ここでついに趙雲は封書2を開く。
そこには、”とにかく大笑いすべし”と書かれていた。
孔明の秘策と思われるその作戦に趙雲はまたしても凍り付く。
果たして、趙雲はこの切迫した状況で腹を抱えて笑い出すのだろうか。
そして、趙雲の陰に隠れて怯える風魯の運命や如何に―
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