第109話 弓矢の黄忠、盾の魏延 Ⅲ
風は止み、夕陽が人影を生む。
弓矢の名手として名を馳せる黄忠は夕焼けと相対し、赤い太陽の下を歩く風魯に狙いを定めた。
(風魯大将軍には申し訳ないが、犠牲になってもらう!)
その瞬間、ピュッと矢が放たれ、呑気に歩く中年男目掛けて飛翔する。
風魯万事休すと思われたが、
「あ、こんなことろに綺麗なお花が」
と風魯が足元に可憐な花を見つけて身を屈めたその上を矢が通過し、彼には当たらなかった。
(なんと、このわしの矢をかわすとは。ただ、まだまだ!)
黄忠はすかさず二の矢を放つ。
それは先ほどより低い軌道で屈んでいる風魯を目指したが、
「ひゃっ、変な虫がいるっ」
と風魯が虫に驚いて飛び跳ねたその足の下に矢が到着し、虫を一突きにした。
(あー、びっくりした。・・・ん?虫に矢が刺さって死んでる・・・?)
風魯は矢が刺さって絶命した虫を見て怪しんだが、ふと後ろを見ると黄忠が弓矢をつがえていたので、
(あ、黄忠殿が俺に代わって虫を退治してくれたのか。流石は弓矢の名手だ)
と勘違いして何事もなかったかのように歩き出す。
(くっ、またしても避けられたか。ただ、次こそは・・・!)
黄忠は三の矢を放った。
それは風魯の頭部を一直線に捉えたが、
「ひゃっ!木から蓑虫がっ」
目の前の木から蓑虫が垂れてきて驚くあまり虫を避けた風魯。
黄忠の放った矢は先程まで頭のあった所を通過し、蓑虫に突き刺さった。
(あー、また黄忠殿に助けてもらっちゃったなぁ。明日お礼を言いにいかないと)
そんなことを思いながら風魯は歩みを進め、遂に黄忠の視界から消えたものである。
(風魯大将軍の身のこなしには参った!このわしが射殺せなかったのは生まれて初めてだ!)
黄忠は悔いながらも風魯の身のこなしに敬意さえ払って立ち去ったのである。
その翌日・・・
「すいません、昨日訪れた風魯だけど、黄忠殿はいる?」
風魯はお礼の品として菓子折りを携えて黄忠の陣所を訪れた。
「な、何!?風魯大将軍が来てるじゃと!?」
黄忠はたいそう驚き、すぐに陣所に案内した。
(昨日のことでわしを恨んでいるだろうに、菓子折りを持っているということは再三のお誘いに違いない!ああ、なんと心の広いお方か!)
黄忠は勝手に大きく心を動かされ、また韓玄には毎日のように叱責されていることを思いだした。
そう、昨夜も・・・
「黄忠!なぜ風魯の奴を殺さなかった!おぬしの手にかかればいとも簡単に殺せたであろう!」
と韓玄に延々と叱責され、彼はげんなりしていたところである。
「黄忠殿、お菓子だけどもし良ければ・・・」
風魯がそう言って菓子折りを渡そうとしたその時である。
黄忠が深々と頭を下げたのは。
「わしは劉備殿のもとにつく!そして風魯大将軍と共に仕事がしたい!だから、これまでの無礼は許してくれっ」
黄忠は劉備に従うと明言したのである。
「え、味方になってくれるの?どうしてこうなったかよくわからないけど、嬉しいなぁ」
こうして、黄忠は劉備に内応した。
さぁ、残る男は盾の魏延なのである―
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